Episode11:総力戦

 ここはケカル帝国。今はイレギュラーの巣窟になっている。国会議事堂っぽい見た目だった建物が無残にも破壊されて、ガノン城に負け劣らずほど禍々しい城が今、レベッカ達の前に聳え立っていた。門扉を動かし、突入した。

「まず手始めに、囚われた私の仲間を解放しよう。君たち、いくよ!!」


 次の部屋に入ろうとすると、邪気に阻まれて進めそうにない。

「何てことだ!!通れないじゃないか!!」

「もしかして、囚われた人の生命エネルギーでバリアを生成しているというのか。」

モニターに映ったのは、例のあの人こと「テリー」だった。

「テリー!!私たちの仲間に何を!!」

その時、映像は囚われし6人に切り替えられた。

「みゃぁ!!変態!!特に女のへそが見え見えみゃう!!」

「へそ責め?」

「これがアンジー楓のへそか...。」

「早苗のへそまで......。奴はどんだけ変態なのか......な。」

「これが奴の縛り方!?やりすぎ!!」

6人中5人のへそがチューブで繋がっている。このままでは、次第に6人の生命エネルギーが吸い尽くされ、死に至る。制限時間はざっと約60分。

「一刻の猶予もないってか。......とにかく、6人の生命エネルギーが尽きる前に解放しよう!!」

命を懸けた救出作戦が始まった。


 まずはモグの解放から。沸き上がる幻影を薙ぎ払い、一本道で簡単だった。拘束具を解除し、解放した。

「ふー、助かったぜ。」

「ここは奴の本拠地なのに、なんか手応えがないっていうか?」


 次はハーヴの解放へ向かった。モグルート同様、手応えのない敵を薙ぎ払い、拘束具を外しハーヴを解放するだけ。だが、そうはいかなかった。モグ以外の5人がチュールで繋がっているので、抜くにはコツがいるようだ。

「Damn!!こんなときにドクターさえいれば、簡単に抜けるだろうけど。」

「ちょ、レベッカ!!ドクターの力を借りてどうするのよ!!」

「...ただの冗談だよ。ほら、ドクターがいなくとも、こんな仕組み、小学生だって取り外せる。」

ハーヴのへそからチューブを取り外せたようだ。

「助けてくれて、ありがとうだべ。」

「長い間こんなふうに拘束されて、つらかっただろう。よし、次だ。」


 アンジー楓のいる部屋へ向かった。先ほどの二つとは違い、まるで大きなおもちゃ箱のような遊び心のある、刺客や幻影のいない作りになっていた。床に敷いてある罠を掻い潜り、ハーヴ同様、チューブを取り外して救出した。

「助けてくれてありがとう。怖かったよ。」

「待たせてごめんな...。次。」


 アイス早苗を救出するために、次の部屋に入ったが、そこには広大な部屋になっており、刺客や幻影が多数、それどころか壊滅的なル・サーマ・カケマー作のピアノ演奏が流れていた。

「何よ、この不愉快な不協和音は!!」

ピアニストであるヒメはさすがに引いていた。それはさておき、刺客を薙ぎ倒し、前へ進み、他の女性同様、拘束具を外した。長い間監禁されてきたアイス早苗は自分らしくなく泣きついてきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!怖かったよ!!!!!!!!!!!!」

「...こんなに泣きつく彼女は初めてだ。さぁ、次。」


 マリア愛美の解放のため、次の部屋へ向かった。内容ははアイス早苗同様である。

「どうなっているの?原作者の知人の腕は...。」

ピアノ音を気にしながら奥へ進み、マリア愛美を解放した。

「...災難だったな。」

「怖かった...。もう少しでテリーにぶたれるところよ。」


 さて、残るはリサななだけ。気を引き締めて、まだ出入りしていない最後の部屋に足を踏み入れた。アンジー楓監禁場所とは違い、迷宮のような作りになっていた。景色に溶け込んでいる壁にぶつかりながらも奥の部屋まで進み、リサななを解放した。

「怖かった。寒かった。もうまっぴら!!」

「よし、ミッションコンプリートだ。中央ホールに戻ろう。」


 中央ホールに戻り、結界が消滅されているのを確認した。

「これでタワーを守る結界は崩れ落ちた。君達、いくぞ!!突入だ!!」

突入と言いたいところだがロドゆいは本当にこれでいいだろうかと、まだ心の準備ができていないのであった。

「待って!!まだ心の準備が...。ちょっとだけ、話の整理しよ?これまでの僕たちは何をしていたのか、何があったのか。」

「...そうだね。息抜きが必要ってことか。じゃあ、兄貴がやらかしたことと、私たちを巻き添えに、このように散らばったこと。2月から3月の間のもの全部、お話しようか。」

レベッカは2月および3月の出来事全てを振り返ることになった。


 2月頃、紅白で2位になったことに喝采するレベッカ達だが、原作者の口から告げるまではイレギュラーの魔の手が迫ってきたことに気づかなかった。2月14日より激化が顕著になり、いくらレベッカ達でもイレギュラーにかなうはずもなく3月11日に完全敗北を喫した。ナイアガラの滝に飛び込んででも二度と出てくるなと言わんばかりにトドメを刺され、追い詰められた原作者とレベッカは撤退を余儀なくされていた。


 『レベッカ、アンジー楓、モグ』『リサなな、ヒメ、ロドゆい』『マリア愛美、ハーヴ』『ミント彩香、ミコ』『アイス早苗単独』やがて集めてきたレベッカの仲間達は4チームに分裂されてしまった。ジャズ賢一やクラベス鈴菜、カラダデカイはそれ以前よりエネルジコを手伝いに出張したためか、白之助は3月頃より里帰りしたためか、一応難を逃れた。その時のヘルバタは敵側についたセシル達に連れ去られてしまった。ビートは姉のロドゆいが力を振り絞って、弟をニューヨークに逃がした。アレグロ雪郎に聞くまで弟の近況は知らなかった。アイス早苗はアレグロ雪郎との協力で、単独でテリーに関する調査を進めていたが、すぐに見つかってしまい、セシル達に連れ去られてしまった。これが戦いの旅に出る前の出来事であった。

「あらすじはこれくらいかな。さて、最上階まで進もう。みんな立って。さあ!!」

「そう急かすなレベッカ。懲らしめてやりたい気持ちはわかる。一歩一歩進みながら、どう立ち向かうのか考えようや。」

「......それはそうだね。ゆっくりでも構わないが、兄貴に仇なす輩はどうも私が許さなくてね。早々ケリをつけなくては...。」

「リラックスが必要だよ。なんか、レベッカらしくないね。」

例のあの人のことを考えるとレベッカは心のどこかから腹立たしいほど荒らげている。冷静さを維持するためにはリラックスが必要だ。

「な、ここはもう少しリラックスしよう。」

「...寝てもいい?そのほうが一番落ち着くんでね。」

「よし、休憩が必要だ。ゆっくり休もうぜ。」

皆は最後の戦いに備えて、一休みをすることにした。


 戦艦鬼ヶ島に座乗しているロバートはそろそろ限界が近づいてきた。

「Dannazione!!きりがない!!右方、左方に敵艦が次々と湧いてきてる!!レジーナ達よ!!一旦退け!!」

後方の敵艦はレジーナ達により制圧したしかに見えた。しかし、ロバートの命令を無視したせいか、戦艦鬼ヶ島は窮地に立たされていた。...という心配はなかった。アレグロ雪郎が率いるエリートガードが救援に駆けつけてきた。

「俺たちエリートガードが来たからには、もう大丈夫だ。もうひと踏ん張りだ、頑張れ!!」

「リーダー、先にいってください。ここは私たちが。」

「ああ、頼んだぞ。ジャッカルヘッジホッグ、白之助、彩香、いくぞ!!」

アレグロ雪郎とミント彩香、ジャッカルヘッジホッグ、白之助はケカル帝国に乗り込むために去年の海水浴で使われていたボードで発進した。30分もかかるのだが。


 エリートガードの部員を束ねるリーダーは不在なので、ロバートに指揮を委ねるはめになった。救援が増えたところで、戦況は変わらなかった。

「僕一人じゃ無理っしょ。せめてランドルフといった、まともな友があればな......。」

ところが、もうひとつの助っ人であり、ロバートの友「ランドルフ・ブラック」が救援に駆けつけてきた。エリートガード飛行隊が連れてきた形でのお出ましだ。パラシュートを展開し、ロバートのサポートを担った。

「ランドルフを連れてくるとは、エリートガードの連中、徹底的に僕たちをサポートする気だな?」

「何を言っている、ここは厳しいだろう?なので、俺が徹底的に君たちの戦艦をフォローする。」

「恩に着るよ、僕の友。昔から僕たち気が合っていて、最高だ。」

ランドルフとはロバートの古き友であり、親友でもある。従妹有り。彼のガールフレンドがいるらしい。

「ねえランドルフ。レジーナのこと、どう思う?今は後方の敵艦に乗り込んでいる。僕の命令は受け付けてないままだ。だからよ、君の手で彼女を連れ戻してほしい。」

「御意。」

ランドルフは後方の敵艦に乗り込み、艦上に敵がいないことを確認しつつ、レジーナに接触した。

「ら、ランドルフ!?私は今、敵艦を乗っ取ったところだよ。がら空きになった艦を放置とか、もったいないだろ?考えがあるって、ロバートに伝えとけ。」

「はあ......。」

エリートガードの船にこっそり乗り込んでいた黒史郎がエルエーにそう伝えた。

「CIA諜報員ロンガーム・ショックコース氏よ、貴殿にすべきことがあろう。敵陣に乗り込み、白之助氏を援護するのである。拙者はエリートガードの皆共の援護にまわる。」

「......言われなくてもいきますよ、我が同志の鬼行百夜さん。」

エルエーはアレグロ雪郎を追うためにクルーザーモードにトランスフォームし、ケカル帝国へ向かっていった。


 戦艦鬼ヶ島の乗組員が6人、後方の敵艦が10人。エリートガードの船が味方だとしても、レジーナによる一隻制圧したとしても、相手が二隻...四隻。人数的に戦力が足りていない。戦いの結果はどうなるのか、先の話である。


