第8話

「嬢ちゃん!ドアの前にお湯、置いとくぜ」


「う、うん。ありがとう……」


 この世界にお風呂はない。

 正確には高級なものとされているため、王族や貴族が持ってる感じだ。


 テルマエロマエみたいに公共の風呂屋があれば良いのに……とも思うが、今の中身男の状態で女湯に入らなければならないと考えるならば、まだ今の方がマシかもしれない。


 まあそういうわけで、お風呂がないからお湯と布で体を拭くのがこの世界のメジャーだ。

 だから俺の体も俺が拭かなくてはならない。


 女の子の体を、男の俺が、だ。


 どちらも俺だから気にする方が馬鹿らしいと言ってしまえばそれまでではあるのだが、やっぱり頭ではわかってても今までの固定概念とか、倫理観に背くのは非常に嫌な感じがする。


 自分の体だからなのか、背徳的な〜みたいなエロスが湧いてこないのも良いのか悪いのか、って感じだ。


 服を脱ぐ。パサリ、と服を地面に置いてまず上半身だけ裸になると、布をお湯に浸す。


「っん、ふ、ん……」


 ゆっくりとゆっくりと身体を丁寧に拭く。


 ここを適当にやると次の日肌が荒れまくるから、本当に慎重にやらねばならない。

 せっかく綺麗な肌なのに荒れてしまうのは少しもったいない。痒いのも痛いのも嫌だし。


 鎖骨のあたりから、腕、脇、背中……というようにすこしも汚れの汚れも残さないように丁寧に拭く。


「ふん、んう……」


 なぜか、体を拭いていると毎回ちょっとエロい声が出てきてしまう。

 貧乳は敏感、と言うがまさか、それ以外を拭いているときですら声が出るとは思わなかった。


 質の悪い服とはだったら衣擦れだけで声が出てしまうのでは……?と言う懸念があるが、気にしたら負けだ。


 おへそを拭いたら、次はいよいよ胸を拭き始める。

 正直ここが上半身では一番メンタルを削られる。


「んんっ」


 うっすい胸のくせにめちゃくちゃ柔らかい。

 なんかふわふわしてる、みたいな感じ。

 本当にあばら骨入ってるか心配になるレベル。


 先端にある蕾にはなるべく触れないようにして、優しく拭いていく。


「ふう」


 上半身が終わった。となったら……


「次は、下半身だ……!」


 異世界なんだから、良い感じに体が綺麗になる魔法が欲しいものだ。

 俺は仕方なく、スカートを脱いでその奥にある純白のパンツに手をかけた。


 ……


「……ようやく終わった」


 今更ながら女になってしまったことを後悔している。

 トイレですら罪悪感を感じてしまうのだ。


 ただそれでも見慣れる、と言うことはない。

 一週間しか経ってないし。


 それよりも俺が怖いのは、あれだ。

 生理。めっちゃきついってネットで書かれてたし。

 そもそもこの体に生理が来るのか?と言うのも疑問だ。こないならこないで怖いし。

 愛、育めなくなってしまう。


 とはいえ、入れる穴は確かにあるのだ。

 怖いからあんまり触ってないから詳しく中がどうなっているかはわからないが、見た感じちゃんとある。

 初めて見たけど。多分、これがそうだと思う。


 入れる穴があるってことは、入れられる側なわけで……

 とはいえ、俺はホモではない。男に抱かれるなんてノーセンキューだ。


 ……考えても仕方ない、明日も血みどろだし今日も早く寝よう。


 この世界に来てからかなり生活習慣が良くなった。

 娯楽がないから遅くまで起きてる理由がないのだ。

 そうなると、起きる時間も早くなるわけで、今ではすっかり早寝早起きな健康体質だ。


「おやすみ」


 掛け布団をかぶって、目を閉じた。


 異世界に来て一週間、課題はたくさん見つかっている。

 女にも近づけないし。

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