休職

 最初に休職を決意した瞬間から、心が途端に軽くなった事を今でも覚えています。

 そしてそこから復職までの二ヶ月間、疲弊した神経が回復したのか、身体も明らかに軽くなってゆくのがわかりました。

 

 回復してから、以前の自分がどれだけ異常な事を言っていたのか初めて悟る事が出来ました。

「昼食を食べる体力がもったいないから食べない。夜勤が始まるギリギリまで横になっている」

 と言うのがその最たるものでしょうか。

 また、休日に少し遠出をしても考える事は常に、

「明日の仕事まであと〇〇時間……」

 という事ばかりで、心から楽しめていない事が妻にも伝わっていたのでしょう。

 この時期には離人症も併発しており“現実の事柄をしっかり認知しているのに実感するのが困難”で、楽しい事も“理解”は出来ても“感じる”事が出来ない。

 当時、二人暮らしを始めてまだ一年目。息子の出産も控えており、夫婦二人の思い出を少しでも築きたかった時期。

 寂しい思いをさせたと思います。

 

 怪我の功名か、第一子の誕生と休職期間が重なった関係で、沐浴もくよくや哺乳瓶での授乳をはじめとした育児の習得に専念する事が出来ました。

 まあ、正常な状況下であれば、これ程の密度で学ぶことは出来なかった事なのですが。世の中のパパは、休職も無しにどうやって育児を学んでいるのでしょうか。

 趣味の小説執筆が出来るようになったのは、休職が終わる間際くらいだったでしょうか。

 中編程度の作品を、凄まじいスピードで書き上げる事が出来ました。

 また、小説を書ける日が来るとは、正直もう思っていませんでした。

 

 C主治医の言う通り、適応障害の回復には、その原因となる環境の改善が一番でした。

 療養によって既に受けたダメージを回復し、復帰後も違う環境を構築し(構築してもらい)再発しないように整備する。

 それが“当たり前”の対策だと、今にすれば思います。

 しかし“当たり前”をしない……いや、その弱さゆえに出来ないのがブラック企業というものです。

 

 上司からのパワハラに関しては、むしろここからが本番でした。

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