第10話 路上の日常。膝丈から見た風景。ホームレス編!

 前回までのあらすじ


 駅前で絵を描き始めてから路上を行き来する様々な人たちと関わるようになったGhost。

 今回のエピソードでは路上で出会ったホームレスたちとのやり取りにフォーカスしてご紹介します!




〇エピソード・オブ・ホームレス


・「あ、僕、ホームレス飼ってたことありますよ」


 これは僕の話ではなく、路上で知り合ったミュージシャンCから聞いた話です。彼との出会いはまだ先なのですが、ちょいとフライングしてこのエピソードだけ書いてしまおうと思います。


【プロローグから抜粋】

○ミュージシャンC

 二十代前半。男性。

 駅前で靴磨きをやっていた時にGhostと知り合う。高校時代に地元ラジオ局に呼ばれるくらいの人気バンドに所属。

 ステージ上ではギラギラしているが、素の彼はめちゃくちゃ礼儀正しい好青年。そして愛すべき変態。Ghostの事を『手負いの狼』と呼んだ人。

《所有する芸術スキル》

・作詞、作曲。

・弾き語りスキル。

・靴磨きスキル。

・驚異の下ネタ好き。

・関わる人の多くがファンになる人たらし。



 僕らが活動していた某駅には2~5人ほどのホームレスがおりました。彼らは路上ミュージシャンや路上作家たちと活動場所が同じなので顔なじみになっていくのですが、お互い特に問題を起こすようなこともしないし、理由が無ければ深く関わる事もない……と言った感じでした。

 まぁ、ある意味それが常識なのだと思います。


 まぁ、アホの子である僕は違いましたが……。

 そして僕に負けず劣らずのアホの子、ミュージシャンC。彼は僕の友人の中でもトップクラスの愛すべきアホでした。そんな彼と話していると、ホームレスの話題が出た事がありました。


ミュージシャンC

「あ、僕、ホームレス飼ってたことありますよ」


Ghost

「飼ってたってどういう事よ!!」




 ある日の事、一人暮らしをしているミュージシャンCは近所のスーパーへ買い物に行ったそうです。で、買い物を終えて外に出てみるとホームレスのオジサンが居たそうな。普通ならそれでお終いですが、ここはアホの子、ミュージシャンC。


ミュージシャンC

「声を掛けたんですよね。オジサンどうしたの? 行くとこないの? って」


Ghost

「いや、普通声かけねぇよ!」


ミュージシャンC

「声、かけませんかね……」


Ghost

「……うーん(思案中)。もしかしたら僕も声かけるかもしれない(笑)」


 ホームレスのオジサンは行く当てがないらしく、


ミュージシャンC

「じゃ、オジサン。ウチ来なよ。今、食べ物も買ってきたし」


 と誘われたのでノコノコ着いて行ったそうな。


Ghost

「むしろホームレスのオジサンの方が勇気があるように思えてきたわ(笑)」


 で、しばらくの間、ホームレスのオジサンに衣食住を提供するミュージシャンC。 彼は当時バイトをしていたらしく家を空ける事も多かったそうですが、家に帰ればいつもそこにはホームレス。特に問題もなく奇妙な同居生活が続いたそうです。


ミュージシャンC

「で、二週間くらいたったときかなぁ、急に居なくなっちゃったんですよね」


Ghost

「え? 何かあったの?」


ミュージシャンC

「それがわからないんですよ。多分、遠慮しちゃったのかなぁ、って思ってるんですけれど」


Ghost

「まさか、この話しがちょっと切ない話になるとは思わなかったわ」




・何故だか相手を選ぶホームレスのおばちゃん


 路上で絵を描いているとよく視界に入るホームレス。それがホームレスのおばちゃん。


【プロローグから抜粋】

○ホームレスのおばちゃん

 某駅に出没するホームレスのおばちゃん。いつもぬいぐるみ抱えてる。


 今思えば某駅での遭遇率が一番高いホームレスがこのおばちゃんでした。いつもパンダのぬいぐるみを抱えて、かなり年季の入ったピンクのリュックを手にしている人でした。垢ずんだ日に焼けた顔をして、恐る恐る周囲の様子を伺うようにして、道行く人に声をかけていました。


