十三章 「恋に落ちて」

 思いが一瞬にしてはじけた。それは突然やってきた。もう止められない。

 前からずっとこんな思いを内に秘めていたのだろうか。

 私は彼のことが好きだ。

 言葉に出して見ると、急に現実味を帯びてきた。

 私は彼が選んでくれた服を着て、目的地に向かっている。

 ただそれだけなのに、ワクワクした。

 彼がいるだけでこんなにも世界は幸せであふれているのかと思えた。

 道端に咲いているなんてことのない花さえ愛おしく思える。

 春はこんなところにもいる。

 彼が買い物の後、次はプラネタリウムを観に行こうと提案してくれた。

 ロマンチックな場所だと思いながらも、彼が好きそうだと私には少しわかった。彼はきっと星についても詳しい。彼の好みもこれから先もっと知っていくのだろうか。知りたいと素直に思った。

 今日は彼に告白する。

 好きだと思う気持ちを伝えたい。

 彼といれば、誰といるよりも気持ちが楽だった。素の自分でいられた。

 彼は誰よりも私と向き合ってくれた。

 私にはない知的で、包容力のある優しい彼を好きになった。やはり、心の底で尊敬していたのだ。

 でも何よりも私を認め、必要としてくれてる彼を好きになった。それが愛になった。

 愛を知らない私が初めて、本物の愛に触れた気がした。

 彼とこれから先も一緒にいたい。


 自分の気持ちに気づいた。

 それは本当に突然だった。

 一度火がついた炎は消えず、煌々と燃えている。

 俺は彼女のことが好きだ。

 俺は初めから彼女のことが気になって仕方なかったんだ。

 ふとした時に彼女のことが頭に浮かんでいた。

 いつの間にかその思いが恋になった。

 それが「ほっておけない」や「守りたい」という感情に変わっていった。

 自分の気持ちを知ると、ただただ心がときめいて、春爛漫という感じだった。

 彼女の喜んでいる顔が素敵だ。

 喜びがこんなに素敵だなんて知らなかった。

 その笑顔は、世の中にあるどんなものより輝いている。

 その笑顔が好きだ。

 他の感情が入る隙間ないぐらい、彼女を喜びでいっぱいにしたい。

 誰かのことをこんなに大切にしたいと思ったのは初めてだ。

 誰かのことをこんなにも考えたことはなかった。

 でも、一番は俺のことを頼って必要としてくれたことだ。

 弱い部分も見せたくれた。

 世の中にたくさんいる人の中で、俺を信頼して必要としてくれた。

 それはまさしく恋愛というより、愛情だ。

 恋を忘れていた俺の心は、彼女でいっぱいになった。

 俺は彼女を幸せにしたい。

 プラネタリウムがある建物は最近できたばかりですごく綺麗だ。

 それはまるで天体の美しさを表しているようだと俺は思った。

 俺はいつもより早く待ち合わせ場所に着いた。

 彼女が選んでくれた服はとてもセンスがいい。黒とネイビーでしっかりまとめた感じのかっこいい系の服だだ。今までにあまり着たことがない種類の服だ。

 やがてすぐに彼女が俺が選んだ服を着て、俺の前に来た。

「どうかな? って、伊織が選んでくれたんだけど」

 彼女が首を傾げた時にピアスが揺れて可愛いなあと思った。

「すごく似合ってるよ」

「そう? 嬉しいよ」

 時間がゆっくり流れる。とても幸せな時間だなと思った。

 ツツジはもう満開になっていた。甘い香りが心を満たす。

 プラネタリウムに着くと、俺は彼女の後を歩き、彼女が席に着いてから自分も席に着いた。

 胸がドキドキする。もうすぐだ。

「まもなく始まります」

 そんなアナウンスが流れた時、俺は席を立った。

「どこいくの? もうすぐ始まるよ」と言う彼女に、俺は「ごめん、トイレ」と言って会場を出ていった。

 場内が暗くなった。

 ムードがある音楽が流れ始める。

 俺はその音楽に合わせて、ゆっくりと彼女の前に歩いていった。

「美桜のことが好きだ。俺と付き合ってください」

 俺は真っ赤な大きなバラの花束を後ろから差し出して彼女の前で膝をついた。

 これからは一緒にいる喜びを二人で感じていきたい。見せかけの、偽りの楽さではなく、二人でいると自然体でいられる楽さを味わいたい。足りない部分はお互いに補い合えばいい。

「えっ、えっ!?」

 彼女はびっくりして言葉になっていなかった。それからゆっくりと手を前にだした

「はっ、はい。よろしくお願いします」

 彼女は花束を受け取り、涙を流していた。

 俺は彼女を強く抱きしめた。

 プラネタリウムを見にきていた人たちは、拍手で俺たちを祝福してくれた。

 幸せを形にしたらこんな感じだろうと俺は思った。

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