第6話

「ところでさ、このウォーハンマー持てんの?」


 俺がこれからの無双生活について考えてながらニヤニヤしていると、薬屋が夢のない話をしてきた。

 これだから残念イケメンは困る。ラノベ主人公かよ。


「俺たちの冒険はこれからだ……え、なんて?」


「そのセリフは打ち切りしちゃう時まで取っとけって。そうじゃなくて、このウォーハンマーめちゃくちゃ重そうだけど持てるの?っておもってな」


「モテる?」


「モテはしないんじゃないか?……そうじゃなくて持てるか、だよ」


 まぁ実際はモテたい以前の問題なんですけどね……じゃなくて、あんまり俺の固有スキル様を舐めないでいただきたい。

 これで持てなかったらもうそれはただのゴミスキルっ!何のための固有スキルかっ!?


 俺は王者の風格を全身に纏い、ウォーハンマーの持ち手に手を掛けた。きっと今俺の体には金色のオーラが溢れ出ている事だろう。

 ふふふ、見てろよ薬屋。これがシルヴァちゃん伝説の始まりだ。


「ふんぬっ!」


 ハンマーは微動だにしなかった。

 あ、あれ?おかしいな。一ミリも動かない?そんな馬鹿な。


「ふぬぬぬぬ……っ!」


 いくら力を入れてもうんともすんともしない。これ本当に動かせるやつ?実は破壊不能オブジェクト的な何かだったりする?


 俺がウォーハンマーと熾烈な争いをしていると、薬屋が苦笑いをして話しかけてきた。


「やっぱりなー。俺がギリギリ両手で持てるようなもんだもんな。言っちまえばこれ鉄の塊みたいなもんだからな?シルヴァみたいなちっちゃいやつに持てるわけないよなぁ……あーお金どうしよう?」


 そのつぶやきをきいて、俺は少しムッとなった。

 俺はまだ本気を出していないだけなのだ。多分。


 そうして薬屋に怒りを覚えたその瞬間に、


「ふんぬのおぉぉ!?」


「ふおおおっ?!」


 俺の振り抜いたウォーハンマーがちょうど反対側にいた薬屋の真横の地面に突き刺さった。


 ハンマーを持ち上げられたのだ。それどころか結構楽に振り上げることができた。

 ど、どういうこと……?


 ま、まあとにかく、薬屋に痛い目見せられたからミッション達成フルコンボだドン。


「頭割れる……おい、シルヴァ……何をした?」


「薬屋にムカついた」


「怒りの力ってすげぇ!」


「今度は尖ってない方側でやってみる?」


 ちなみに潰す側でこれをやっていたら面積の問題で間違いなくさっきの一撃は薬屋の肩を片方亡き者にしていただろう。

 あっぶねー流石に冗談じゃ済まなくなる。


 で、いきなりハンマーを持ち上げられたのは怒りの力?

 いやいや、正確には固有スキルの力だ。

 このスキルの説明文を思い返していただきたい。

 マイナー(定義は使用者率が3パーセント以下)の武器を使うと、現在戦っている相手の合計値より総合的に上昇効果、というものだ。


 では具体的に戦っているの基準はどこからか?

 恐らく今の状態を見るに、俺が相手に敵意やら殺気やら、とにかくあまり良くないものを抱いた時だろう。


 と、するのなら?


 薬屋に軽くとは言え敵意を覚えたのだ。

 その瞬間に俺と薬屋のステータスの差に固有スキルの能力でそれぞれのステータスにかかっていた補正値の全て・・・が俺の腕力か筋力か、詳しくはわからないがまあそこらへんのステータスに極振りされた。


 その瞬間は薬屋の筋力値を何倍も上回っていたのだ。

 総合的に上昇効果ってやつは恐らく、俺が望んだ数値に相手と俺の差プラスアルファが振り分けられる、ということだろう。


 と言うか、そうでなければ状況の説明がつかない。

 なんとも複雑怪奇なスキルだ。よくわからん。


「まあ、うん」


「なに?」


「お前が怒りの力で覚醒したのはわかった」


 ちげえよ。

 怒りの力で覚醒よりも、はるかに凶悪なスキルである。

 このスキル、やばすぎ。RTAとかで悪用されそう。


「固有スキルのおかげ」


「何でもかんでも固有スキルのおかげにするなぁ……一切合切、どういうスキルなのか俺には皆目見当もつかないな」


「人生なんてそんなもん」


「良い事っぽい風に言って話を閉めようとするな」


 そこそこ良い感じに嘘は言わずにごまかせそうだ。

 人生なんてそんなもん。いいよね。

 誤魔化すのに最強の言葉だと思ってるよ。


 それにしたって不便なスキルだ。

 今顔に出さず実験してみたが、自分より強い相手に敵意を抱かないと効果が全くない。


 え?俺より基礎能力値が低い奴がいるのかって?

