Episode10:セシル

 ここは日本海。地図では太平洋より小さいだが、実際はとても広い海でもある。戦艦鬼ヶ島に搭乗しているレベッカたちは、海の中心「ケカル帝国」を目指していた。今のところ敵影もなく、順調に航海を続けているのだが......。

「やけに静かだね。ま、どんどん進めちゃおう!!」

日本海の中心まで近づくと、前方後方に敵が確認された。前方は飛行挺、後方は戦艦、前後に挟まれたレベッカ達はピンチに陥った。

「...まんまと、罠にはめられたってことか。どうしよう...。」

「ここは私たちが引き付ける。その間に、あがりな!!」

レジーナをはじめとする世界の仲間達は後方の戦艦に、ミュゼットとハルミ、ガジュは前方の飛行挺に乗り込んだ。レベッカと愉快な仲間達はそのまま敵の本拠地に突入した。ロバートは戦艦鬼ヶ島の操縦を任された。


 飛行挺に乗り込んだ三人は、物陰に隠れながら味方を作ろうと進んでいた。

「さぁ、信用できる仲間を作りましょ!!」

「うん!!ミコの為に。」

船内に刺客、幻影が多数潜んでいるのだが、中には諜報 員、潜入者が少なからずいるらしい。潜入者の声を聞きながら...。

「モナさん...無事でいてね。」

「モナさんってもしかして、捕らわれているの?」

「一緒に潜入したが、敵にモナは捕らわれた。ついてないな......。」


 次の潜入者の声も。

「テリーって最低だな!!無関係の人を巻き込みやがって、なんという愚か者じゃんか!!そのせいか、ミヤオはいなくなっちまった。全部テリーが悪いんだ!!俺がぜってぇ頃してやる!!」

「お、落ち着いて!!」

「...ミヤオの仇.....討ちたいな。」


 その次の声が。

「世界を牛耳る帝王がいる噂を聞いてここに乗り込んでみたが、それほど恐ろしい人とは。奴の意図は何なのか、よーく視察する必要ありそうだ。」

「私だって知りたいよ。例のあの人のせいでバサカは......。」


 さらにあんな潜入者の声も。

「聞いて驚けよ。奴がひとんちに土足で足を踏み入れ、無関係の人に手を出したらしいぞ。何が『ベガ氏も怒っているのでは。』だ、ふざけるな!!無関係の人に何か関係あるのか?『長年のあのペガマンでさえBRD様には敵わないだろう。』って、何故無関係のはずのペガマンに手を出すだろうか?人に魔の手を伸ばすイレギュラーがいなくなれば、永劫の平和は約束されるだろう。...なんか悪いな、志よ。」

「は、はあ......。」


 潜入者の他にこんなのが貼ってあった。その内容とは、当ケカル帝国のログから抜粋したものだった。

「酷い内容...。だからといって終わってんだよ、はないだと思うの。わかる?」

「私もポーキーモン好きなんだけど?金をドブに捨てるような奴には絶対わかりっこない。」

「シルバームーンのパッケージ、結構好みだよね。」


 貼ってある紙切れはさておき、部屋の奥まで進んだ。そこにはセシルといった刺客三人が待ち構えていた。レベッカワールドの一員のルイザがこのような形で拘束されていた。

「うぁぁぁ...ダイナシー......。」

「(許せ、ルイザ。)」

捕らわれの身になったルイザに申し訳ないと心底思うセシル。ハルミは彼に問いをかけた。

「あなたは誰?」

「俺はセシル。ご主人様のシモベ。」

「おほほほ、これは可愛いハルミ。実に可愛いですよ~。ヨイショっと。」

「私は、ルイザのシモベだぜ、この嘘ホント。パクリキャラ乙。」

刺客の言動に怒りを露にするミュゼット。これも耐えがたいものでもあった。

「あんた、私に向かってパクリキャラと言ったな。許さない。」

「ま、いいや。ご主人様の為ならなんでもする。ご主人様の言う、パクリキャラとやらを拘束した。」

そこに人質が数人縛っていた。

「アレックス!!メグミ!!ヘルバタにアマデ!!」

「私の相棒まで!!」

レベッカの仲間のヘルバタに、ロバートとともに戦線に出たアレックスやメグミ、アマデやデイカが敵に捕らわれていた。

「た...助けてください......。」

「助けて、ハメられたにゃ。」

「ガジュ~、なぜだかわからへんけど、捕らわれてしもうたや。」

「...なんてことを!!本当のご主人様は、ルイザなんでしょ!?なのに、なんでひどいことを!?」

「それを聞いて、どうする?」

セシルが答えそうにないが、ルイザなら何か知っているようだ。

「私のかわいい部下に裏切られたんだよ。」

「裏切られた......?」

「そうだよ!!あの日、ある理由で!!」


 そう、あの日とは今年3月のことだった。ルイザは女二人、男一人をスカウトしてグループ「オイロケズ」を結成した。

「実に素晴らしい。私のいいコトどりグループ『オイロケズ』よ!!」

「いやぁはや素晴らしい。でも一番凄いのは私たちのご主人様、ルイザ様でございますねぇ~。」

「ご主人様は僕ちんだ、この嘘ホント。」

「おや、まだわからないのか?その人はすごい嘘つき女なんだぜ?」

しかし、その愉快な日々は長くは続かなかった。なぜなら、知っての通り3月時点で既に...。

「塵芥と成り果てやがれ。」

「ひぃぃぃぃ!!」

ルイザは絶望した。目の前の巨悪に屈したのだ。もう勝ち目はないと悟ったセシルが取った行動とは...。

「ちっ、敗れた。もうだめ。......元ご主人様ことルイザを裏切り、奴側に寝返るしかないか。ルイザ、気の毒だが俺は新たなるご主人様『テリー様』に仕えることにした。男はイロモノよりチンピラが好きなんでね。」

