Episode 7:百鬼夜行

 2010年3月頃、忍者村は燃え盛っていた。白之助が駆けつけた頃には、自分の娘を含めた村の民は全員いなくなっていた。そこに倒れていたのは、師匠「菊子」だった。

「師匠...いったい何が起きたのでござる...。」

「き...気を付けよ......。強大...な...厄災......。」

菊子はそのまま息絶えた。数年前に破門された、かつての弟子「黒史郎(本名:鬼行百夜)」が忍者村付近に佇んでいた。彼の存在に気づいた白之助は、問いを投げかけた。

「お主はいったい、何者でござる!!」

黒史郎は何の一言もなく、そのまま炎の中へと去っていった。


 現在10月、白之助は今でも彼の行方を追っている。

「それがしの同胞や友が離散したのも、師匠が亡くなられた、あの時の、無礼者が招いたせいでござる。必ず見つけ次第、尋問してやるでござる!!」

情報収集のため、街中で黒史郎について聞き込みをするものも、何の手がかりもなかった。

「一般的なやり方では無理でござる。とりあえず、原作者殿に連絡してみるでござる。唯一の助けはこれしかないでござる。」

公衆電話の受話器を取り、原作者に連絡した。...原作者は非通知や公衆電話を受け付けないので、即座に電話を切られた。

「...そうでござるか。それがしは携帯電話とやらなぞ持っていないでござるし、文通は時間かかるので、やめとくでござる。とりあえず、甲賀村でもいくとするでござる。」


 通常の方法じゃ手がかりもなく詰んだ白之助は、とりあえず甲賀村へ向かうことにした。しかし、甲賀村は数日前より惨劇に遭い、既に壊滅状態だった。

「いったい何が起きたでござるか、これは!?」

深手を負った甲賀忍者が白之助の前に現れた。

「...見ない顔だな。伊賀村の者か...?」

「それより...それがしの村に起きた惨劇を知らないでござるか?」

「そうか...我々と同じ惨劇に遭っていたのか...。...かつて我々の同胞だった、百鬼夜行の異名を持つ忍『黒史郎』をご存じか......?奴は危険すぎる...何せ奴は、『名前を言ってはいけないあの人』のシモベという噂が絶えぬほど危険因子だからな...。我々甲賀村の民にとって黒史郎は同胞達を...切り...刻んだ......裏切り者...だ......。」

「師匠を切り刻んだのは黒史郎という無礼者ということに違いないでござるな?...よくぞ頑張って伝えたな、あとはそれがしに任せ、お主はゆっくり休むといいでござる。」

深手を負った甲賀忍者は目を閉じ、そのまま息を引き取った。

「無礼者の正体がわかったはいいが、それだけじゃ情報不足でござる。原作者との連絡は無理である以上、どうすることも......。」

ところが、甲賀村を調査していたE.G.の一員がいた。

「そこの君、こんなところで何をしている?ここは伊賀村と同じ惨劇に遭ったこの村は物騒だから、一般市民はさがってよ。」

「それより、黒史郎とやらは知っているでござるか?無礼者の居場所を突き止めたいのでござるが。」

「百鬼夜行のことだよね。関わらないほうが身のためだよ。何をしかけてくるのか、わかるだろう?」

「そんなこと百の承知でござる。だから、それがしを皆のもとへ連れてってでござる。」

「皆のもとって、あのレベッカとその仲間達のことを指しているんだね。それならお安いご用。雪郎の管理下におかれている日本支部へ案内してあげよう。さぁ、来て。」

白之助は日本支部へ向かうために案内してくれるものも。

「これは、何でござる?」

「転送装置『ワープゾーン』だよ。日本国内に限るけどね。行き場所は、E.G.日本支部っと。移動する準備ができたよ、さぁいったいった。幸運を祈る。」


 調査員に背中押され、転移されていった。全員待機されているE.G.日本支部に白之助がワープゾーンから出てきた。

「び...ビャク!?」

「!...皆の衆お揃いで、ご無沙汰でござる。レベッカ殿はどうしたでござるか?それがしの知人は4人、それ以外の者(12人ほど)はどれも見ない顔でござるか。初対面でござる。それより、他の皆はどうしたでござる?」

