第6話 どうやらボクはチートキャラみたいです



先日、めでたく4歳になったボクには騎士団と魔法師団から家庭教師が派遣されるようになる。

そう父様から聞いた。

そして今日はその1日目だ。


アイリ姉様にもらった短剣を腰に携え、指定の訓練場に向かう。


訓練場では一人の騎士がボクを待っていた。

彼は第二近衛騎士団団長のガレイン。

カルロ子爵家の当主で、獅子の獣人だ。

剣術の達人であり、昨年の闘技場大会でも優勝した程の実力者だ。


「ガレイン、今日はよろしくね。」

「こちらこそよろしくお願いします。ケント殿下。」


ボクがアイリ姉様にもらった短剣のことを話すと、今日から”飛斬”の使い方と短剣での戦い方について学ぶことが決まった。


「飛斬はこの短剣に魔力を流し、一定以上の速さでまっすぐ振らないとできません。この短剣には”軽量化”もついているのでケント殿下も難しくはないでしょう。まずは実践です。やってみましょうか」

ガレインは敵に見立てた的を置いた。


「ハァッ!」

魔力を流し、剣を振るとスッと魔力が抜ける感じとともに半透明の刃が出て的の表面を切り裂いた。


「やった!できた!!」

ガレインの方を見ると彼は信じられないものを見たような顔で固まっていた。


「ガレイン?」

「あ...はい!申し訳ありませぬ。今見たものが信じられませんでした。殿下は無属性もお使いになられるのですか!?なんということだ。すぐに陛下に報告せねば...」

え?ボクが無属性持ってるのって知られてない?自分のステータスに表示されてたからてっきり知ってるものだと思ってた。


「えっとどういうこと?ボクが無属性を持ってるって誰も知らないの?」

「ええ、無属性は鑑定水晶には表示されないのです。とりあえず陛下に報告しましょう!行きますよ!」

じゃあ、他の人には無属性ってわからなかったの!?


ガレインに連れられて、父様の執務室へと向かう。

途中、ガレインに聞いたのは、”飛斬”では使用者の属性が反映されるため、聖属性の白い刃が出てくると思っていたらしい。

さらに最初はもっと小さい刃か失敗すると思っていたので、的を切り裂くほどの刃が出るとは考えていなかったそうだ。

あれだけの刃が出るということは魔力量もかなり多く扱いも天才だと思ったとガレインは話した。


そして父様の執務室へ急いでやってきた。

「なんだと!?ケントが無属性を持っていただと!?ケント、本当か?自分の情報画面に《無》の表示があるのか!?」

「は、はい。先ほど確認しましたが確かにあります。父様が鑑定水晶を使っていたのでもう知っておられるかと...」

父様はおでこを抑え、ふうと一つため息をついた。


「なんということだ。聖属性のみならず無属性も...まさに神に愛された子だというのか...」

「あ、あの、父様、無属性というものはそれほどのものなのでしょうか」

「そうか、ケントはまだ知らないか。アルフレッド、ケントの魔法の講師をここへ呼べ。急いで執務室に来るように、と」


「かしこまりました」

いつの間にかボクの座るソファの後ろに立っていたアルフレッド爺が返事をして部屋の外へ出ていった。

少し驚いた。気配なさすぎでしょ。



少し待つと眼鏡をかけた女の人が部屋に入ってきた。

あれ?え?も、もしかしてこの人...


「遅くなり申し訳ありません。魔導士団団長、ティリアが参上いたしました。」

「ご苦労。この子がお前が教えることになったケントだ。」

父様がボクを指し示すと女の人はボクの方へと向き直る。


「お初にお目にかかります。魔導士団団長のティリア=レ=マルタでございます。マルタ伯爵家の現当主で、妖精族であります。俗にいうエルフと言えばわかりますでしょうか?」

や、やっぱりそうだ!長く細い耳!エルフだよ!

「ケント=アリフ=ラ=オルフェウスです。よろしくね、ティリアさん」

「私のことはティリアとお呼びください。こちらこそよろしくお願いいたします。それで、陛下、急ぎの用とは一体...」

「ああ、すまないがケントに無属性について簡単に教えてやってくれ」


ティリアは訝しげな表情をしながらも説明し始めた。

「では無属性について説明いたしますね。無属性は別名”虹色の属性”とも呼ばれており、その名の通りどんな属性にも変化することができます。ただし、一部の妖精族や精霊獣の使う精霊魔法、ドワーフ族の固有属性である土属性の魔法、魔族特有の魔法である魔眼魔法など、種族の固有魔法は再現がです。またケント殿下の持つ聖属性は無属性による再現は不可能です。また無属性には固有の魔法が2つ、”転移魔法”と”重力魔法”があります。これらは使用するために多くの魔力を必要とすることが分かっています。このくらいでしょうか。さらに詳しくとおっしゃるのであれば文献も交えて説明いたしますが...」

「いや、よい。十分だ」

父様はそこで説明を止めさせた。


それにしても転移魔法と重力魔法か、夢が広がるな。

今から魔力量を増やすのをメインに訓練しようかな?


「陛下、なぜ急にこんな話を?」

ティリアがボクの方をちらっと見て父様へと聞いた。


「察しのいいお前ならわかるだろう。ケントが無属性持ちだと分かったからだ。」

するとティリアはハアとため息を一つつく。

「やはりそうでしたか。私も大変な仕事を請け負ってしまったようですね。」


その言葉にガレインも反応する。

「ハハハ、ティリア殿、目の前で半透明の”飛斬”を見せられた私の気持ちが分かりますか?」ガレインはどこか呆れ気味だった。

「ええ、ええ、分かりますとも。では陛下、ケント殿下には私のできるすべての魔法をお教えするということでよろしいですか?」


「ああ、それでいい。まったく、聖属性だけでも大変だというのにまさか無属性とは。ケントは二代皇帝を超すかもしれないな。」

二代皇帝?なんで二代皇帝が出てくるんだ?


そんなボクの様子に気づいたのか、説明してくれる。

「二代皇帝は我らが帝国の歴史を語る上では不可欠な存在だよ。お前と同じ無属性を持ち生まれてきたんだ。生まれた当初は属性を持たないとされて無能の烙印を押されたが、積み重ねた努力と無属性の本当の力を駆使して皇帝になり、この国の領土を大きく広げた。今の帝国の領土である大陸北半分を平定したのは彼の功績がとても大きいんだ。その後十一代皇帝の時に大陸不戦条約が発効され、今の状態になったんだよ。それに加え、彼は種族間の紛争や差別を無くそうとした。その後何代もの皇帝による努力が実り、オルフェウス帝国は多種族国家となっていったんだよ。ここにいる2人がケントのことを教えてくれるのも彼がいなければ無かったことかもしれないんだ。」


「すごいですね...そんな人がいたんだ。」

「ああ。今は二十九代目の私だが私の父も、祖父も皆彼のように歴史に名を残す人物になることを目指していた。オルフェウスが長く続いているのも、二代皇帝の残したものがとても大きいんだろうね。ケントはたぶん皇帝にはならないと思うけど、きっと偉大で歴史に名を残す人物になれる。日々の努力を怠ってはいけないよ。」


その後父様は仕事に戻り、ボクは昼食の場に居合わせた、学校に行っている双子の姉と兄を除いた3人に報告すると、驚きながらもとても喜んでくれた。




それから2年の月日が流れ、心身共に成長したボクは遂に6歳のお披露目を迎えようとしていた。






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