ホームレスのおばちゃん

「……すみません。タバコ一本分けてもらえませんか」


 さすがに断る人は居ません。タバコの一本くらい分けてあげる人が大半です。

 ミュージシャンCも声を掛けられていましたし、絵師Aもよく声を掛けられてはタバコを分けてあげていました。まだ登場していない人物で僕らと一緒に路上で絵を描いていた他のメンバーにも良く声をかけていました。

 あー、みんな、優しいなぁ。


 なのに、なのに……


 何で僕だけ声をかけてくれないんじゃぁぁぁ!!

 全然、タバコぐらい分けてあげるよ!!(注、今は既にタバコは辞めています)

 あれか!? やっぱ僕の目つきが怖いからイカンのか!?

 人を見た目で判断しおってぇぇぇ!

 寂しいじゃんか(号泣)!!




・一! 触! 即! 発!


 僕が活動していた某駅は路上でのアート活動、音楽活動に対して非常に寛容な場所でした。他の地域では事前に許可が必要だったり、場合によっては通報されたりする場所も多いのですが、某駅はむしろ路上でのアート活動……特にストリートミュージシャンを応援していました。

 無許可でアンプ持ち込んで演奏しても怒られないし、道行く人も足を止めて一時の音楽を楽しんでいく。それどころか駅の一角にストリートミュージシャン専用の区画まで設けている、と言う素晴らしい土壌が出来上がっていた空間でした。


 さて、ある日の夜の事。この日も仕事帰りのストリートミュージシャンがネクタイ姿で路上に胡坐をかいて、アコースティックギター片手に歌っておりました。僕は彼から少し離れた場所で、その歌をBGMに絵を描くという、ちょっと贅沢なひと時を楽しんでいました。そんな時……


「うるせぇ! 帰れ!」


 穏やかじゃない怒鳴り声が駅前に響きました。

 顔を上げてみると先程から演奏しているストリートミュージシャンの前に一人の初老の男性がドカッと座っています。


「うるせぇんだよ! 帰れ!!」


 うっわー。なんかすっごい絡まれ方してるー。

 と思いながら様子を見ていたのですが「うるせぇ!」と言われたストリートミュージシャン、ここぞとばかり声を張り上げて熱のこもった歌を轟かせます。おぉ、良いパッション持ってるやん。


 そんな気迫に圧倒されてか、ミュージシャンの前から立ち上がる初老の男性。大事にはならなかったみたいね、良かったねー……なんて思っていたら、その初老の男性、次は僕の方へ向かってツカツカツカツカと近づいてくるではありませんか。やだーーーー。


 そんで、僕の前にドカッと座る初老の男性。マジマジと僕を睨みつけてくるので、僕も僕でマジマジと相手を観察してみます。


(……きわめて痩せ型……重心、姿勢は不安定……手入れされてないボサボサ不精髭……肩まで伸びた脂っこい白髪……抜けた前歯……若干白く濁った眼……臭いは……クンクンアルコールの臭いと、ホームレスの臭いがする!)


【プロローグから抜粋】

○ホームレスのおっちゃん

 アル中。某駅にて、路上ミュージシャンに対して「うるせえ! 帰れ!」と怒鳴っていたホームレスのおっちゃん。


 このホームレスのおっちゃん、僕を睨み続けてさっきのミュージシャンの時みたいに怒鳴りつけてきそうな形相です。

 さて、どうした物か……。

 路上ミュージシャンのように歌でも歌っていれば、僕もこの睨みに対抗しやすかったかもしれんのになぁ……と思いつつ、とりあえず気を紛らわせるためにポケットから煙草と簡易灰皿を取り出します。


 火をつけて、一口吸い込む。先端の火種が震えるみたいに赤く輝く。

 ふーーーー。煙を吐く。吐いた先にはホームレスのおっちゃんの顔。あ、忘れてた。ゲホゲホと咳き込むホームレスのおっちゃん。わっちゃぁぁぁ……。


 怒ってしまったのか、さらに睨みつけてくるおっちゃんに大して僕も腹を決めてタバコを咥えると、空手部に所属していた高校時代ぶりに本気で睨み返します。


 一! 触! 即! 発!


