第7話 お節介を甘受する者は心広し。
「私がどれだけ体が弱いか君だって知ってるでしょ、スポーツなんてできるかしら」
そうだった。
「あ、ごめん。でも軽い運動からだったらあたし手伝うよ。校内ジムの使い方なら知ってるし。鍛えたら少しは健康になれるかも」
ふうっとため息を吐いた生明は少し意地が悪そうな目になる。
「お節介」
はっとしたあたし。
「あっ……」
そういえば初美からもお節介だってよく言われるんだ。それと、ちょっと詮索好きってところもある、って嫌な顔をされる時もある。
すると生明はまたふっと笑った。彼女の笑顔を見るたび、なぜだかあたしはどきりとする。
生明は東屋から公園を見渡すと突然話題を変えた。
「ここって人がほとんどいないから、こうして一人で静かに本を読むのに最適なの。だから休みの日にはここに来ることが多い。今の季節ならこの時間帯が一番いいかな」
「そ、そうなんだ」
ということは、明日も来週の土曜日もここに来ればまた生明に会えるってことか。でもいちいちなんでそんなことを考えるのか分からなくて、自分でも不思議な気持ちだった。
「君の方こそなんでこんなところに?」
生明が訝しげにあたしの方を見る。
ふと目が合う。こうしてみるとかなりの、いやすごいめちゃくちゃ美人だな、生明って。きれいだ。
「あっ、あの、ふたブロック先のバッセンへの近道なんでつ、つい……」
なぜか言い訳がましい口調になるあたし。
「バッセン?」
「あ、バッティングセンター」
「ああ」
「うん」
本当はまだこの場にいて生明と話していたかった。理由は分からないけど話していたかった。何だか不思議な気分だ。本当にどうでもいい話しかしていないんだけど、そのどうでもいい話がなんだか嬉しい。
だけどそんな自分がひどく恥ずかしくて、それに生明の読書の邪魔をしちゃいけないという気持ちもあってこの場は退散することにした。
「あの、あたしそろそろ行かなくちゃ」
「あ、うん、そうね。ちょっと引き止め過ぎちゃったかしら、覗き屋さん」
「ごっごめん! もうこんなことしないから!」
「ふふ、いいのよ、冗談。それじゃあね」
「あ、うん。じゃ」
そのままあたしはバッセンに行ったが、また散々な結果だった。
この間と違って、生明の笑顔、生明の笑い声、生明のこちらを覗き込む瞳、というより具体的な生明の姿が頭から離れなかった。
うちに帰ってからもずっと生明の姿があたしの頭の中でちらついて困った。風呂に入っててもベッドにもぐり込んでからも。
ベッドの中で丸くなって生明の姿を思い浮かべているとなんだか胸に甘ったるい何かが湧き上がってくるような気がした。
でもそんな気分に浸るのはとても心地良くて、その甘い気分を胸に抱いたままあたしはゆっくりと眠りに落ちていった。
この気持ちが何なのかもわからないまま。
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