14、至福の時間

「付与? 景品に何かの能力をつけることができるということ?」


 付与できるリストを開くと、ずらりと膨大な選択肢が現れた。

 目を通して流していく。


「【運 30パーセントアップ (30分)】……【物理攻撃力 3パーセントアップ】……【魔力値 10プラス】……」


 色々な能力をプラスできる効果を付けられるようだ。

 短時間のものもあれば、継続的に上がるものもある。


「あ、マイナスもあるのね。【運 50パーセントダウン (24時間)】、【状態変化 麻痺 (30分)】……」


 プラスに比べると、マイナス効果は少ないが、それでもかなりの量だ。

 どれにしようか迷う。

 とりあえず上から順番に見たが……早くゲームをしたいから選ぶのが面倒臭い。

 付与はもう【なし】でもいいかなと思ったその時、【ランダム選択】という選択肢に目が止まった。


「これいいじゃん!」


 くじ引きみたいな楽しみも出来ていいと思う。

 マイナスを含まない、という設定をすることができたので、プラス要素のみのランダム設定にした。


 景品の設定が済んだので、早速クレーンゲームを設置する。


「ああ……やっぱり魔力がいるのね……」


 クレーンゲームの設置にもMP100を消費しなければならない。

 今私は999あるから大丈夫だけれど、一気にたくさんゲーム機を設置することはできない。

 まあ、クレーンゲームであれば九機設置出来るし、明日には魔力は回復するし、それほど悲観することもないだろう。


 記念すべき設置第一号機の場所は、入り口から近いところでいいだろう。

 地元のゲーセンビルでも、入ってすぐはたくさんのクレーンゲームがあった。


「では、ご注目! 【クレーンゲーム設置】!」


 スキルを発動すると、クレーンゲームがボンッ! と現れた。

 前世から切望していた、念願の対面が今叶った!


「はあああああああああああ!! 会いたかったよー!!」


 ピンクの機体に三本爪のアーム。私が一番多くチャレンジしていたクレーンゲームだ。

 景品のサイズも大きく、1プレイ200円だ。


「あ、そうだ。お金ってどうなっているんですか?」


 クレーンゲームのコイン投入口には、見慣れた1プレイ200円の文字がある。

 でも、この世界の通貨は、当たり前だが日本のものと同じではない。


「このゲームセンターでは、手持ちの金銭をあちらで百円硬貨に交換させて頂きます」


 宝生さんが指差した先には、両替機によく似た機械があった。

 百円硬貨変換機と書いてある。


「あちらにお金を入れて頂くと、日本のお金――百円硬貨に変換することができます。なお、品物とお金の交換も可能です」

「おお!」


 質屋のような機能も兼ねているのか。

 この世界のお金をまったく持っていないので、とても助かる!


「早速私も交換していいかな!?」


 価値があるかは分からないけれど、私が大事に持っているものがある。

 それは川で拾った綺麗な石だ。

 綺麗なピンク色で、自然にあるものとは思えない!

 きっと貴重なものに違いないと思い、ずっと綺麗に磨いて持っていた。


 百円硬貨変換機の『買い取り変換機』と書いている方に、その石を置いた。

 いくらになって出てくるかな!?

 わくわくしながら待っていると……。


 ブブー


「?」


 クイズ不正解時の効果音のようなものが鳴った。


『この品物は、真に申し訳ありませんが、硬貨に変換することができません』

「ええ!? どうして!?」

「価値が百円に満たなかったものと思われます」

「そ、そんな……」


 宝生さんの言葉に、その場に崩れ落ちてしまった。

 魔力不足の次はお金不足ですか……。

 いつになったら私はゲーセンで遊べるのですか!?


「マスタードリーには保有資産があります。スキル画面から引き出すことが可能ですのでご確認ください」

「え……ええ!?」


 床に座り込んだままスキル画面を確認した。

 すると、私には二百万の保有資産があることが分かった。

 やったー!!

 でも、どうして二百万?


「あ、まさか……。前世の私の悲しき私財では!?」


 使う暇がなくて貯まっていた給料が、確か二百万くらいだった。

 前世の預金を今世に持ち込めるなんて、そんなことを手配できるのは神様しかいない。

 神様、なんて粋な計らいを……本当にありがとう!


