9、到着
「着いたぞ」
「わあっ!」
瞬きしている間に景色が変わった。
さっきまで頭上にあった青空はない。
ダンジョンだから、石造りの暗い空間を想像していたのだが、まるでどこかの城の中のようだった。
「ここは……廊下?」
金糸の刺繍が入った赤絨毯が敷かれている。
窓はないが、壁に等間隔についている照明の光りが強いので閉塞感はない。
長い廊下の中間地点にいるようで、前を見ても後ろを見ても廊下が続いていた。
どちらに進むのだろう。
「ここはダンジョンコアがある最深部の手前だ。行くぞ」
きょろきょろする私の背中を押し、ママが歩き始めた。
そっちなのね。
「本当にあっという間だったね!」
追いかけてママの隣を歩く。
魔王のダンジョンまで一瞬で来ることができたなんてラッキーだ。
遠い場所で辿りつくまでに月日が流れ、ダンジョン創造までまた何年もお預けを食らったらどうしようかと思っていた。
「あ! ダンジョンだと魔物とか出るのでは!?」
「ここの手前まではそうだ。このダンジョンは、お前などすぐに死んでしまうような場所だが、ここからは違う。俺はお前を預かった関係でこの場所の存在を知っているが、普通に進んでも辿り着けない。まあ、魔王の子であるお前ならば、知らなくても入ってくることができるが……ここに来るまでに死ぬだろうな」
バックヤード、スタッフオンリー的な場所なのだろうか。
「ママに連れて来て貰ってよかった~。というか、死ぬ死ぬ言わないでよ。私だってそこそこ戦えるのでは? さっきの火柱見たでしょう?」
胸を張って得意気な顔でママを見たが、返されたのは可哀想な子を見る視線だった。
「確かにあの火柱は凄まじかったが、ずっとあの火柱を出したままダンジョンを進むつもりか? 戦闘経験のないお前は、魔力があるだけで強いわけではないだろう。だから死ぬ」
「…………」
真っ当な解説にぐうの音も出ない。
尚更ママに連れて来て貰ってよかった、と思った。
「この瞬間移動って誰でもできるの?」
「瞬間移動にもいくつか種類があるが、俺のは『空間移動』だ。妖精族はどこにいても『里への帰還』は誰でもできる。だが、一瞬で自由に移動ができるのは、魔力が多い一部の者だけだ。俺と……魔王もその一人だな」
「おおおお!」
私の尊敬の眼差しを受け、ママは誇らしげだ。
「私もできるようになる? 教えて!」
「お前ができるかどうかは分からん。お前はスキルに魔力を注入したり、森で生まれ育って文化と接する機会がなかったのに文化的な暮らしをしていたり……俺には理解不能だ。知りたければ魔王にでも聞け」
「むう。もっと親身になって考えてみてよ」
ママはもっと私を甘やかしてくれてもいいと思う。
長年一人ぼっちにした分、サービスしてよ!
それにしても……前方に扉が見えたけど、遠いな!?
よーいドン! と100メートル走ができそうだ。
「コアがある場所に移動すればよかったのに」
「文句を言うな。考えがあってこちらを選んだんだ」
「ほんとに? 失敗してない?」
下からジロリと疑いの目を向ける。
……むう、斜め下から見るママも美しい。
「お前は選別落ちしているから、コアを取ろうとしても許可されないかもしれない」
「あー……」
「だから誰もいないときにことを済ませるしかない」
「そんな泥棒みたいなことをしてもいいの?」
「コアを授かることができる者が授かって何が悪い」
「!」
そう言い切るママを見ていると、「そうだ! 私にだって授かる資格がある!」と自信が湧いてきた。
「だが、お前がコアを授かると不都合な連中もいるからな。そういう奴らと出くわしたら邪魔をされる」
「なるほど……」
神妙に頷いた……けど、よく分かっていません!
不都合な連中って、兄弟たちかな?
「俺は気配をある程度探知できるが、コアがある場所は探知ができないんだ。だから誰もいないことを確認できたこの場所に来た。念のため、姿隠しの魔法もかけてあるが……」
「文句を言ってすみませんでした」
何も考えない私と違って、色々と考えてくれているママは素敵で頼もしい。
「分かればよろしい」
そこからは黙って歩く。
誰かと一緒似歩くなんて、生まれ変わってから初めてだから楽しい!
ママとお手々をつないでもいいかな?
精神年齢は大人なのに、今まで一人だった反動か、すごくママに甘えたいな~!
ママの手を握ろうか悩んでそわそわしている内に、突き当たりにある扉の前に到着してしまった。残念!
廊下とは雰囲気が違う、観音開きの重厚な石の扉だ。
蛇や竜、鳥や獣の絵が刻まれていて、神聖な空気を放っている。
「禁断の扉、って感じ……」
扉は人が一人通れる程開いたままの状態で放置されていた。
「中からいっぱい声が聞こえるね?」
耳をすませると、数人の話し声と、ドサッという物音がいくつか聞こえた。
騒いでいるのかな?
人がいっぱいいたら、こっそり取ってくるのは難しい。
私もママも、思わず顔が曇る。
「結構な人数がいるようだな……。姿隠しの魔法をかけてはいるが、極力隠れていろ。魔力が強い者ばかりいるようだから、見破られるかもしれない。無駄に動いたり、声を出したりするなよ」
「了解しました!」
お口にチャックをし、こっそり中を覗く。
「!」
真っ先に目を奪われたのは、魔王の瞳と同じ極彩色の光りを放つ、手の平サイズの卵だった。
(また卵! 私の弟か妹?)
「あれがダンジョンコアだ」
「!」
そうなの!? と叫びそうになり、慌てて口を押さえた。
ダンジョンコアと言うと、水晶玉のようなものを想像していたが違ったようだ。
一旦落ち着き、再び中のようを伺う。
すると、コアを取り囲んで立っている数人の姿が見えた。
どれも見覚えがあるような? と思ったら……私の兄弟たちではないか!
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