7、再会

 えいえいおー! と拳を上げたのはいいが……。


「魔王のダンジョンって、どこ?」


 本を読んで探してみたが、ダンジョンの場所までは書いていなかった。

 魔王城の近くにあるらしいが、魔王城がどこなのか分からない。

 私が知っている建造物は、嫌な記憶しかない例の石の台座がある場所だけだ。

 あの場所にヒントはないだろうか。

 都合良く魔王のダンジョンにテレポート! とかしてくれないかな。


「とりあえず、行ってみよ!」


 この十年間、あの場所周辺で生きてきたので迷うことはない。

 森の中は似たような景色ばかりだが、住んでみると花や木の種類、岩や地形などで充分場所を把握できるようになる。

 ダンジョン創造まであと一歩というところまで来たので、気持ちが高ぶっている私は、例の場所までダッシュで向かったのだった。




「ここはいつ来ても変わらないね」


 魔王達がいたときにあった結界はもうないが、石の台座は十年前のままだ。

 苔が生えたり風化しないのは、何か見えない力が働いているのだろう。

 だから、どこかにテレポート機能があっても不思議ではない!


 七人の子供が乗っていた石の台座を順番に調べていく。


「どこかに魔法陣が刻まれていたりしないかなあ」


 隅々まで調べてみたが、これといって気になることはなかった。

 生まれたばかりの私がいた強欲の台座に腰掛け、他の台座を眺める。

 うーん、どうしようかな。


「……壊したら何か出てくるかも?」


 人間は行き詰まると、物に八つ当たりしたり、破壊的な思考に陥るものだ。

 今の私は人型なだけで人間ではないけれど、思考回路は前世のままだ。


 壊したら魔王が怒ってやって来るかもしれない。

 そうなれば「ダンジョンコアをください!」とお願いできる。


「他に案は浮かばないし、やってみますか!」


 石を素手で殴っても壊れるわけはないので、魔法でなんとかするしかない。

 でも、私は魔力貯金ばかりしてきたので、まともに魔法を使ったことがない。

 魚を焼くために、火の魔法は試行錯誤してできるようになったけれど、石は燃やしても壊れないだろう。

 石を壊せそうなのは……掘削機? 掘削機召喚? 無理無理!

 何か硬いもので削れないかな? と周囲を見回してみると、槍のような枝が落ちているのが見えた。

 さすがにあれで石を削るのは無理だと思うけれど、魔力で強化してみたらどうだろう?

 漫画やゲームで見るような魔法は分からないけれど、魔力を注入したり、強化するのは得意だ。


 枝を拾い、嫉妬の台座の前に立つ。

 嫉妬の台座を選んだのは、なんとなくだ。

 ママが怒りを向けていた相手『ママ友』は嫉妬の卵を育てた人だろうな、と思ったからではない。うん。


 両手で握り、構えた枝に魔力をまとわせ、精神集中!

 硬く――より硬く――!


「てぃやー!!!!」


 強化した枝を思いきり振りおろすと、台座が粉々に吹っ飛んだ。


「わああああっ!?」


 破片が飛んできて危ないし、粉塵も目に入って痛い。

 強欲の台座だけではなく、両隣の台座も壊れてしまった。

 どうしてこうなった! 思っていたのと違う!


「なんで~!? ぱっかーんって割れると思ったのに……」

「こら! ポンコツ! 急にこんなところに移動して、お前は何をしているんだ!」

「!!!?」


 突如後ろから怒鳴られ、驚きでビクリと飛び跳ねてしまった。

 何? え、誰!?

 振り返ると、そこにいたのは――。


「ママ!?」


 間違いない。

 まだ卵だった私を管理してくれた……そして私を見捨てた、妖精族のママだ!

 十年経っても、ママは相変わらず美しい。

 サラサラの黒髪おかっぱも健在だ。


「誰がママだ!」

「ママ、どうしてここにいるの?」

「…………っ! そんなことはどうでもいい! とにかく、逃げるぞ!」

「逃げる? どうして?」


 ぽかんとする私に、ママは目をつり上げて怒鳴った。


「神聖なこの場には守護者がいる! 冒涜者は呪われるんだぞ! 呪われると呼吸をすれば針を飲む痛みに襲われ、死ぬまで血の涙を流し、内臓は生きている内に腐り始める!」

「うええええ!?」


 何それ、怖すぎる!

 逃げだそうとしたその時、台座から勢いよく何かが吹き出してきた。

 黒と紫を混ぜたような禍々しい『それ』は亡霊のような形になると、私に向かって突進してきた。


「守護者だ! 守護者は決して倒すことができない! 死ぬ気で逃げろ!」

「ママは!?」

「いいから行け!」

「う、うん!」


 ママは私を押すと、庇うように前に出た。

 私は促されるまま逃げ出したが――。


「あぶっ!」


 焦りすぎて転んでしまった。


「馬鹿がっ! このクソポンコツ!」


 ママの怒鳴り声が聞こえる。

 クソポンコツは言いすぎです!

 振り返ると、ママの横をすり抜け、まっすぐこちらに向かってくる守護者が見えた。


(嫌だ! 呪われたくない! ……自分でなんとかしなければ!)


 守護者には実体がないようなので、強化した枝での攻撃は効きそうにない。


(そうだ、燃やそう!)


 魚を燃やすときの感覚で――最大出力!


「一気に燃えろおおおおっ!!!!」


 ありったけの魔力を込めて火を放つと、轟音と共に巨大な火柱があがった。


「うええええええ!?」


 怖いので火柱を維持しつつも、自ら驚く。

 なんだかすごいのが出たー!


 火柱を止めると守護者が飛びかかってきそうなので、しばらくがんばったが……。

 魔力が減り、火柱を維持できなくなった。


「もう……無理……」


 パタンと地面に倒れこむ。


「あ」


 力尽きた今になって、「走って逃げる元気を残しておいた方がよかったのでは?」と気がついた。


(そうだ、ママは守護者は『倒せない』と言っていた! 私、終わった……。ママ、最後に会えてよかったよ……)


 今世はサバイバルするだけの人生でした。無念。


 諦めて心の遺書を書き始めた私の視界に映ったのは……。

 火柱と共に上がっていた粉塵や煙が引き、露わになった焼け野原だった。

 そしてそこに、守護者の姿はなく――。


「……………………は?」


 いたのは、ぽかーんと間抜けな顔をしているママだけだった。

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