「おぉ~~、偉大なご主人様。アナタ様はルイザなんかより何百倍も強いでございますねぇ。」

「私、ルイザのこと大好きだぜ。この嘘ホント。このっ!!」

「うぅ......ぅぁああああぁぁぁぁぁあ!!!!!!」


 ルイザとの信頼関係、己の自由や名誉と引き換えに、敵側につくことでルイザを除いたオイロケズの身の安全は保証された。ルイザの口から語られるツラい事情にハルミは涙した。

「なんてことを......。」

ミュゼットはあるじへの信頼を捨てたセシルたちに怒りを隠し通るはずない。

「おい!!」

セシルは開き直った。

「それがどうした!!強い奴につくのが俺たちの生き方だ!!恐れ戦いた弱者はご主人様にとって邪魔な障害だ!!」

「...あなた、最低よ!!」

「貴様らまとめて、塵芥と成り果てやがれぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

「覚悟しろよ、このオカマ野郎!!!!!!」


 セシルらオイロケズとの戦いが始まった。ずる賢いセシルはガジュに囁く。それを見たデイカは黙ってられない。

「うちの相方に何しようってんねん!!」

拘束を破り、助太刀してきた。ミュゼットも負けてらんないと燃え上がり、アマデを救出した。4人揃ったことにより、秘められた力をもたらした。


 ハルミはとりあえず人質の解放を優先した。密かに順番にヘルバタ、アレックス、メグミ、ルイザ、それぞれ一人ずつほどき、ミュゼットたちの戦いを見届けた。人質が解放されたことに気づくも、デイカの怪力によって何もできないシルビアとアリサ。業を煮やしたセシルは最後の悪あがきをした。

「俺は負けるわけにはいかないんだぁ!!俺たちも命が懸かってるからなぁ!!!!!」

それに対してガジュは、意味深な台詞を発した。

「本当にこれでいいの?あなたは、本当は人質を助けたいんでしょ?」

「うぐ......。」

「あっけない...。」

もう後がなく追い詰められたセシルは4人に命乞いをした。

「助けてくれ。全部例のあの人のせいだ。奴が日本を、世界を混乱に陥れようとしている!!だから、俺のしてきたことは目をつぶってくれ!!」

「...雪郎の妹にひどいことをしたのは許さない。見苦しい言い訳で許されるとでも?」

「ミュゼット、この人はもう悪いことしたくないって心から思ってるよ。許してあげてよ。」

「うちらを始末せえへんかったのは、あんたの心に迷いがあるということやな。」

「こうやって、私たちを生かしているのにゃ。どうにゃ?彼らがやっていること、矛盾しているにゃん?」

「だが、雪郎の妹と妖精持ちの姉は敵の本拠地に送ったじゃん。3人に免じて許してあげる代わりとして、いままで悪いことをしてきた分、償ってらわないといけないね。...レベッカたちに協力して。」

「ああ、わかった。協力する。」

「実に素晴らしい。私達もレベッカ達の為に協力してさしあげましょう。」

「テリー様の為なら何でもするぜ、この嘘ホント。ミュゼットの言うとおりだ。」

セシル達はレベッカ達に協力してくれるようだ。既に解放したヘルバタは協力してくれるセシル達に感化していた。

「姉さんの仲間達を助けてくれるようで何よりです。...事情があるとはいえ、私たちを生かしてくれたことに感謝します。」

「それより、レベッカ達と世界の仲間達は今、奮闘している。二手に別れて行動することになるけど、誰が出るのかな。」

レベッカ達か、世界の仲間達か、どう決めるのか話し合っていた。

「じゃあ私とハルミはそのままレベッカ達の元へ直行する。」

「私もです。姉さんが心配なので。」

「俺は例のあの人に蹴りをつけないとね。」

「もちろん私もですよ。」

「世界の仲間達だ、この嘘ホント。やっぱ例のあの人のいる城じゃ。」

ヘルバタ、セシル、シルビアとアリサはレベッカ達との合流を選んだ。それ以外の人達は世界の仲間達を援護することになった。次々と降りていくアレックス達、ガジュとデイカ、アマデはこれから敵の本拠地へ向かっていくミュゼット達を見届けていた。

「頑張って例のあの人を倒して...。」


 未だに猛攻を続けている敵艦、ロバート一人で戦艦を動かすのが精一杯。アレックスとメグミ、ルイザ、スフィア3人や潜入者が降りてきたことで、「これは助かる。」と有利に進めていた。

「レジーナをはじめ、世界の仲間達は敵艦に乗り込むと突っ走っていたが、レベッカ公認の仲間なら手助けしてくれる、戦いやすい。礼を言うよ。アレックス、メグミ、後方の敵艦を止めるぞ!!」

人員が増えた戦艦鬼ヶ島は全力で後方の敵を足止めした。レジーナ達も敵艦内で奮闘し続けている。彼らが時間を稼いでくれたおかげでレベッカ達は無事、ケカル帝国に到着できた。海上は彼らに任せ、レベッカ達は敵の城へ目指して進んでいた。


 さぁ、ここからが正念場だ。

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