『慧眼』

鋭利な風が飛び交う真冬の森。


銀世界の中に、赤い道が延々と伸びている。切り株を一回りし、倒木をまたぎ、少し先の開けた場所でプツリと切れていた。


その道を、一人の少年が歩む。

終点まで辿った後、彼はおもむろに足元の雪をすくい上げた。

掌の上で静止する、柔らかな白塊。



それは、死んだ野兎であった。



少年の背後から、石弓を片手に持った頑健がんけんそうな男が現れた。彼は、少年の顔と抱えた亡骸を交互に見て、誇らしげに言った。


「流石は俺の息子だな。あの距離から見つけるとは……」


少年は満面の笑みを浮かべた。


「へへっ。オレの目なら、どんな遠くからでも分かるよ。友達に、鷹よりずっと鋭いって言われたんだ」


「大人になったら、あのだってやっつけてやるさ! 胸を射ってやれば一発で……」


「やめておけ」


すぐさま、男の声から暖かさが消えた。少年はひどく驚いた顔で尋ねる。


「……なんで? みんなを怖がってるのに。小さい子達が危ない、早く森から消えてほしい、って」


「お前はまだ、奴がどういう存在なのかを知らない」


「知ってるよ! 教会の西に棲んでて、熊ぐらい大きくて……」


「そうじゃない。もっと根本にある事だ」


少年は何も言い返せず、黙り込んでしまった。その様子を見て、男がそっと呟く。


「お前には、もっと考える事を教えてやらないとな。確かにその目は村一番の優れものだ。しかし、それ一つを頼りにして動いてはいけない。人間、獣、鳥。彼らを一目見ただけで理解するのは不可能なんだ」


男は、遠くを見つめるような目をした。



「いつか教会に行くことがあったら、神父様に聞いてみるといい。奴は……」

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