ファム・ファタール、そして僕らは15品の高貴なペニス

 稀代の魔性の女ファム・ファタール【テロリスト・オブ・ペニス】の恋愛遍歴を紹介しよう。


 彼女の初経験は5歳。一人目の男【デカマラのナラファナ】に誘惑され、近所の林でファックした。彼はザ・テロリストの隣に住んでいる大学生だった。

 二人目の男は、【ねじまき銃のウェドン】。彼はその名の通り、きりもみ状にねじられた珍重なちんちょを持っていた。ねじまき銃の弾丸に貫かれた時、彼女は11歳だった。

 三人目は、【幽霊のジョン・パスタ】。ラテン系アングロサクソンを名乗る奇妙な男だったようだが、実在していたかは不明である。少なくとも、ザ・テロリストの頭の中には彼との情事の記憶が克明に刻まれているらしく、本人の手記『田中モルゲンは死んだとよ???』にも、正確に三人目の男としてジョン・パスタの名が挙げられている。

 四人目は、【グラマラス・アルバトロス】。人間のジビエが大好物の若き女性だった。BBQイベントの主催者としても名高く、当時のうら若きザ・テロリストも何度か催事にお呼ばれした経験がある。グラマラス・アルバトロスの出す肉の名は、ジョージ、エマ、ソフィー、その他もろもろ。ザ・テロリストが口にした肉の中には、ウェドンという銘柄の肉があった。他意はない。

 五人目は、【畜産ちんぽ】。男はそれ以外の名を持っていなかった。

 六人目は【田中モルゲン】。交際歴で言えば最も長い年月を共に過ごした男だ。場末のバーで働く男バーテンダーだった彼は、たまたま店に訪れた旅客のザ・テロリストを見初め、初対面ながらに次のような愛の告白をした。

「俺様の特大マグロを食らって潮吹きと縁のない女はいないかどうか、知っているのかいな? 生牡蠣食って蕁麻疹止まらないんですけど、これあなたとの運命に出会いに胸こがれてるのですかいな?」

「ただの食あたりでしょ? 金玉しまいなさいよ」

 二人はこうして恋人同士となった。ちなみに、二人の初デートで食べた生牡蠣にも田中モルゲンはあたっている。彼はその時死んだのだ。埠頭で死に絶えた彼を、ザ・テロリストはいともたやすく蘇生した。彼女には魔法の力があった。

 本人の手記によると、彼女の扱える魔法は次のように定義されている。

「私が、それができると信じられるあらゆる魔法は、生卵を片手でかち割るみたいに、たやすくできる。これが生卵でなくてゆで卵になると、もうダメ」

 実際、彼女は目を疑うようなあらゆる奇跡を起こしてきた。この国際社会で食糧問題の9割方が解決に至っているのは、彼女が生み出した「万華鏡殻性燕麦オートマ・オートムギ」のおかげなのだ。その穀物の豊かさたるや、一度発芽すれば五千年分の食料は下らないと言われる。それも万華鏡のように多種多様な品種が次々に芽生えるらしい。

「だから、私は絶対に茹で卵は食わない」

 生前、彼女は口酸っぱくそう言っていた。

「あなたにとって魔法とは何ですか?」

 増殖するサイレージ【ヒトデ・サイレージ】の完成披露会見にて、ある男性記者が彼女に尋ねた。

 彼女の回答は、次の通りだった。

「あんたらのような醜いソーセージにも分かりやすく教えてあげるわ。

 まず、あんたらの股ぐらにはいつだって、きったない肉質の細いホースがぶら下がってる。あんたらが小便を撒き散らす時には、いつだってそのホースの口を便器に向ける。

 あんたらが死にたいくらいの尿意を抱いたとき、急いで小便器の前に立って、そのだらしない肉棒を晒すでしょ? でも、あんたらはそこから数秒経ってからようやく小便をちょろちょろと始める。さっさとすればいいものを。

 違うのよね? あんたら、勢いが無きゃしょんべんが尿道を通らないんでしょう? けきゃきゃきゃ、愚かな心太ところてん。ス・ゴ・イ・デ・ス・ネー。けきゃきゃきゃ、思わず所さんのモノマネしちゃったじゃないゲボクンニ。けきゃきゃ。

 要するに、それは道理なの。この世には道理というものがある。あんたらが何かを欲棒した時、それを実現するためには、道理の道を通る必要があるのよ。小便への欲望が尿道を通り、やがて便器にSPL☆ASH!!するように。

 私の魔法は一味違う。私の魔法は、あんたのちんぽを根本から先端に至るまで輪切りに切り裂いて、先端を根本に縫合するってことなの。私にとっての魔法は、欲望と実現の間にある道理の距離を縮めることに他ならないの」

「どうもありがとう。最後の言葉が聞ければそれで良かったよ」

 この男性記者は分身気質の持ち主で、合計で8つの人格を持っていた。

 彼はそのうち、ザ・テロリストの恋人となった。その話はまた今度にしよう。彼は彼女にとっての7〜14人目の男だったのだ。

 話を元に戻すと、田中モルゲンはザ・テロリストに蘇生され、新たな人生を始めた。

 その話しはまた今度しようじゃないか。

 ともかく、ザ・テロリストはそういう生涯を送って、やがて死んだのだ。

 いかなる魔法でも死に争うことは叶わない。

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