第7話 共同戦線 ②

 一撃だ。


「刀、強すぎない?」

「スキルを使ってる間は攻撃力が増大するの。使っているとゲージが減って、使っていないとゲージがまる仕様みたい。りんちゃんは爆弾を温存してて」

「はいっ」


 恭平に対しての説明だろう。

 走って、敵を切って、声をって、それをこなしながらも息一つ切れていない。

 矢を叩き切ったことは勿論、恐ろしい身体能力と持久力だ。

 それに比べて恭平は走るので精一杯なうえ、早くも息が切れ始めている。

 ボウガンでバケモノを狙ってみるも、明後日の方向へ外れてしまった。


「へぇ、上手いじゃん」


 背中に茶髪のジト目と厳しいあおり文句がびせられる。


ゆうさん、仲良くして。みんな協力しないと」

「はい、はーい」


 茶髪の女子は優と言うらしい。

 気だるそうな返事をした彼女が手にしているのは小型のハンドガンだ。

 他のメンバーを他所に、彼女はバケモノを撃つ素振そぶりもない。


「一発当てたところで、ほぼ意味ないじゃん」


 確かに一理ある。

 進行方向に立ちふさがる敵以外はおそわれない距離をキープすればいい。

 下手に撃とうとすれば足がにぶるし、体力も消耗しょうもうする。

 正面の敵は美和子がほぼ確実に処理するので、手を出す必要が無い。

 瞬間的に多数の弾丸を打ち込めるライフルならともかく、ハンドガンやボウガンは殺傷力が低すぎる。


「味方に当たるかもしれないし」


 そうして走り続ける事、およそ7分。

 さすがに皆の表情に疲労の色が滲み始める。

 平気な顔をしているのは、美和子のみ。

 渋谷しぶやの中心からは外れつつあるので、徐々じょじょに人やバケモノは減っているが、


「ねぇ、あとどのくらい走るわけ? 私そろそろ限界かも、てか限界なんですけど」


 皆の気持ちを代弁したのは優。

 美和子は申し訳なさそうに「あと少し」と目的地の方角を指さす。

 それから更に5分。

 息も絶え絶えの4人がたどり着いたのは、二階建ての中規模マーケットだった。

 到着と同時に美和子が刀を携帯に戻し、アプリで鍵の購入をタップ。

 入口の正面扉にかざす。

 カードキー式じゃないんだから、と思ったのも束の間、カチリとかぎひとりでに開いた。


「マジック?」

「早く入って!」


 今の鍵開けも頭が痛くなる光景だが、ひとまず疑問は頭の隅に追いやって中に入り、皆で床に腰を落ち着け肩で息をととのえる。


「とりあえずは一安心、かな。皆のおかげで上手くいったよ」


 美和子が再び鍵穴に携帯をかざすと、扉がロックされる。

 俺たちを追いかけてきていたバケモノ三体が遅れて到着したが、扉に体を押し付けて叩くばかりで入ってこられないようだ。


「あの爪でガラス割って入ってくるんじゃないのか?」


 激しく叩かれる扉に、健吾けんごが座り込んだままライフルを構えて後ずさる。


「30分は大丈夫。鍵を購入した建物は一定時間聖域になるの。デカい奴でも入れない」

「信じていいんだろうな?」

「そもそも、この真っ昼間に、どうして入口が閉まってた訳?」

「扉のある部屋、建物は鍵が閉まってるみたい。例外は、人が居る建物。居なくなれば、時間経過でロックされる」

「つまり、ここは無人ってことか。バケモノを見て逃げたにしても、人が少なすぎないか? ここに来るまで、ほとんど人を見なかったけど」


 走っていた時間は約15分。

 その間にバケモノは何匹も遭遇そうぐうしたが、抗戦こうせんする者は片手で数えられる程度で、逃げまどう人々も少なかった。

 この短時間で皆殺しにされたとは思えない。

 まるで、急に蒸発してしまったかのようだ。


「その理由は……わからない」

「ってか、ちょっと待ってよ。鍵のかかった建物が何処どこでも安置あんちになるなら、私らここまで走った意味なくない!?」


 ゆうの指摘はもっともだ。

 失礼な話、彼女は外見がいけんとは裏腹に頭の回転が速いなと恭平は思った。


「入ってこれなくても、集まっては来るの。渋谷交差点の近くはが沢山いる。聖域せいいきじゃなくなった瞬間しゅんかん雪崩なだれ込んできて殺されるかもしれない」

「えっ、そしたら今のうちに逃げないとダメじゃん! 無理むりッ! もう走れないんですけど!?」

「大丈夫。いい方法がある」


 ついてきて、とうながす美和子に続いて皆で二階へ上がる。

 日用品が並ぶエリアの端、大通り側の窓へ到着すると、美和子は大きなガラス窓を開いた。

 下をのぞき込むと、入口にむらがるバケモノは四体に増えていた。


りんちゃん、お願い。他のみんなは少し下がって」


 美和子は凜を呼び寄せ、爆弾を窓から下に落とすように指示。

 うなずいた凜が言われた通りにすると、直後に大きな爆発。

 おそおそる皆で下をのぞき込むと、バケモノは漏れなく大小の肉片になっていた。

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