13、夢の始まり

「いえ、私は『宝生さん』ではありません。ナビゲーターとして生み出された精神生命体です」

「えっ!?」


 奇跡の再会をして感極まる私に、微笑みを崩さぬまま衝撃の事実を突きつけてきた。

 宝生さんじゃないのか……。

 そりゃそうか、連れて来たら異世界誘拐。

 大変なことだよね。


「どうして宝生さんの姿なの?」

「マスターの記憶が影響しています」


 マスターというのは私?

 あ、そうか。ダンジョンマスターか。


「マスターよりオーナーがいいなあ。というか、名前で……」


 そう言いかけてハッとした。

 なんてこと……。


「ねえ、ママ! 私の名前って何!?」


 今世ではまだ名前をつけて貰っていない。

 ずっとぼっちでいたから、名前も必要なかったし……。

 ママに詰め寄ると「あー……」と気まずそうな顔をした。

 私のこと、名前のない可哀想な子だと思いました?

 卵から生まれた私に名付けるのは、ママの役目だったのでは!?


「強欲の卵から生まれたものは『グリード』と名乗る。お前は選別落ちしていたから、名乗る資格はなかったが、ダンジョンを創ったのだから大丈夫だろう。これからはグリードと……」

「えー……嫌。可愛くない」


『強欲』だから、そうなんじゃないかなという気はしていたけれど、女の子にグリードはないでしょう!


「…………」


 私を見るママの目が「贅沢言うな」言っている。

 でも、私が名前すら貰っていない憐れな子なのは、ママにも責任があるのですよ!


「そんな名前いらないから。ママが私に名前をつけて」


 名前をつけて貰えるまで動かん! という態度でいると、ママは渋々考え始めた。


「グリード、グリードグリー……ド……リー……あ、ドリーはどうだ?」

「ドリー!」


 凄く適当に決めた感じだったけれど……悪くない。


「気に入ったよ、ママありがとう! ……ところで、ママのお名前はなんだっけ?」


 選別の時に、一緒にいた人が名前を呼んでいた気がするが忘れてしまった。

 ママって呼ぶから、知らなくても問題はないけれど、自分のママの名前くらいは知っておきたい。


「オベロンだ」

「オベロン? オベロン! 妖精王オベロン!」


 そういえば、妖精たちが「おうさま」と呼んでいた気がする。

 確かにママには、王の風格も美しさもある。


「私も王様と呼んだ方が……いや、やっぱりママって呼ぶね」

「はあ……好きにしろ」


 私には何を言ってもダメだ、という諦めた言い方に思えたのは気のせいだろうか。

 とにかく、ママ呼びは承認を得たので固定します。


 そんなことより!

 念願のゲーセンにいるのだから遊ばないと!

 何をしようかな! と見回したのだが……あれ?


「ゲーム、何もないね?」


 建物は綺麗だが、何もなくてガランとしている。

 前世で見たゲーセンビルよりも広く感じる。


「ゲーム機の設置は、オーナーが選んで決めてください。スキル画面から選択できます」

「なんと!」


 私の好きなようにゲーセンを創ることができるってこと!?

 そんなの、最高過ぎませんか!?

 テンションが上がりすぎて、震えそうになりながらスキル画面を開いた。


「本当だ! ゲームセンターについて操作できるところがある!」


 設置できるゲーム機のリストや、配置場所の設定画面などがある。

 最高にわくわくするー!

 興奮しすぎて私の血管は切れたりしないだろうか!

 そんな心配をしつつ、ゲーム機のリストを開いた。


 クレーンゲーム、アーケードゲーム、プリクラ機や、子供が遊ぶような電車など、ゲーセンビルにあったものは全部あった。

 いや、ゲーセンビルになかったリズムゲームの機体もある!

 前世の世界のゲーセンにあるものは、なんでもあるの!?

 そんなの……永遠に遊んでいられるじゃない!

 やっぱり興奮で死にそう……って、今死んだら後悔しかない!


 ゆっくりこのリストを見ていたいけれど、今はとにかく何かゲームがしたい!

 一番にやりたいのは……。


「クレーンゲームがしたーい!」


 ゲーセンに行くと、必ずクレーンゲームをした。

 好きなキャラクターのグッズは、入荷日に取りに行ったなあ。


「景品もオーナーの要望にお応えすることができます。スキル画面から景品リストをご確認ください」

「ええええ!?」


 宝生さんの言葉に耳を疑った。

 景品を好きに選べる?


 また震えそうになりながらリストを見たら、度肝を抜かれた。


「すごい~~~~!」


 全オタクの夢がここに!

 結局取れなかったキャラクターのフィギアも、人気すぎて見ることさえ出来なかった景品もある。

 それに飲食料……おかしとかジュースとか、伊勢エビとかもあるのですが!?


「異世界にて、『クレーンゲームの景品』として扱われたことのある品物を網羅しております。オーナーがデザインしたものを景品にすることもできます」

「…………」


 これ、夢かな?

 すご過ぎて言葉が出ない。


「あ、そうだ」


 クレーンゲームを設置することは決めたが、その中の景品のぬいぐるみを自作することにした。

 あれを作ろう。

 魔王のフィギアではない。

 あの雄っぱいはじっくりつくるとして――。


 オリジナル景品を作る画面を開く。

 既存の商品をカスタマイズもできたので、今から作りたいものに近いぬいぐるみを画面にだした。

 髪型はこう……色はこれで……服はこんな形で……目はこういう感じで……。

 頭の中に思い浮かべたことが、画面の中で具現化されていく。

 想像したものがそのまま景品になるので、とても簡単で便利だ。

 景品の完成! と思ったが、まだ未選択の項目を発見した。


「付与?」

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