第5話 えっ!?ボクって特別なんですか!?



その日、ボクは昼食を終え、父様の執務室へと向かった。

シルフィはボクの部屋でお留守番だ

一緒に昼食をとったアイリ姉様とマルク兄様が一緒だ。


執事のトーレスが扉をノックし、中へ入る。


「おお、来たか。アイリとマルクも一緒だな。丁度いい。最初は2人の精霊獣のところへ行こうか」

そう、今日は兄姉達の精霊獣を見せてもらう約束をしていたのだ。


というわけで最初はアイリ姉様とマルク兄様の精霊獣と会うことになった。


ボクたち4人は城の中庭へと向かう。

そして綺麗に芝生が生えそろった場所で立ち止まった。


「ミリー!おいでー!」「スイ~!来て~!」

2人がそう呼びかけると芝生を進んでくる何かが見える。

そして2人の体にするりと巻き付いた。そう、蛇だ。


「私の精霊獣のミリーだよ!」

「ボクの精霊獣のスイだよ」

ミリーは黄色い体に黒い斑点、スイは水色の体に黒い斑点で、長さは4メートルくらいだ。


ミリーとスイは二人の手を伝ってボクの体に移ってきた。

「わっ!ひゃっ!くすぐったいよ!あはは!」


「さすが聖なる者だね。」「そうだね!二匹があんなに懐くなんて!」

聖なる者ってどういうことだろう。

「聖なる者ってなんですか?」

それは父様に聞けというように2人は同時に父様を見た。


「そういえばケントの聖属性については何も話していなかったか。ならばこの機会に説明しよう。聖なる者とはその名の通り聖属性を持った者のことだ。聖属性を持つ者は1000年に一度生まれるとされている。そして聖属性を持つ者は皆等しく白銀の髪を持つという。その聖属性は精霊獣に好かれやすいなどいろいろな特徴を持っているんだよ」

そうだったんだ...。1000年に一度ってすごいな。


「聖属性の者が生まれると、教会の総本山である神聖国が保護に動くんだ。今まで生まれた聖属性の者は皆、神聖国の教会でその一生を終えているんだよ」

「え?じゃ、じゃあ、ボクは教会に行くことになるんですか?」

そう聞くと温和な父様の顔が一瞬で凍り付いた。


「そんなわけないだろう。私の可愛い息子を神聖国などに取られてたまるか。」

父様の赤みがかった金髪が逆立ち、体から魔力のオーラが漏れ出す。


「あ、あの、父様?」

ボクが呼びかけると父様はハッとしてオーラを収めた。

「すまない。少しカッとなってしまったよ。ケントにはこの国で暮らしてほしい。神聖国に行ってしまったらたとえ一国の皇帝でもケントには会わせてもらえなくなるだろう。そんなのは嫌だからね」

