第6話 共同戦線 ①

「携帯の状態の時は、色んな情報を調べたり確認できるけど、無防備むぼうびになるから注意して。今は私たちが入口をおさえてるから大丈夫だけどね」


 大通りの方で大きな爆発が起こった。同時に、「デカいのが出た!」と野太い声が響く。


「うわっ、こっちも予想より早い。危険だから移動しましょ!」


 そう言いながら駆け寄ってくる美和子みわこ

 間近で見るとその可愛さと凛々りりしさに驚かされる。

 つやのある瞳にさらさらとした黒髪。赤いゴムバンドで留めた髪が軽やかに舞う。


「今はチーム登録だけ。携帯見せて」


 彼女は慣れた様子で、自身の携帯と差し出した携帯を同時に操作して登録を完了させる。


「オッケー、……これではぐれてもすぐに見つけられるし、経験値も共有できる。携帯を武器に戻して。行くよ!」

「どこに逃げるんだ?」

「逃げるんじゃない。敵の少ない地域に移動するだけ。いい立地のビルに立てもれば、一方的に倒せるから」

「閉まってたら……」

「各所の鍵は敵を倒してアプリにまったポイントで解除できるみたい。ソロで購入すると元を取れないくらい割高わりだかだけど、チームならポイントを共有出来るから」


 先回りの回答が、言い飽きているかのようにスラスラと並べられる。

 異様だ。この短時間で、現状とルールをほぼ完全に把握している。

 美和子は「出るよ。構えて」と忠告しながら、通りに走り出た。


「お待たせ。西に移動するよ!」


 通りの外には、彼女の仲間の三人が防衛線を貼っていた。

 一人は体育会系の背の高い角刈かくがりの大男、一人は長い髪を真っ茶色に染めた目つきの悪い女子、もう一人は背の低いショートボブの少女だった。

 全員が制服を身にまとっているが、デザインが違うので別々の学校のようだ。

 てっきり同じ学校のメンバーでチームを組んでいると思っていた。


「そいつがぁ?」


 挨拶より先に茶髪ににらまれる。あまり心よく思われていないらしい。

 状況を見ればそれも当然、十数体のバケモノが此方こちらに向かってきている所で、それとは別に倒したのであろう七体のバケモノが地面に転がっていた。


「言ってたやつ、来てるよ」


 そんな中、目に見えて巨大な個体が一体。

 二・五メートルを超える体躯たいくに、立った状態でも地面に届く象のように太く長い腕、顔ははちの巣のようにいびつに歪んだ風船型で、緑色の液体がいたる所からしたたっている。


「グゲゲゲッゲッゲッ」


 鳴き声と共に、液体が噴き出す。

 体液が地面に落ちた瞬間、コンクリートにジュッという音を立てて穴が開く


「マジかよ」


 他の奴らとは一線をかく異形いぎょうだ。差し引き無しに見た目の通りの強さに違いない。


りんちゃん、お願い!」

「せっ、閃光弾せんこうだんげます!」


 背の低い少女が、震える声で精いっぱい叫ぶ。

 その手には、野球のボールサイズの深緑色ふかみどりいろの物体が握られており、それを美和子が走り出した方向とは逆に放り投げる。

 それを目で追おうとした恭平きょうへいの視界の前に、大男が割って入った。


 途端、眩い光と爆音が周囲に広がる。


「ハハッ、目がやられるところだったな。さっ、走れ」

「……ありがとう」

「気にすんな。俺も最初に同じことやっちまった。健吾けんごだ」

「恭平。よろしく」


 彼はおのれの失敗を豪快ごうかいに笑い飛ばし、手にしたライフルを構えて敵を撃ちながら走る。

 閃光弾炸裂地点せんこうだんさくれつちてんからおよそ二十メートルの範囲内に居たバケモノの動きが止まっていた。

 デカブツも例外ではない。

 明らかに恭平のショックアローよりも性能が上だ。

 これが初期装備の差なのかと気が沈む。

 落ち込む暇もほとんど与えられず、皆にならって走り出す。

 最後尾さいこうびから健吾、その前に茶髪、恭平、凛、先頭が美和子だ。


「あれは足が遅いから逃げ切れると思う。他の敵も無理に倒そうとしなくていいよ。進行方向の敵は私が処理するから」


 有言実行ゆうげんじっこう、美和子は右斜め前から迫る敵の攻撃をひらりと交わし、手にした刀で三度切りつけた。

 攻撃の瞬間、刀が赤く光り輝く。

 切られたバケモノは、ものの見事に手足と胴体どうたい分割ぶんかつされる。

 切断面は赤く焼けただれ、嫌なにおいの煙が立ち昇っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る