「リサななは...拉致されたの。他は知らない。」

「何にせよ、皆バラバラに散らばったからな。私とミコは幸い、生き残ってきたんだけどね。」

そんな久しぶりの知人と会話している白之助だが、ロバートは中東二人に例のあの人のことを話していた。

「悪いのはノウエツ出身の奴だ。君たちを唆すことが奴のやり方だ。君たちは騙されたんだ。」

彼の他に、レジーナは携帯ゲーム機で暇をつぶしていた。雅史も同様、携帯ゲーム機で対戦しているようだが。

「やったぁ!僕の勝ちだ!」

「次は負けない。だがいい対戦だった。」

マイケルはライフルの手入れをしたり、未来人三人は会話をしたり、亡命者二人は座ったままだったり、そんな大変の中でいつの間にか賑やかになっていた。


 ところが原作者は白之助に声をかけた。

「E.G.本部へいってみるかい?雪郎は少し前よりドタバタして、本部に戻ったらしいんでな。だからよ、行って連れ戻してきてよ。...。」

「...承知したでござる。」

白之助は原作者に言われるがまま、ワープゾーンに入り、E.G.本部へ転移した。


 ここはE.G.本部・転送室。ワープゾーンから出てきたばかりの白之助は、黒史郎の位置情報を調べるべくあちこち歩き回っていた。

「情報室で調べるのが手っ取り早いでござる。...雪郎とやらに会わなきゃでござる。」

偶然にもジャズ賢一とクラベス鈴菜、カラダデカイにバッタリ会ってしまった。

「お主ら、今までどこで何をしていたでござるか??」

「俺たちジャッカルヘッジホッグは今年1月より、雪郎の祖父エネルジコの手伝いをしている。お前こそ何をしていたのか?」

「それがしは...3月に里帰りしたのでござるがその......有り様でござる。」

「例ノ惨劇カ。アリガタクハナイニュースダ。」

「それより、雪郎とやらはどうしたでござるか?原作者の頼みで、連れ戻しに来たでござる。」

「今はそっとしておくことだ。あの男は深い傷を負っていてな。」

「そうでござるか。...なわけないでござろう!!原作者の頼み事は絶対でござる。だから、連れ戻しにいくでござる。」

原作者の頼みは絶対である以上、ジャズ賢一は止めなかった。アレグロ雪郎は自責の、傷心から、どう立ち直るのか気になるところだ。

「雪郎殿、原作者の頼みで連れ戻しに来たでござる。さあ、日本へ戻るでござる。ついでに黒史郎の居場所を突き止めてほしいでござる。愛美殿同様、エネルジコ殿の孫なら可能なはずでござる。」

「...ポルカ。俺はどうすればいいんだ......。」

「しっかりするでござる!!さあ戻った戻った!!」

強引にアレグロ雪郎を連れ戻そうとするも。「俺を支える者は、ポルカや祖父はいなくなった!!部下を疑ってなお、それでも信じるだけ考えが甘い俺にどうしろってんだ!!」

「...まずは黒史郎の居場所を突き止める。それでお主はそれがしと共に行動するでござる。協力願おうでござる。」

「...ああ。数ヵ月前、あんたの村を焼き払った忍だろ......?あんたの師匠、忍者マスター菊子を切り刻んだあの......。いいだろう、ちょっと来い......。」

早急に仕事に取りかかり、情報部のコンピューターで黒史郎の手がかりを調べていた。

「俺と愛美、祖父がかき集めたコンブリオ・データベースなら、黒史郎の居場所を突き止めるくらい朝飯前だ。...聞いて驚くなよ。百鬼夜行と呼ばれた黒史郎の現在地は、敵の本拠地と思われし地域『ノウエツ』だ。」

黒史郎の居場所は敵の本拠地であることに、白之助は驚きを隠せなかった。

「黒史郎がノウエツにいるということは、相当危険人物ということになる。戦う勇気があるなら止めはしない。数日前に停止していたワープネットシステム・ノウエツ行きは稼働しておいた。ここから先はあんた一人で行くんだろ?俺は原作者の元へ戻る、それまでに無事生きて帰ってこい。健闘を祈る。」