 休憩を済ませたレベッカ達は、最上階への階段を上った。先の部屋に入り、つわもの刺客2名を薙ぎ倒し、次の階段を上る。階段を上るたびに、敵がどんどん強くなっていくという仕組みだ。つわもの刺客よりも手強いハイテクロボット2体が待ち受けていた。元々愚者を粛清するために作られたものなので、10人中2人負傷者が出たものの、ミコの炎で機能停止させた。この土壇場でレベッカの拳に滅竜の力を宿した。プラズマビーム、プラズマパンチ、プラズマフィンガー、プラズマ弾、プラズマスクリューといった超強力な技を獲得した。

「これが、滅竜の力...。」

それはそれとして、次の階段を上ると、最強のガーディアン2体のいる部屋へたどり着いた。この2体は元々ル・サーマ・カケマーのガーディアンロボットだったが、例のあの人によって回路をいじられて傀儡へと成り果てた。想像を絶する強さで、モグ、リサなな、ヒメ、ロドゆい、マリア愛美は大ダメージを受けた。レベッカは滅竜の力を試すとして、プラズマビームを連射し、ガーディアンロボットを蜂の巣にした。滅竜プラズマは、複数の敵または敵の肉体を貫く最強の力だ。

「この力があれば、どんな雑兵だろうと一掃できる。奴以外だがな......。」

さらに階段を上り、プラズマパンチで扉をぶち破り、何もない部屋から次へ、長そうな階段を上った先に、ラスボスが待ち受ける部屋がある。レベッカ、アイス早苗、ミコ以外の7人が先ほどの戦いで負傷していて、万全じゃない状態でいくのか不安でたまらない。後戻りはできないとわかっていて、それでもレベッカは前へ進んだ。


 そこにはラスボス「テリー」が部屋のド真ん中に佇んでいた。目の前の巨悪に怯まずに、レベッカはこう言った。

「久しぶりだな、テリー。これまで貴様がやらかしてきた因縁の決着、つけさせてもらう!!」

レベッカに続き、愉快な仲間達も。

「...原作者を追い詰めた諸悪の根源、決して許されることではないみゃう。」

「怖っ。」

「...悪の権化。」

「...アンタなんかにやられるのは、もうまっぴらよ...やっちまえ...。」

「...もういっぺん原作者やレベッカに手を出してみろよ......!!」

「僕の後輩に手を出す奴は...許さないよ...。」

「...あたいらを殺す気...?」

「...テリー。」

「...よくもあたしたちにひどいことを......!!」

テリーの目からして、レベッカ達はただ吠えるだけの負け犬としか見ていなかった。


「テリー、私たちや兄貴にとって最大の敵。奴は、人の心などはなっから持ち合わせてはいない。この世界における、越えてはならないラインを越えたイレギュラーの存在。取引や交渉に応じる相手ではないことは、兄貴や私が一番よくわかっている。ただ吠えてるだけでは奴に勝てない。だったら正面から立ち向かえば、なんとかなるだろう。相当の覚悟が必要だが......。」


 テリーは2009年9月3日迎えるまでは元々目立たない普通の人間だった。何らかの拍子ではっきりした理由がわからないまま、勝手に憎悪を抱き始めて、原作者の動画を投稿しただけで彼の怒りが爆発し、翌年に入ると周りの人にも危害が及ぶようになった。それどころか、原作者と関わった人は消さんと言わんばかりに1999年10月下旬に起きた桶川で特定の女子大生を執拗に狙い、それだけでは足りず関わった人を巻き込んで、そして手にかけたヴィランよろしくストーキング、ハラスメント、恐喝行為を繰り返してきた。いつ全員消されるかは、おかしくない。だが彼は学校や海外に手出しできないという盲点がある。おかげで亡命者は彼の監視から逃れたほか、セーフゾーンこと日本支部に身を置くことで十分な時間稼ぎができた。


「...世界中の仲間を集めて、ここまで来たんだ。アイス早苗、ミコ、私たちの雪辱を晴らすために、絆で悪を討つぞ!!」


 これは、目の前の脅威に屈せず彼女の名前の意味通り、人と繋がり団結し脅威に立ち向かうレベッカ最後の物語である。

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