 なめんなよ。

 そこにいるわんこよりは流石に強いからな。……多分!


 さらに、この敵意は相手をはっきり認識していないと発動されない。

 俺がここで実際に会ったことのないスーパーハイパーアルティメットドラゴン(もともとそんなドラゴンはいない……と思う。少なくとも神様wikiにはいない)にムカついたところで俺のステータスは上がらないのだ。


 なるほどわからん。

 正確には分かればわかるほど混乱してくる感じだ。

 俺の処理能力の低さよ……


 とりあえず今俺がハンマーを持つには薬屋にムカつくしかないってことだ。


「薬屋」


「え?なに?」


「薬屋に敵意を持たないとハンマー持てない」


「おお、全く意味がわからん」


「ウザいこと言え」


「貧乳チビ、さっさと借金返せや」


 軽々とハンマーを持つことができた。なんと片手だ。


 俺は別に貧乳とかチビとか気にしていないはずなのだが、実際に言われるとムカつくのは何で何だろうね。

 女の子ってそんなもんなのだろうか。ちょっとよくわからないです。


「薬屋」


「な、なあに?殺さないでね?」


「くだらないこと言うな。金稼ぎに行く」


 その日、俺は初めてダンジョンに進軍したのだった。うぃず薬屋。


「ギャッ」ズドンっ!


「うわ、えぐ……」


 緑色の肌で小柄な背丈、気持ち悪い顔のいかにもなゴブリンが出てきたが、全部叩き潰して地面のシミにしてやった。いやーぐろい。

 俺がグロ耐性無かったら吐いてもおかしく無かったな。ゲロインフラグはお断りだ。


 ……あっても、こんなにいやな気分になっているのだ。正直吐きそうだし、手足も震えている。


 ちなみになぜ初めて見たのに何のモンスターかわかったのかといえば、安定の神様wikiのおかげだ。

 神様wiki大好き……


 たかがゴブリンだからか、時給ではそんなに高く無かった。

 なんかゴブリンの体から出てきた石を拾っていたが、詳しくはよく知らない。もしかしてあれが魔晶石だろうか。

 まあ、そこらへんはおいおいだ。


 一応、その後も何体か狩って行った。

 俺としてはそんなに急いだつもりはなかったが、薬屋曰く「異常なスピードで討伐していってる」らしい。


 やばいさっきの文章厨二病みたい……はずかし。

 俺、またなんかやっちまった?みたいなやつ。


 因みにだが、この世界にはダンジョン、と言うものがあり、ダンジョンの中だけにモンスターが生まれる。


 基本的に特例を除いてダンジョンからモンスターは出てこないが、その特例は放置すると意外とすぐにやってくる。


 いわば、モンスターの飽和状態と言うべきか。

 ダンジョンの中に入りきらなくなったモンスターが一気に外に出される事が放置していると起こる。


 そして、それを阻止するのが冒険者の役目だ。

 討伐をして行きながら、どんどん奥の層まで攻略していく事で報酬が美味しいモンスターを狩る。


 ゴブリンなんかはほぼ全身ただのゴミだが、中には使える素材となる魔物もいる。

 そう言うやつらは解体して、素材をギルドに持っていくと買い取ってくれるらしい。

 で、ギルドはその素材を高値で売る、と。良い商売してんなぁ。羨ましい限りだ。


「ウォーハンマーエグすぎだろ……あんなオーバーキル、初めてみたぞ?」


 薬屋は俺の初討伐デーを見て、軽く引いていた。

 エグかったことに関しては同意せざるを得ない。


「どや」


「でもこの倒し方だと、ゴブリンはともかくとして、他の魔物の素材取れなくなるけど、どうするんだ?」


「反対側で思いっきり串刺し?」


「考える事がエグすぎるんだよなぁ……」


 ハンマーの平たい部分の反対側は鋭く尖っている。

 それを素材じゃないところにフルスイングすれば、ぶっ刺さって殺しつつも素材は傷つかない……多分?


 完璧な作戦だ。勝ったな。


 明日以降はもう少し討伐の難易度を上げて、さっさと借金を返すとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る