アレグロ雪郎は原作者のいる日本支部に戻り、白之助は敵の本拠地「ノウエツ」に移動した。


 ここはノウエツ。敵の懐に入ったことでどんな危険が待ち受けているのか、白之助は心して一歩前に踏み出したのだが。

「敵の本拠地にしては、割りと普通でござる。とりあえず、情報収集するでござる。」

白之助は黒史郎を探すために、町で情報収集をしていた。しかし、黒史郎を知る住民はいなかった。

「見当違いでござるか。ここにいない以上、長居は無用でござるな。引き戻るでござる。」

撤退しようとワープゾーン能越に引き戻ると、そこには黒史郎が待ち構えていた。

「お主は...あの時の!!黒史郎!!!師匠を切り刻んだのはお主か?!」

「だったらどうする?」

「師匠や村の住民、それがしの娘の仇、取らせてもらう!!」

白之助は斬りかかろうと刀を抜くも、黒史郎の忍術によって翻弄されることになった。

「これは...妖の群か!?」

ロバートが戦った目前の敵とは実は、黒史郎の忍法で集められた鬼や妖怪の群れのことだったのだ。

「黒幕が何をしているのか、わかっているでござるか!?」

「無論、自己満足のためである。拙者は帝王に魅せられ、帝王の望みのために、悪事を働くである。そのために、甲賀流の忍達を切り刻んでやったのである。」

「師匠や同胞達を殺めておいて、それでもお主は忍者なのか!?忍者にとって大事なのは、悪しき者に服従するものではなく、忠誠を誓うでもない。己のためだ!!!己の進む道を歩めと師匠がおっしゃっていた。それがしはそれがしのために信念を貫き通す。生きざまを見せようとただただ、あるじのために動くお主とは違う!!」

「なにを、虚言な...。」

白之助は周囲の妖怪を薙ぎ払い、トドメを刺さんとするが、黒史郎の忍法・影分身の術で二つに分かれ、白之助の攻撃は回避された。

「拙者は数年前より磨き上げられた忍。この程度の技で拙者に勝てると思うなかれ。」

「お主の技、見切った!!」

刀の峰を使ったスピンアタックで分身ごと巻き込み、K.O.した。元通りになって倒れていた黒史郎に白之助は問いかけた。

「お主の技はそれほど見事であるにもかかわらず、それがしに負けた。何ゆえだと思う?...それがしは嘘ついていたかもしれん。あるじたる原作者への忠誠心が何よりも大きく、己の信念を貫いた結果がお主の宿命に勝った。当然のことであろう。さぁ、問おう。まことはそれがしの村、それだけにとどまらず、甲賀村を焼き払ったのか?」


 ...黒史郎の口から衝撃の事実を知らされることになった。

「伊賀村や甲賀村を焼き払ったのは......拙者に成り済ました何者かの幻影。...その時の拙者は村の民を匿った。ワープゾーン能越の話も、悪人から守るために、刺客に紛れつつ、よそ者を追い払った。退き遅れた二人も守れなかったが...。」

「......自身に成り済ました幻影を追うつもりだったも、とでも言いたいのか......。」

「......。」

「...そのつもりが現場に到着した時点で罪を着せられた挙げ句、幻影はどこも見当たらず、最悪の事態は止められなかった。残された手として、黒幕の手先のフリをして立ちはだかった。そして負けた。それがしの力量を試させるために......。」

「無論...今の貴殿は、黒幕に打ち勝つ力量がある。師匠の無念を晴らしたいならば、奴を倒せ。ご武運を祈る。」

「Consigliどうも。それがしは一度E.G.本部に戻り、戦う準備をしてくる。そのときが来るまで、訪問者を追い払うというお主の使命を果たせ。...Arrivederci.」

白之助は本来の口調で話しつつ、本部へ戻った。忍の心得を忘れてはいない、師匠の教えを尊重する白之助、己の使命を果たさんとする黒史郎、二人はいつかまた対面することになるだろう。


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