『慧眼』
鋭利な風が飛び交う真冬の森。
銀世界の中に、赤い道が延々と伸びている。切り株を一回りし、倒木を
その道を、一人の少年が歩む。
終点まで辿った後、彼はおもむろに足元の雪を
掌の上で静止する、柔らかな白塊。
それは、死んだ野兎であった。
少年の背後から、石弓を片手に持った
「流石は俺の息子だな。あの距離から見つけるとは……」
少年は満面の笑みを浮かべた。
「へへっ。オレの目なら、どんな遠くからでも分かるよ。友達に、鷹よりずっと鋭いって言われたんだ」
「大人になったら、あの鬼だってやっつけてやるさ! 胸を射ってやれば一発で……」
「やめておけ」
すぐさま、男の声から暖かさが消えた。少年はひどく驚いた顔で尋ねる。
「……なんで? みんな鬼を怖がってるのに。小さい子達が危ない、早く森から消えてほしい、って」
「お前はまだ、奴がどういう存在なのかを知らない」
「知ってるよ! 教会の西に棲んでて、熊ぐらい大きくて……」
「そうじゃない。もっと根本にある事だ」
少年は何も言い返せず、黙り込んでしまった。その様子を見て、男がそっと呟く。
「お前には、もっと考える事を教えてやらないとな。確かにその目は村一番の優れものだ。しかし、それ一つを頼りにして動いてはいけない。人間、獣、鳥。彼らを一目見ただけで理解するのは不可能なんだ」
男は、遠くを見つめるような目をした。
「いつか教会に行くことがあったら、神父様に聞いてみるといい。奴は……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます