十二章「恋?」

 守ってあげたい。

 そんな風に彼女のことを思った。

 彼女の思ったことを気にせず言ってしまうところが嫌だと思っていたのに、少し前からそんな風に感じていた。

 その思いが、彼女が目の前でこけそうな時、確信になった。ただのきっかけに過ぎなかったけど、その時強く思った。

 感情の赴くまま、いつもトラブルを起こしてしまう彼女をほっておけないと感じた。

 トラブルという物理的なことからだけでなく、精神的なことまで全部から守りたい。

 彼女は一人で平気そうにしてるけど、実はあまり強くないように見えるから。

 細い体は彼女の弱さを表しているかのようだ。

 なぜそんな風に思ったのかと言うと、彼女のことを知っていき、彼女が必要としてくれたからだ。

 彼女は俺に心を開いて愚痴を言ってくれた。

 たかが愚痴かもしれないけど、俺には大きな意味があるように思えた。

いつも人に流されて自分を主張できなかった。それがばれて信頼もなくして問題を起こしてばかりだった俺を頼ってくれた。

 本当に嬉しかった。

 彼女の心の叫びが確かに聞こえた。俺が守ってみせる。この高まる気持ちを紛れももなく、あれだろう。素直に認めるよ。俺は彼女のことが……。

 だから、彼女がこけそうになったとき、瞬時に体が動いた。

 彼女がこける前に間に合ったので、彼女に怪我はなかった。

 それだけで本当によかった。

 安心する俺をさしおいて、抱きかかえられている彼女は急に指をパチンと鳴らした。

「私いいこと思いついた。今日は伊織が私の服を選んでよ。それから私が伊織の服を選んであげるよ。お互いにプレゼントしようよ。面白そうじゃない?」

 いつのまにか彼女の俺の呼び方も変わっていた。

 そういった変化は素直に嬉しい。

「じゃあ、次回会う時にそれを着てこようよ。また会う口実ができたね」

「それはいいね。でも伊織、変なの選ばないでよー」

「大丈夫、俺に任せてよ」

 少し自信がないけど、強気で言ってみた。彼女の前でなら自由でいられそうだ。

 俺は、彼女のびっくりするような発想に乗っかることにした。

 自分と違うからといって否定して遠ざけていてはいけない。一度やってみると案外悪くないかもしれない。やってみるとこれが楽しかった。予想ができない日常というものにむしろはまってしまうかもしれない。

 ワルツが聞こえてきそうなぐらい陽気な天気だった。

 俺は彼女にかわいい系の服を着てもらいたいなあと思った。彼女はきれい系の服をよく着ているから、また違う彼女を発見できそうだからだ。新しい彼女を知りたいと思っているのだろうかと顔が赤くなった。

 服を見ていると、目に留まる服が一組あった。

 それはかわいい小さいハートがたくさん描かれたピンクのパーカーと、白のふわりとしたスカートだ。俺はそれに決めた。

 ほかにもまだ見ていない服はたくさんあった。普段ならゆっくり時間をかけて選ぶ。

 でも、たまには彼女のように直感を信じてみるのもいいなと思った。

 彼女は遠くで声を上げていたから、きっといい服が見つかったのだろう。

 彼女が俺のために特別に服を選んでくれる。それは紛れもなく恋人のようで、ドキドキしたのだった。

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