Episode 8:海賊船長

 日本支部に戻ったアレグロ雪郎は、原作者に何か話していた。

「その...取り乱して悪かったな......。」

「それより、我が看板娘レベッカは何処へ?」

「...エルエーの件が精一杯で、レベッカの事を伝えそびれたな。レベッカなら、木枯らし壮にいる。今から迎えにいくところだ。」

「よし。レベッカのことは雪郎に任せるとしよう。...愛美の兄さんである君を信用しているからね。」

かしこまったアレグロ雪郎は、早急に迎えにいこうとしたその時、テレビにニュース速報が流れていた。

「ニュースをお伝えします。町中に少年が暴れているようです。警察は少年を確保しようと説得を試みましたが、聞く耳を持たず逃げられてしまい失敗に終わりました。少年は、何者かに狙われている、死にたくない、助けて、と......。」

バサカ絡みの事件を確認したアレグロ雪郎は、レベッカを連れてついでに、この事件を解決に向かうつもりであった。


 まずは当初の予定通り、レベッカのいる木枯らし壮へと向かった。もちろん、レベッカとガジュがいた。

「ガジュの保護ご苦労。さて、バサカの確保にいくぞ。」

レベッカを連れて、バサカのいる現場へ向かおうとするが。

「待って!私もいく。...私がエルエーの計画に加担した、だから、けじめつけないと。」

「...しっかり俺に掴まってろよ。どんな危険が待ち構えているのか、レベッカならもう、わかっているはずだよな。」

一同はバサカの捜索に出て、現場へと向かった。既に逃げられた模様。警察に話しても相手にしてくれない、レベッカは自分なりのやりかたでいくことにした。

「雪郎、警察に話しても相手にしてくれないよ。私のやり方でいこう。バサカの逃走先は、たぶん意外な場所かな。例えば公園とか。」

「それはありうるな。人目のつかない場所はもちろんだが、公園で見つかりにくいといえば、つまり、あれだな。アニメに出てくるあの意外な遊具。」

レベッカの提案に乗り、一同は逃走先と思わしき公園へ移動し、バサカが隠れそうな遊具をくまなく調べていた。意外なことに、木の中に隠れていたバサカを発見した。

「ビンゴ!!さすがは原作者のお気に入りだ。子供の隠れ場所といえば、木の中ではないか。さ、おとなしくしろ。エルエー...コチウニの手のひらに踊らされ、俺の祖父が殺された事はバサカ、あんたなら何か心当たりがあるはずだ。」

アレグロ雪郎はそう確信しているようだ。

「バサカ、ひどい目には絶対に遭わないっぺ。いやだ。」

「落ち着いてバサカ。私たちはなにもしないから。ね。先生のもとに帰ろうよ!!」

誰の言葉にも耳を傾けないバサカは牙を剥く。

「...先生。やっぱりバサカは保護すべきだよ。お縄につけて、ね。」

いささかバサカに刺激を与えてしまい、またもや逃げられてしまうも、何者かにバサカは捕らわれ、どこかへ連れ去られてしまったが、こういう展開になるのもアレグロ雪郎の計算のうちであった。

「まぁ、こんなこともあろうかと、バサカのバンダナに発信器つけておいた。これで追跡は簡単だ。遅れをとるなよ二人とも!!」

一同は連れ去られるバサカを追いかけていった。その誘拐犯とは二人一組の「ワドとバド」。彼らが向かう場所とは、堤防付近の海賊船の事であった。


「は、離せ!!離せっぺ!!!バサカが何をしたってんだっぺ!!!命はやらないっぺ!!」

ジタバタするバサカの前に現れたのは、左腕の鉤爪、海賊女船長だった。

「んふふ...いい子供じゃない......。ご苦労さん、アタシのシモベよ...。」

「はっ、船長。」

バサカはその女船長に言葉を失ってしまう。

「お...姐...。」

「あら、あまりの繊細さに言葉も出ないの?緊張する必要ないから、もっとおしゃべりしても構わないのよ?」

バサカは女船長に全てを打ち明けた。

「みんな、バサカに嘘ついた。保護すると言っといて、バサカを捕まえようとする。命を取ろうとする。バサカ、訳がわからない。」

「かわいそうに...。力のない子供の命を取ろうとする連中がいてね。でも大丈夫。アタシがなんとかするからね。」

「姐さんは...バサカの友達?」

「ええ、友達よ。息ぴったりの友というべきかしら。」

バサカは試作型タイムマシンに目を向けていた。

「あー、タイムマシンのことね。製作者はMr.黒澤J、すなわち未来人が転移した後に残したものだけど、意外なことに自分の容姿が数年後の自分に成長できることがわかったのよ。そう、なりたい自分に。アタシだって、海賊船長になれたのよ。あなただって、誰にも負けない男の中の男になれる。」

