第17話 想う人あらば盾となるべし。

 生明あさみさんに向かって全力で突進する初美。右腕をすっと構える。


 まずい! あいつが本気出したら骨の1本や2本じゃすまない!


 そう思うと反射的にあたしも駆け出していた。生明さんと見矢園みやそのは初美の殺気に気圧されたか身体が固まって身動きが出来ないでいる。そう、殺気。今の初美にははっきりとした殺気を感じる。あたしが間に合わなかったら、あいつ絶対生明さんを殴る!


 あたしはスタートが出遅れていたけれど、必死な時って思った以上にやれるもんだな。なんとか初美に追いついて下半身にタックルをかけた。ただ、本気になった初美を取り押さえる自信はなかった。すぐ起き上がると初美をまたいで飛び越し、生明さんたちの前に立ちはだかる。膝をついて肩で息をする初美の眼光は更に強まって、殺気を超えた殺意へとその色を変えぞっとするほどギラギラしている。


 全員に緊張の糸が張りつめている。怖くて身がすくむ生明さんと見矢園みやその。ここにいる初美以外の三人は蒼ざめて冷や汗が浮かび恐怖で息が上がっている。右腕を構えたまま歯を食いしばり、真っ赤な顔で怒りのような恨みのような感情に震えている初美があたしをにらんでいる。

 鬼の形相ってこういうんだな。

 初美、あたしの事で苦しくて苦しくて鬼になっちゃってるんだ。そう思うと私も本当に苦しくなってきた。

 私はその前でゆっくり両手両足を広げた。生明さんを守りたい気持ちと初美に暴力をふるわせちゃいけない気持ちでいっぱいだった。初美に本気で打ち込まれたらあたしだってただじゃすまない。冷たい汗が首筋から背筋を伝う。とにかく今の初美は尋常じゃない。何をしでかすかわからない。恐怖が走る。


「……どいて」


 アンドロイド兵が持つ零下七十度の単分子ナイフのような鋭利で冷たい初美の声にあたしは改めて背筋が冷たくなる。生唾をごくりと飲んでようやくあたしも声が出せた。


「どいたら、そのあとどうするの」


佑希ゆうきには関係ない」


 初美は瞳の光まるで氷のようだ。


「関係ある。だからどくことはできないよ」


 あたしがなんにも気づけないバカだったから初美をここまで追い詰めちゃったんだ。そう思うとなおさら今引き下がるわけにはいかないと思う。意地がぶつかり合う。


 初美が冷たく燃える目で突きの構えをとった。



※2021年1月30日 誤記を訂正しました。

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