確かに一生家族に会えなくなるというのはきついものがある。神聖国には行かないようにしておこう。


「ケントの力についてはまた今度話すことにしよう。次の場所へ行こうか。」


アイリ姉様とマルク兄様、それにミリーとスイと別れ、ボクと父様は次の場所へと向かった。


次の場所...訓練場ではエルヴァ兄様とエファ姉様が待っていた。

「お、来たか。父様、ケント、そこの席で待っていてください!」

そう言われてボクと父様はベンチに腰掛ける。


エルヴァ兄様は訓練場の真ん中に立ち、指笛を鳴らした。

「ピュゥィィィィ!!!!!」


すると空から馬のいななきのような音が聞こえた。

黒い影がどんどん近づいてくる。


エルヴァ兄様の横に降り立ったのは、深い黒の毛並みの天馬ペガサスだった。


「次は私の番ですね。見ててね~♡ケント~♡」

エファ姉様がこっちに向かって手を振ってくる。

手を振り返すと少しあきれたように父様がつぶやいた。

「まったく。エファはケントにぞっこんだな。持っていった縁談も全て蹴りよって。じゃじゃ馬め。」

え、エファ姉様に結婚の話が来ているのか?ま、まあ聞かなかったことにしておこう。


エファ姉様はこちらを気にも留めず、歌いだした。

とてもきれいな歌声だ。透き通っていて心が揺さぶられるような気持ちになる。


「エファの精霊獣は歴代でも類を見ない。よく見ておきなさい。」

「は、はい!」


「アオォォォン!!!!」


な、なんの鳴き声だ?どこから聞こえたんだろう。


そしてもう一度鳴き声が聞こえた。今度はもっと近くで。


「はっ!!」

ボクは振り返る。


アメジストのように輝く瞳がボクの目と鼻の先にあった。

その狼はボクをじっと見つめた後、エファ姉様のもとへ歩いていった。


「ケント、行ってきなさい。私はあの天馬と狼には近づけん」

「わかりました。行ってまいります」


ボクは2人の待つ訓練場の真ん中へと歩いた。


「よし、紹介しよう。私の精霊獣のカルだ。見ての通り黒い天馬だな。天馬の変異種だとか言われているがよくわからん。なでてごらん」

そう言われ、カルへと手を伸ばすとなでやすいように頭を下げてくれた。


さらさらのたてがみはとてもなで心地がいい。

しばらくなで続けてしまったのも仕方ない。


「とてもいい毛並みですね。さらさらです!」

「こいつが心を許すのは本当に珍しいからな。父様はあまり気にいられなかったようだ。実際懐いているのは私とエファとケントくらいだろう。」

そのままなで続けていると体を摺り寄せてくる。


「エルヴァ兄様、それにカルも!ケントを独占しないでください!私の精霊獣も紹介したいのに」

それを聞いたカルははよ行けという風に小突いてきた。


エファ姉様はボクを抱き上げ、伏せている狼のもとへと連れていく。

「この子はフェル。天狼って種族の変異種じゃないかって言われているの。この子は本当に気難しいんだけどケントのことは大丈夫みたいね」

ボクは抱っこされたままフェルに手を伸ばす。

フェルは指先をペロッと舐めてきた。

「あはは!くすぐった~い!」


エファ姉様に降ろしてもらい、明らかにモフモフなフェルの体へと突っ込む。

モフモフに癒されるのは前世からの夢だったのだ!モフモフは正義だ。


「フェルはね、天候を操ることができるのよ~。普段は干渉しないけれどこの国はたくさん助けてもらってるわ」

天候を!?まじで!?ヤバいじゃんフェル!!

「フェルすごすぎだよ~!しかもモフモフだし!」

するともっと褒めろと言わんばかりに顔をペロペロ舐めてきた。

「すご~い♡ケントったらフェルに気に入られてる!さすが私の弟ね♡」


その後少しカルとフェルと戯れる。

そこへ母様とイルシア姉様がやってきた。


「もう!いつまでたっても来ないからこっちから来てあげたわよ!ってケントったらフェルに埋もれてるじゃない!いいな~、いいな~」

「イルシア、あなたの精霊獣も見せてあげなさい」

母様がそう言うと、「あっ、そうだった!」と、イルシア姉様は少し離れたところに立った。


母様は父様の隣へと座り、何か話している。


「よ~し!行くよ~!!」

イルシア姉様は空に向かって火の玉を打ち上げる。

それは上空で爆発し、まるで花火のようだ。



――一方そのころ、城下町――

「お?ありゃあ、イルシア殿下の魔法かね?」

「そんならまたが来るんか?確かいつもは北のほうの山にいるんだったか?」

「帝都が一望できる山だな。アイツを見たら末っ子皇子殿下が泣くんじゃねえか?まだ4歳だろう?」

「ああ、確かそうだ。6歳のお披露目が楽しみだなあ。」


そんな会話があったことなどケントは知らない。



「あっ!来たよ~!」

イルシア姉様の指す方向からぐんぐん近づく影がある。

そいつは大きな翼をはばたかせてイルシア姉様の隣へ降り立った。


「私の精霊獣のアグニだよ!見ての通りレッドドラゴンだね!」

ものすごい迫力だ。ここにいる誰よりも大きい。


アグニはイルシア姉様に顔を摺り寄せ、なでてもらっている。

「ケント!おいで!」


イルシア姉様に呼ばれ、近くに行くと、アグニは一声「キュオォォ」と鳴いてボクに頭を摺り寄せてくる。

「おー、さすがケント!すぐなつかれたね!」



その後精霊獣たちはそれぞれが棲み処にしている場所へと帰っていった。

彼らの棲み処は勅命によって立ち入り禁止区域に指定されているらしい。


ボクは部屋に戻り、シルフィに話しかける。

「ねえ、シルフィ。君が大きくなってここに収まらないくらい大きくなったらどこに棲みたい?」

もちろん明確な返事は帰ってこない。

その代わりにシルフィはボクの肩へ乗って何度か羽ばたいて見せた。


「すぐに飛んできてくれるってことかな?そうならうれしいね」

シルフィは一声だけ鳴いた。うんって言ってくれたかな?




その日はシルフィに乗ってそらを駆ける夢を見た。

現実になるのだろうか。

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