周囲を確認すると、タイムマシンを使った急成長に失敗したなれの果てが複数転がっていた。

「...遠慮...しとくっぺ......。」

「そんなこと言わないで、姐さんを信じて。ほーら大丈夫!!絶対成功するって!!さ、中に入って!!!」

バサカは仕方なく、船長の言うことを信じてMr.黒澤J作の試験運転用カプセル型タイムマシンに足を踏み入れた。12歳から31歳、つまりバサカの年齢を19年後に設定、船長の手で稼働した。バサカはタイムマシンの中で悶え苦しみだしていた。

「すぐ終わるから我慢してね~。男の中の男になれるっしょ~。」


 その頃、海賊船に到着した三人は、潜入を試みようと作戦を考えていた。

「入口に見張りがいるんじゃ、通れそうにない。私が二人の気をそらすから、雪郎は海賊船に入り、バサカを救ってよ。」

「わかった。無茶はするなよ。」

レベッカは、見張り人ことワドとバドの気をそらすために、真正面でぶつけた。入口から引き離したこと潜入は容易となった。レベッカが二人組を相手にしているうちに、アレグロ雪郎は内部へと走っていった。ガジュはレベッカに何か言っていた。

「バサカはね、積み上げたものを全て無に帰した私のことも絶対に許さないらしいよ。どうすればいいの。」

「参ったな...。でも、まごころ謝罪でなんとかなる...かも。」


 アレグロ雪郎は船の奥へと到着した。

「バサカ!!」

「取り込み中なんだけど?」

「その声は......リリアンか!?」

「今はドルチェよ。あのとき、遭難事故にね。」

「あのとき救助隊が捜索を打ちきられても、俺の祖父の力をもってしても遭難者の生存は絶望的だった。途中から調べるのを諦めたんだ。でも、あんた一人だけが生きていたとは......。正直、思わなかったんだ。」

「そんな昔の話は、もうとっくに水に流したの。」

そんな時、バサカが入ったタイムマシンは爆発を起こした。中から出てきたのは......。

「俺っち、強くなった!!」

「バサカ...なのか?あんた、バサカに何をしたんだ?」

「そうよね。追手を薙ぎ払う力を手に入れた彼の未来の姿よ。」

「姐さんのおかげで、俺っち男の中の男になったっぺ。バサカが、ベスギーターになったんだっぺ。」

バサカ...ベスギーターは力の限り奮った。アレグロ雪郎は持ち前の盾で防御した。

「強くなったなバサカ。誰にも負けない力を持つ、男の中の男だぜ...なわけあるか!!どうなってんだよ!!」

「いささかやりすぎたかしら。」

ベスギーターは外に出ようと移動し始めた。

「暴走したバサカを野放しにしてはいかんな。大惨事になる前に止めなければ。」

ガジュは船内で歩いていた。進化したバサカことベスギーターにばったり会ってしまう。

「バ、バサカ!?」

「ベスギーターってんだよ!!ガジュー!!」

「ところで...バ...ベスギーター...男の中の男になったね。羨ましい。筋肉モリモリで、いかにも男らしい。」

「ベスギーター、メガかっこいい!!姐さんのおかげ。」

「そうそう、船長さんのおかげで、誰にも負けない力を手に入れてよかったね...。私のやらかしたことは水に流そうよ。謝ればなんとかなる。うん。筋トレさせられるようなことをして、あなたのパソコン内容を先生にチクってごめんなさい。」

