6、あれから――

「ゲームセンターに行く途中に死んだ私は、異世界転生してゲームセンターを創り、幸せに暮らしましたとさ…………って、言いたかったなー!」


 ツツジのような花の蜜をちゅーちゅー吸いながら愚痴る。

 蜜の甘さがやさぐれた心に染みる。


 ゲーセンを作るどころか、卵から生まれてすぐに見捨てられて、人生お先真っ暗スタート。

 石の台座の上に放置され、雨風にさらされて弱っていくしかなった私には、野垂れ死ぬ未来しか見えなかったが……。


「なんとか生き延びたなあ。十年間、森の中で!」


 味がしなくなった花を捨て、おかわりの花の蜜を吸う。

 森の中に生えている自然の花だけれど、あまり取ると可哀想だから、これで終わりにしよう。


 一人ぼっちになってから十年経ち、私は立派な野生児……野良王女になりました!

 すっかり背も……伸びていない!

 卵から生まれた直後と同じ、幼児のままだ。


 何故かというと、七つの大罪の卵から生まれた者は、魔力で体を成長させるそうなのだが、私はそれをしなかったからだ。

 魔力はすべて、ゲーセンを創るスキルに注入している。

 少しでも早くゲーセンを創りたいからね!


 一人で生きていくにあたり、妖精族の青年が置いていってくれた本は、案外役に立った。

 卵の育て方だけではなく、卵から生まれた者についても書かれていたので、自分の体の詳細を知ることができた。

 あ、神様がサービスしてくれたのか、習っていないけれど文字が読めたよ。


 今の私は普通の人間とは違い、魔力で体を維持すれば食べなくても大丈夫だった。

 そのおかげで、孤独幼女でも餓死せずにすんだ。

 簡単には野垂れ死なない、タフな体で生まれたことだけは魔王にお礼を言いたい。

 そして、見捨てた恨みと、あの素晴らしい雄っぱいは忘れない。

 いつか絶対ゲーセンのフィギアにしてやる!


 私は食べなくても生きていけるけれど、食べると魔力が回復するので、なるべく食べるようにしている。

 元人間だから、食べることが好きだしね。


 食べる物は、主に食べられそうな草や果実、きのこ、魚など。

 自然でゲットできるものばかりだ。


 ずっと鬱蒼と茂った森で生きているが、それらの確保に困ったことはない。

 果物は適当に歩いていてもよく見つけるし、魚も何故か私の近くでフラフラ泳いでいたりするから素手で取っている。

 喉が渇いて水場を探していても、視界に入って気になった蝶々を追いかけたら綺麗な泉に辿りついたり、案外余裕でサバイバル生活ができている。

 ああ、でも……。


「からあげ食べたいなあ。お寿司食べたいなあ。ケーキ食べたいなあ」


 空腹になることはないけれど、色んな味のものが食べたい!

 お肉が食べたい!


 この十年間で何度か狩りに挑戦してみたけれど、動物を攻撃するのは可哀想でできなかった。

 兎さんを狙ってみたけれど、あのつぶらな瞳を見ていると「食べなくても生きていけるのに、私を殺すの?」と言われているようで無理だった。


 でも、ゲーセンができたら、お肉系を食べることができるかも!

 クレーンゲームの景品で、箱入りのサラミなどがあったはずだ。

 ああ、早くゲーセンを創りたい!


 景品の中に服もあるだろうか。

 キャラクターの服や、着ぐるみのようなパジャマの景品は見たことがあるから、ゲットできるかも?

 まあ、服には困っていないけれど……。


 今私が着ているのは、何故か森に落ちていた服だ。

 サイズも私に合っていて、着心地もいい。

 拾った服は一枚だけではなく、定期的に幼女服が落ちている。

 森を徘徊している幼女が私以外にもいるのだろうか。

 出会えたら友達になりたかった。


「……よおおおおし! 蜜を吸って回復した! これで! いよいよ!」


 食べて、寝て、魔力が回復したらスキルに注入を繰り返し、苦節十年――。


【ユニークダンジョン・ゲームセンター創造 MP:9999999(9999646)】


 あと353! ようやくここまで魔力を貯めることができた。

 がんばったね、私!

 誰も褒めてくれないけれど、本当によくがんばったよ、私!


 蜜を吸って回復した魔力を注入すれば、魔力貯金が完了し、スキルを発動できるようになるはずだ。

 現在貯まっている魔力の数値9999646が、「ククク、苦労しろ」に見えてしまうのは気にしない!


 意気揚々と魔力を注入すると――。


「あ……ああ……!! スキル名が光ったー!!!!」


 使えるようになったぞ! と知らせているように、スキルが点滅し始めた。

 やった……やったああああっ!!!!

 嬉しくて涙が滝のように流れる。前が見えないよ~!


 今までの苦労が走馬燈のように脳裏を駆け抜ける。


 本当につらかったけれど、この瞬間のためだったと思えば報われる!


 いざ!!


 スキル――発動!!!!


【ダンジョンコアがありません】


「…………は?」


 警告するような赤文字で現れた一文に呆然とした。


「ダンジョンコア!? 何それええええ!?」


 あまりにもショックで、「ナニソレー、ナニソレー」という鳴き声を発するだけの生き物になってしまった。

 ホントニ、ナニソレ―。


「ククク、苦労しろ」はフラグだったの?


「……そうだ! 知らないことが出てきたら、とりあえず本を読む!」


 もうボロボロになってしまった『魔王候補になる卵の育て方』を見ると、知りたいことが書かれてあった。


「何なに? ダンジョンコアは、魔王が創ったダンジョンにある。株分けによって出現する次代魔王のダンジョンコアは、持つに相応しいものだけが受け取ることができる……?」


 コアは相応しい者だけが貰えるってこと?

 聖剣を抜くことが出来たら勇者、みたいな感じ?

 次代魔王になるつもりはまったくないし、なれるとも思わないけれど……。

 コアがないとゲームセンターを創ることができないのなら――。


「……貰いに行くか! ダンジョンコア!」

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