第6話 素直な二人

 ラナイアとアルグスは、二度目の喧嘩を始めていた。

 しかし、その喧嘩は早々に中止されていた。アルグスが、素直なことを言ったため、お互いに勢いがなくなってしまったからである。

 二人の喧嘩は、お互いに疲労して終わることもあるが、このようにどちらかが素直になって勢いがなくなり終わることもあるのだ。


「というか、そもそも、私が選んだ大学にこだわらなくても良かったと思うのよ。最初から、自分の成績に見合った大学を選んでいれば、あんなことにはならなかったじゃない」

「でも、お前と一緒の大学に、どうしても行きたかったんだ」


 二人の喧嘩は、いつの間にか世間話になっていた。

 昔の話を、二人はいつも振り返っている。こちらの世界に来てから、その回数が増しているくらいだ。


「そんなに行きたかったの?」

「だって、お前が他に好きな人ができないかとか、心配だったし……」

「そんなことにはならないわよ。そもそも、当時は同棲していたでしょ」

「同棲したのは、一回落ちた後だろ」

「高校の時から、そうしようとは言っていたじゃない」

「それでも、心配だろうが……」


 アルグスが一つの大学にこだわったのは、そこがラナイアの行きたい大学だったからである。ラナイアが誰かにとられないか心配で、その大学に行くことを選んだのである。

 そんな不純な動機で選んだ大学は、ラナイアが卒業したと同時に、アルグスにとって意味がないものになったのだ。だから、中退してしまったのである。


「というか、別の大学に行ったからといって、他の人の所に行ったりしないわよ。私、そんなに浮気性じゃないもの」

「それは、わからないだろう。俺より、いい人がいるかもしれないし……」


 ラナイアは、他に好きな人ができるなど考えたことがなかった。

 なぜなら、アルグス以上に愛してくれる人も、愛せる人もいないと思っているからだ。

 ただ、ラナイアもアウグスの気持ちが理解できないという訳ではない。そういう不安を覚えたことは、ラナイアもあるからだ。

 そのため、できるだけ優しい言葉をかけることにした。珍しく、ラナイアはアウグスを励ますことにしたのだ。


「馬鹿ね。私の中で、あなたを越えるような人はいないのよ。あなたは、私の良い所も悪い所も全部知っている。私は、あなたの良い所も悪い所も知っている。そんな人は、他にいないわ。だから、私の中であなたを越える人なんて現れないのよ」

「そ、そうか……」


 ラナイアの言葉に、アウグスは少し笑っていた。少しだけ、元気が取り戻せたようだ。

 その嬉しそうな笑いに、ラナイアも少しだけ笑みを浮かべるのだった。

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