「今さら...謝っても......手遅れなんだっぺ!!ベスギーター、ガジュだけは許さーーーん!!!!!」

今さら謝ってもベスギーターはそんなこと許すはずもなく、拳を振り下ろした。

「ひぇぇぇぇ!!!」

「ガジュー!!!ガガガガギゴゴゴアアア!!!!!」

ベスギーターは力の制御が利かなくなり、暴走を始めた。

「リリアン、なぜそこまでしてバサカを。何か理由があるんじゃないか?」

「アタシは、タイムマシンで未来を見たの。世界は滅びるって。それに対抗するために強い人を作らなきゃって。」

「もし、その前に俺が全て解決した場合はどうする?」

「私たち海賊集団に価値はなくなる、ただそれだけなもの。」

「姐さん、俺っちを裏切ったんだっぺ?俺っちをこんな姿に変えて、利用価値がなくなれば切り捨てられる...よくも俺っちを騙したな!!!許さないっぺぇ!!!!!」

制御できなくなったベスギーター。彼自身も利用された事実に怒り、手が出せない。ドルチェとベスギーターはおいかけっこ。ガジュは撥ねられた。

「どうなってるの?話、ついていけないよ。」

「話はあとだ、あの二人を追うぞ。」

ダウンする見張り人。引き付けるどころか、余裕で片付けたレベッカであった。船内から出てきた四人だが、ベスギーターはまだドルチェを追う。

「優しく抱きしめてあげるっぺ。」

「これはまずい。バサカの体内の力が膨張し、このままでは大爆発する!!リリアン、何か手はないか!!」

「残念だけど、もう止められない!!あんた達、船を降りな!!ワド、バド、お務めご苦労さん...。」

五人は直ちに船を降り、安全な場所へ避難した。船に残された二人は港から離れゆく。ドルチェは客人や部下を守るために運命を共にした。


 ワドとバド、そしてアレグロ雪郎はドルチェの死を嘆いた。

「姐さんが死んだなんて......。」

「リリアン...。あんたのことは忘れないぜ......。ワルじゃなかろうが慈悲活動だろうが、バサカをこんな姿に変えたのは感心できんだがな......。帰るぞ、レベッカ。ガジュもな。」

三人は日本支部に帰還......ワドとバドは三人の後を追っていた。


 その頃ずっと待機している皆は、一刻の猶予もない状態になっていた。

「早く......急いで。時間がない。ここにいるみんなは消されてしまう。」

「焦りはよせみゃう。みんなにはわかってるんみゃう。私達を含めた原作者に関わった人間は全て消されること、忘れてはならないみゃう。」

そうピリピリしている間に、アレグロ雪郎とレベッカが客を3人連れて戻ってきた。

「遅くなった。...あんたらにはもうわかっているだろうが、残された時間はない。その通りだ。何せ俺の祖父は殺されたんだからな......。」

エネルジコの死を知らされたハルミの反応はこの通りだった。

「え......、おじいさん......。おじいさんに何をした!!」

「俺だってわからないんだ!!なぜ祖父が殺されなければならんのかって!!...何もかも信じられなくなったんだ。エルエー...コチウニが奴の手先だってことを...。」

「べ...別に......泣いてなんかないんだからね!!おじいさんの代わりにあなたが仕切ってよ...。」

ハルミの提案にアレグロ雪郎は乗った。

「そうだな...。祖父の代わりに俺が仕切るしかないようだな。FBI長官の席は、叔父が就くとして。祖父がいなくなったことにより、今日から『エネルジコガーディアン』は『エリートガード』に改称する。」

そうと決まれば、E.G.改めエリートガードのリーダーになったアレグロ雪郎は誓言した。

「皆の衆よ、これは始まりに過ぎない。俺の祖父の仇はすぐ取ってやる!!裏切り者コチウニを追い詰め、息の根を止める!!それだけではない。俺たちの前に立ちはだかる、心のない連中も同様だ!!今日から俺が新たなリーダー『雪郎・コンブリオ』だ。」

もちろんここにいる皆は歓声をあげていた。

「リーダー!!」

「俺に歓声ありがとな。」


 原作者は全員にいいものをあげようと、ワープゾーンで新潟県の堤防へ案内した。

「君たち、いいものを見せてあげよう。」

浮上してきたのは、潜水戦艦「鬼ヶ島」だった。

「奴の本当の本拠地は、日本海の真ん中にある。最後の戦いになるかもな。君たち、生きて帰ってよ。幸運を祈る。」

「もちろん兄貴はお留守番だよ。奴の狙いは兄貴だってことを、君たちはわかっているはず。さ、君たち。兄貴の戦艦乗った乗った。」

皆はレベッカに言われるがまま戦艦に乗っていく。ミュゼットやミント彩香は今となって一番大事な物に気づいていた。

「あ、忘れ物は!!アメリカに行ったとき、取りに行かなかったよね!?」

「あ...そういや忘れていた。原作者の事が精一杯で、忘れ物どころじゃなかったんだ。どうしよう...。」

「なら、別行動を取るべきか?まあ、案ずることはない。プランはもうできている。レベッカよ、あんたのその愉快な仲間達で俺の妹を含めた捕らわれし者を救出し、奴に立ち向かうのだ。いいな?ほら、プランを記したノート。あんたがレベッカチームの班長だ。」

「合点承知。私の仲間を助けるためなら、どんな困難だろうと突き進むよ。」

「ハルミやミュゼットは、ガジュを守りつつレベッカ達のフォローを頼む。例の忘れ物は彩香がやってくれるそうだ。心配することはない。」

「...ちゃんと、取ってきてよ。」

「俺と彩香は一度本部へ戻り、精鋭部隊を連れてくる。皆よ、幸運を祈るぜ。」

それぞれの役割を担う仲間達、日本海の中心への出航を見届ける原作者、アレグロ雪郎とミント彩香はE.G.本部へ戻り、準備を進めているのであった。

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