復職

 二ヶ月が過ぎました。

 誓約書の取り決め通り、私はA社の同じ部署で再び働く事となりました。

 会社が一つだけ、変えてくれた事があります。

 それまでタケさんのチームに配属されていたのが、ダイさんのチームに変わっていた事でした。

 私の休職理由が、末端へどのように伝えられたのかはわかりません。

 ただ、今回の休職への対策が“タケさんのチームから異動させる”だったと言う事は、会社は元凶が何かを把握していたと思います。

 とにかく、会社のしてくれた唯一にして、大きな配慮だったとは思います。

「本日から(私)が復帰します。これまでと同じように接してあげて貰いたいと思います」

 朝礼で、部長がそう言いました。

 

 しかし。

 ダイさんのチームに入れば安泰だったかと言うと……むしろ単純な人間関係としてはタケさんよりもダイさんとの方が険悪だったところがあります。

 これもダイさんの好き嫌いや、私の不徳の致すところもあったとは思いますが。

 ダイさんと私の関係を簡潔に並べると、

 

 ・指示を聞き取れず、聞き返すと怒られる。

 ・復唱しても、聞き返したとみなされて怒られる。

 ・質問内容が(ダイさんにとって)訊くまでも無い事だと怒られる。

 ・訊くまでも無いと思われそうだと判断し、訊かずに行動すると怒られる。

   →結果的に問題の無い行動であっても。

 ・そもそも文章や言葉選びに対して「言ってるわけがわからない」と怒られる。

 ・酷い時は第一声を発した直後に「言ってるわけがわからない」と怒られる。

   →自己弁護では無いのですが、友人や家族にそう言われた事はほとんど無い。

 

 基本はこんな所です。

 巷によくある“いちいち訊くな→訊かずに動くな”に代表される、ダブルバインド的コンボです。

 この辺りについては、私とダイさんには限らないのですが(他の上司と同僚の間でも、相当数見受けられたのですが)

 これでは報連相もままなりません。

 過去の例を示して「だから迂闊に訊けない」と言う事を何度も訴えてきましたが(ダイさんに限らず他の上司も)「ウザがられても訊け」「訊かない方が悪い」の一点張り。

 別に私も同僚達も、怒られたりウザがられたりするのが嫌で訊けないわけではないのです。

 過去に同一シーンで「訊くな」と“禁じられた”以上、下の者は訊くと言う行動を封じられてしまうのです。

 ただ。

 基本的にダイさんは、ある意味では実害の少ない方だったと思います。

 私から見て彼の言動は私情の域を出ない、失礼な言い方ですが“浅い”ものでした。

 “浅い”と言う事は、それ以上躍起になって攻撃してくるほどでは無い事も意味します。

 ダイさんには「これ以上深入りをしない」と言うストッパーがきちんと備わっていました。

 

 チームが変わっても、前リーダーのタケさんと遭遇しないわけではありません。

 仕事が二交代制であると言う事は、チーム間での引継ぎ業務は毎日あるわけです。

 タケさんにはストッパーが備わっていません。

 自分の理想が形になるまで、決して諦める事の無い人でした。

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