 ……な~んて雰囲気にはなったんですけれども、当然ながら喧嘩するような血なまぐさい展開は起きず。

 きっかけは覚えていないのですが、何故かホームレスのおっちゃんと意気投合。


ホームレスのおっちゃん

「なんか、お前気に入った! お前良いな!」


Ghost

「うるせぇよ、おっちゃん。絵が見えねぇだろ目の前座んな。隣座れ」


ホームレスのおっちゃん

「飲もうや、酒買ってくるわ。俺のおごりだ」


Ghost

「いいって、お金もったいねーから……って話聞いてねぇし」


 駅の中にはコンビニもあるので早速お酒を買いに行ってしまったホームレスのおっちゃん。その後、乾杯して一緒にチューハイを飲んだのですが、おっちゃんは絶対にお金は受け取りませんでした。

 このエピソードを書きながら思い出したんですけれど、おっちゃんがタバコを取り出した時にサッとライターを取り出して火をつけてあげたのですが、すごく喜んでいたなぁ。僕が初対面でため口使うとかも相当珍しいし。不思議な魅力を持った人でした。


 その後も何度か駅前で絵を描いている時にホームレスのおっちゃんとは遭遇しました。

 話しをしているうちに、このおっちゃんがそれなりに進行したアルコール中毒者であることは感じ取れました。手が震えていたし、うまく立ち上がれない事もあったので。

 時折、言葉も支離滅裂になり呂律が回らない時もありました。ですが、たまに核心をついたような事を言うので、「おー、なるほど」と唸り声をあげた事もあります。

 そんな感じに世間話をしつつ、お酒を飲んだり、使っているライターを交換したりと他愛のないやり取りをしていました。

 十年近く経過しているのですが、あれからどうしているのかなぁ、まだ生きてるかなぁ、と思い出す時があります。


 最後に会った時の去り際、


Ghost

「ちゃんと飯食えよ」


 と僕がぶっきらぼうに言った言葉に対して、前歯の抜けた口でニイッと笑った姿を今でもぼんやり覚えています。


 ホームレスや一般的に社会的弱者、と呼ばれる人たちとの関わり方について自分なりに考察を始め、現在ボランティア等に参加する習慣がついたのは、このおっちゃんと、今後登場する旅する詩人”詩人B”さんとの出会いがきっかけにもなっているかもしれません。

 ホームレスのおっちゃんが事は、彼にとってすごく重要な、譲れない事柄だったのだと思います。

 もし僕が彼に対して無理にお金を払ったり、何かしらの”保護”を行ったとしたら彼らプライドはどうなってしまっただろう。

 どのように関わる事が正解だったのか答えは出ませんが、少なくとも良い疑問を僕に与えてくれた人だったと思います。



 ……あ、今回はギャグ回にするつもりだったのに真面目に纏まってしまいそう!

 とりあえず最後に僕の好きな言葉をご紹介します!


 ”禿げ散らかる。”


 ”禿げ”と言うマイナスの要素に”散らかる”と言うプラスの要素を掛け合わせながら、”プラス”でも”マイナス”でも、ましてや”ゼロ”でもない。

 ただただ”禿げ散らかる”を言う実像を如実に描写した、全く無駄のない鋭利に研ぎ澄まされた言葉です。

 あぁ、日本語は素晴らしい。


 to be continued(/・ω・)/

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