8、ダンジョンコア
「おい! お前、何をした! 守護者は!?」
ママは地面に張り付いている私を乱暴に剥がし、問い詰めてきた。
十年経ったけれど、私はまだいたいけな幼女のままだよ?
扱いが雑すぎる。ひどいよ!
「守護者がどうなったかなんて、私の方が聞きたいよ……というか……たすけてぇ」
魔力を使い切ったので、また体が重い『だるぅモード』だ。
「魔力切れか?」
「そうなのー……助けて、ママぁ」
「そのママというのをやめろ! こら、くっつくな!」
縋り付く私を嫌そうに引き剥がすママ。
そして、べちょりと地面に落ちた私の口に、マンゴーのようなものを押しこんできた。
んぐっ、窒息する! ……って、何これ……おいしい!
もぐもぐごっくんすると、私はたちまち元気になった。
「魔力が回復する実? ありが――」
「回復したなら、状況を説明しろ」
少しの休息も与えてくれない。
ママってば容赦ない!
でも、無駄口をたたくとまた私を放置して消えていまいそうなので、大人しく話をすることにした。
状況……ここに来た経緯を話せばいいかな?
「私、やっとダンジョンを創るスキルを発動できるようになったの。でも、ダンョンコアがなくて、できなくて……。コアが欲しいから魔王のダンジョンに行きたいんだけれど、どこか分からないから、ヒントを得るためにここに来ました! 以上!」
噛むことなく上手に説明できました! と、自画自賛だ。
ママにも褒めて欲しいと思ったのだが、ママは美しい顔を思いきり歪めた。
「はあああ? 魔力『6』でどうやってダンジョンを創るんだ? 階段一つ創れやしないぞ」
「創れますぅ! あの時は魔力をスキルに入れたばかりで『6』って言われちゃったけれど、本当は『666』だったし、今は『999』です!」
階段をつくるために十年間も苦労していません!
一段の階段なんて、ただの腰掛けじゃん!
ついムキになって言い返してしまった。
「だが……そんなに魔力がある奴が、どうしてチビのままなのだ? 草や木の実を食うのだ?」
「それは魔力をスキルに全振り…………って、どうして私が草や木のみを食べていたのを知っているの?」
「!」
ママの綺麗な目がすいーっと泳ぐ。
「……ママ。もしかして、私のことを見てくれていたの?」
「お、お前のことなど知らん!」
ムキになってそう言うママの顔は赤い。
「ふうん?」
ママがそう言うなら、そういうことにしておくけれど……?
妖精だから、離れた場所から様子を見たり、姿を消して近くに来たりできるのかもしれない。
思い起こせば、私はサバイバル生活なのに食料や衣服に困らなかったり、危険な目に遭わなかった。
それらはママのおかげなのだろうか……!
私、完全に見捨てられたわけじゃなかった、のかな!? と胸が熱くなったが、とにかく今は話を進めよう。
「えっとね。私は自分の魔力のほとんどをダンジョンを創るスキルに回したの。食べていたのは、その方が早く魔力が回復するから。疑うなら、もう一度私の測定してみたら?」
「スキルに魔力を貯める、とはどういうことだ?」
「え?」
なんと!
スキルに魔力を貯めるってないの!?
この世界では普通のことだと思っていた……どう説明したらいいかな?
「えっとね、ダンジョンを創るためには膨大な魔力が必要なんだけれど、一度に使える魔力では到底足りないから、体の中に貯蔵専用の場所を作って貯めて、それを一気に使う感じ!」
「そんなことが可能なのか……」
「うん!」
「……卵の中にいたころから最近までずっと、それをしていたというのだな?」
「そういうこと!」
ママはしばらく思案していたが、ため息をつくと私に言った。
「再測定は必要ない。お前を信じる。先程の火柱は、相当な魔力がなければ起こせないだろう。それでお前は……本当にダンジョンを創ることができるんだな?」
「うん!」
信じてくれたことが嬉しくて、大きく頷いた。
するとママは、まだ地面に座り込んでいた私に視線を合わせ、神妙な顔をした。
「お前に頼みがある。ダンジョンは妖精の里に創ってくれないか?」
「妖精の里!? うん、いいよー」
妖精の里だなんて、響きだけでも心躍る。
ファンタジー全開で素敵だ!
きっと綺麗で可愛い場所なんだろうなあ!
場所のことなんて考えていなかったから、ちょうどよかったかも!
「い、いいのか? 俺は……生まれたばかりのお前を見捨てたんだぞ? そんな奴の言うことを聞いていいのか?」
「?」
妖精の里に思いを馳せ、ウキウキする私にママは驚いていた。
その顔は驚きから、次第に苦しそうな表情に変わっていく。
「……妖精族には、どうしてもダンジョンが必要だった。藁にも縋る思いで、必死に強欲の卵を育てた結果が選別落ちになり、目の前が真っ暗になったんだ。八つ当たりでお前を置き去りにしたが……。幼子を見捨てるなんて、非道なことをした」
そう話すママの表情は、本当に悔いているようだった。
「だから後悔してこっそり見守ってくれていたの?」
「…………」
尋ねる私から眼を背けるように下を向いていたママだったが、しばらくすると真っ直ぐに私を見た。
「……すまなかった。ダンジョンを創ることができると知って、手の平を返すなんて恥ずかしい限りだが……どうか妖精族を助けて欲しい」
私は見捨てられて寂しく、悔しい思いをした。
ゲームセンターで遊びたい! という目的があったから頑張ることができたけれど、やはり十年も一人でいるのは辛かった。
こっそり見守るくらいなら……迎えに来て欲しかった!
思い切り、怨みつらみをぶつけたいところだけれど――。
「ぎゅーってしてくれたら許す!」
元気にそう言うと、ママは目を丸くした。
固まって動かないので、両手を広げてアピールするとママが笑った。
「仕方ないなあ」と言っているような苦笑いで、両手を広げるママの胸に飛び込むと、望んでいた通りにギュッとしてくれた。
つるぺたで硬いママのお胸だけれど……暖かいなあ。
ぼっち人生でも、精神は大人だから平気だと思っていたけれど、思っていた以上に人恋しかったようだ。
私、ちょっと泣きそうです。
思う存分ママギュッを楽しんだあと、私はママに宣言した。
「これで仲直り! 任せてよ、妖精の里に立派なダンジョンを創るね!」
するとママは素敵な笑顔を見せてくれた。
やっぱりママは美人だー!
「恩に着る。では、すぐにコアの回収に向かおう」
「ママが連れて行ってくれるの?」
「ああ。一瞬で到着だ」
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