第3話 孤独とは自由にして寂しさ。

 隣の隣の席の初美がこっそり声をかけてくる。隣席の飯岡君は巨体を思いっきり前のめりにしてあたしたちが話しやすいようにしてくれている。彼は初美の為なら何でもする男なのだ。体格の問題と熱帯魚飼育オタでなければまぁいいやつなのかもだけど。


佑希ゆうき、佑希、ねえ大丈夫なの?」


 顔中にハラハラが滲み出ている。初美は時々ちょっときついけど、どちらかと言えばおとなしくて、優しくて、基本争いごとを好まない。そして空手有段者だ。


「全然大丈夫。これで感じ悪い会話も聞かずに済むんじゃない?」


「でも心配だよ。いつもそうやって突っ走っちゃうから、佑希」


 工藤か石田がこちらをチラッと睨んだようだが無視しておく。こいつらはコソコソ嫌味な噂話をするだけで周りを巻き込んだり、つるんでバカな事とかしないだろうから大丈夫、なんじゃないかな?


「まあ、大した事じゃないって。気にしない気にしない」


「大した事だって、佑希ってば……」


 その後数日どころか一週間以上も菊池達は鳴りを潜めていたので、クラスにはしばしの間平穏な時が流れていった。みんなあいつらの噂話や嫌味に辟易していたのだ。 あたしはちょっとしたヒーローになったようで少し、ほんの少し鼻高々になった。みんなからのあたしを見る眼も少し変わった気がする。


 そんな中これまでと全く変わりがないのが生明あさみだった。休み時間は一人で題名もよく分からない紙の本を読み、昼休みも学食で本を読みながらひとり飯を食い、放課後も一人ですっと消えるようにいなくなる。必要最低限の会話さえしないしコミュニケーションも取ろうとしない。そんな生明を見てると、なんだか小さな苛立ちがあたしの中でさざ波のように立って、ずっと収まることがなかった。

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