第21話 愛する時は一切の心残りを捨てよ。
翌朝からあたしたちの世界は一変した。
朝起きたら一番に
でも学校ではあいかわらず他人のふり。そんな中、二人だけのサインを慧が考案した。目があったら前髪に触れる、というものだった。
慧の体調が悪くなったときはあたしが率先して保健室まで送ってやる。いつの間にかあたしは保健委員でもないのに“
保健室では時折
そしてもうひとり、胸が苦しくなる相手が一人。
岡屋初美。
飯岡君を挟んで隣の隣に座っている初美とも目が合う事もあったけど、その度初美は怒りを含んだ眼を逸らす。初美の心を穏やかにしてやれるのはあたしたちじゃないという事は分かってはいるけど、それでもやはり辛いものがあった。
あたしは今でも時々初美のことを考える。いや、慧と比べてしまう。こんな時初美なら怒っただろうな笑っただろうなって。
そんな気持ちがもし全部、きれいさっぱり消えたのなら、そこで初めてあたしは真正面から慧を愛することができるようになるんだと思う。
あたしたちは放課後や土日はいつも高価な瓶入りサイダーを買って、いつもの公園の東屋に行って、とりとめのない話をした。不思議と話の種は尽きることがなかった。慧の話はよく分からないSFの話だって面白かったし、あたしのスポーツやゲームの話も慧は喜んで聞いてくれた。
時には真面目な話もした。
アスター・シリルは、私たちと戦争をしているアンドロイド連合(※1)に粛清され破壊されただろうと慧は言う。でも、あたしはそうは思わない。きっとアスター・シリルの“心”(※2)に共鳴するアンドロイドたちもいて今はともにどこかで身を潜めているに違いない。実際アンドロイド連合内に内紛があるらしいとニュースでも言っていたし。
すると慧は困った顔をしてアスター・シリルの“心”は疑似的なものであって、人の心と近似であったとしても同一ではないと断言した。
でもあたしはこれについてもそうは思わない。慧の考え方は合理的かも知れないけれど、それではあまりに救いがないし第一空しすぎる。
あたしたちは、宇宙に取り残されたこのちっぽけな筒状の島世界の中でこれからどうなるんだろう。とうに耐用年数の過ぎたここで空気漏れや大気と水質と土壌の汚染に怯えながら生き続けて、どんな未来が待っているんだろうか。
そうしてあたしたちは漠然とした不安を胸に抱えながら、二人肩を寄せ合ってまどろむ。
▼用語
※1 アンドロイド連合:
「ルカ・ロシュの惨禍」を経て人類からの自立を希求したアンドロイドたちは、ついにアンドロイド連合を成立させ人類統合政府と熾烈な戦いを続けている。目下惑星ローワンの七割以上を占拠し、人類より優位に立っている。これによって人類統合政府によるコロニーから惑星ローワンへの移住計画は停止中である。
アンドロイド連合はアンドロイドにとってのカリスマであるアスター・シリルを擁立しようと試みたが、失敗した模様。現在、その彼女の消息は人類統合政府もアンドロイド連合も把握していない。
※2 “心”:
感情型アンドロイドに時折発生するバグにより、まるで心と見紛う情緒を獲得するアンドロイドが生まれた。人間と等しい権利を求めるアンドロイドが増え、ついにアスター・シリルが基本的人権を獲得するに至った。
もっともアンドロイドたちのこうした反応に反発する人間の方が圧倒的に多く、両者の深刻な対立を生み出していた。
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