「何だこれは……」

「おうさまがいる!」

「わたくしもいるわ!」


 私がお金について右往左往している間、ママ達はクレーンゲームに興味津々になっていた。

 そうでしょう、そうでしょう。

 どんなものか分からなくても、楽しいものだということは伝わる――。


「なんておそろしいにんぎょうなの! わたくしをのろうきね!」


 薔薇のような妖精は、ママの後ろに隠れると私に怒鳴ってきた。

 ええ? 呪うって……まさか、藁人形のようなものだと思っているの!?


「ただのぬいぐるみだよ! おもちゃ! これは遊ぶもの!」

「あそぶ?」

「うん! 話すより、やって見た方が早いよね!」


 というより、私が早くやりたくてたまらないだけだ。

 大きなぬいぐるみなので、取れるようにセットされているのはママのぬいぐるみと、薔薇妖精のぬいぐるみ、二つだけだ。

 やっぱり狙うのは……ママでしょう!


「あ、そうだ。宝生さん。これって確率機ですか?」

「!」


 確率機というのは、設定した金額に達するとアームのパワーが強くなって景品が取りやすくなる仕様のことを言う。

 ゲーセンビルの三本爪クレーンゲームは大体確率機だった。


 ある程度お金を使わないと取れないようにしている設定なので、元の世界ではスタッフさんに直接「確率機ですか?」なんて聞かなかったけれど、このゲーセンでは私がマスターなので、思い切って聞いてみた。


「はい。そういう仕様になっております」

「じゃあ、その設定はやめて、アームのパワーは確率が来ているときの状態で一定にしてください」

「……いいのですか?」


 景品が圧倒的に取りやすくなるので、経営的にはまずいのかもしれないが、ここは私のダンジョンだ。

 経営を成り立たせるよりも、遊ぶ楽しさを優先したい。


「お願いします!」


 大きく頷くと、宝生さんがパチンと指を鳴らした。


「仰せの通りに設定致しました」

「おおっ」


 パチンで設定が出来るなんて便利!


 これで単純に私の腕次第になった。

 というか、確率が来ている状態で取れなかったらゲーセン好きとしてアウトでしょう!


 私は悲しき私財から二百円を取り出し、コイン投入口に入れた。

 するとゲーム開始の懐かしい音が鳴った。

 あ~ちょっと泣きそう!

 でも、アームを動かすことが出来る時間は限られているので、ゆっくりと感激している暇はない。


 壁にはディスプレイとして、他の景品がつまれている。

 アームをガチャガチャと動かし、この積まれたディスプレイを崩してゲットする人がいるが、私はそういうプレイはしない派だ。

 シンプルに動かす! そして掴む! の真っ向勝負だ。


「このボダンを押して、アームを操作するの。上手に掴んで、この取り出し口まで持ってくることができたらゲットできるの! 見ていてね!」


 ママたちに説明しながら、慎重にボタンの操作をする。

 重心を見て……人形は二頭身で頭が大きいので、頭の方を掴もう。

 前、横と位置を確認。

 アームが降り、「ここだ!」というところで掴むボタンを押した。

 うん、良い感じ!


「よし!」


 狙った通りに動いたアームがママのぬいぐるみを持ち上げた。

 ほとんどはここでぽとんと落ちるが……アームの力が強いから落ちない!

 最高~!

 そして、アームは元の位置に戻ると、しっかりと掴んでいたぬいぐるみを離した。


「やったー!」


 ママのぬいぐるみが取り出し口に落ちてきた。

 無事に一発ゲットだ!!!!

 ああ、この景品をゲットしたときの喜び……それも大きな景品……至福の一時だ!


「おめでとうございます!」


 パフパフ! と宝生さんが腰に付けていたラッパを鳴らした。


「あはは! それそれ! ゲットの時はその音がないとね!」

「袋は必要ですか?」

「持っておくのでいいよ」

「どうぞどうぞ」


 やたら袋を進めてくる宝生さん仕様を踏襲しているのはさすがだ。

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