Episode 6:諜報員の意地

 エネルジコは今後のスケジュールのために、E.G.所属者を召集した。

「こうして集まってもらったのは他でもない。現状はわかっているだろう。悪行を繰り返しているのは奴だけではない。奴に狂わされた者がいるということであろう。」

「狂わされた者といえば、バサカです。その証拠に、奴の悪行を探れば探るほど自分の運命を狂わせるものであるといわれています。」

「...では雪郎。早急に身近の人員を集めて、バサカを追跡せよ。よいな。」

「あっ、はい、祖父!直ちに!!」

「次いでに、私の孫娘にも連絡をとれ。半年間、何の沙汰もなく音信不通なのだが。」

「あなたの孫娘への連絡は全てこの私を通してください。いかなる場合もです。」

エルエーの発言に一同は一瞬にして疑った。

「あ......。もちろん。これは安全のためです。」

「...なにか隠してないか?愛美の居どころはあんたなら知っているんだろ?」

「ちょっと雪郎。何を言ってるんですか。愛美なら私が責任をもって保護していますよ。」

「...ならいいが。それにしても、妙に引っ掛かるな。取り調べをすると言えど、バサカを緊急逮捕して連行するようなマネはしないだろうが。もしかしたら、俺たちの中に諜報員がいるとしたら...。」

「知らん!!それから愛美のことはすべて私を通すようにお願いしますね。絶対事項です!!」

「すまなかったなエルエー。もう少しで君を疑うところだった。揉め事で信頼を失うわけにはいかないからな。」

「は、はあ......。」


 会議が終わり、一同は解散した。アレグロ雪郎とその部下二人は日本支部に戻り、エネルジコはFBIの仕事に戻った。エルエーは引き続き、アレグロ雪郎のサポートを担った。持ち場に戻ったアレグロ雪郎は、エルエーに不信感を抱いていた。

「エルエーが例の諜報員だとしたら、愛美の音信不通も説明がつくな。信じたくはないが、ウラの顔がある...なんてことは、ううん、ありえん。だって、バサカは俺の判断で対処したんだ。わざわざ当局の力を貸さなくてもいいのに。...ん、待てよ。当局に任せよと提案したのもエルエーが仕込まれていたものだとしたら?」

そんなボソボソしているアレグロ雪郎だが、ミュゼットはエルエーのウラの顔を知っているかのように。

「彼のウラの顔というのは、コチウニのことよ。」

「そ...そんな......。エルエーがコチウニだなんて信じられない......。」

「このままでは、愛美が危ない!!早く助けなきゃ!!」

「落ち着け!!へたに急かしたら、どうなるものか。...まずはバサカの確保が先決だ。なぁにぃ、エルエーが人質取ってるだろうが、責任をもって保護していることに変わりない。では、ミーティング始める。バサカは今どこで何をしているのか俺たちにはまだわからん。まったくの情報不足だ。脱走したバサカの行く末に心当たりがあるとすれば、エルエー...いえ、ガジュだ。じゃあ、パーティ編成といこう。レベッカ、俺についてこい。ハルミとミュゼットは支部の警備にあたれ。それ以外の者は待機だ。いいな。そうと決まれば早速ガジュのいる場所へ向かうぞ。」


 他のメンバーは待機として、レベッカとアレグロ雪郎はガジュのいる場所へ向かった。その場所とは、木枯らし荘であった。ガジュはこの荘で暮らしているらしい。到着した二人は、呼び鈴をならしていた。

「...管理人はいないな。悪いが、お邪魔させてもらう。」

荘に上がり込み、ガジュの部屋まで移動した。しかし、ここには誰もいない。裏庭にいるとにらんで移動したが、そこにもいない。

「...留守か。管理人との買い物に出掛けたかもな。それまでに待とうか。」

待ち続けたことで一時間後、誰かさんが入ってきた。

「来たか。」

そこに現れたのは、意外な人だった。

「待っていたぞ、バサカ。」

「待っていたのも何も、バサカの手柄を台無しにしたガジュに仕返ししてやりたいだけだっぺ。」

「エルエーの策に嵌められたとはいえ、あんたが調べた奴の情報を共有したいだけなんだ。わかってくれ。」

「......。ネットでバサカの悪口を言う、テリーにおどされた。仕返ししてやろうとテリーの秘密を調べあげて曝してやろうとした。でも邪魔が入った挙げ句、檻に閉じ込められた。すぐにでも伝えなきゃと思い当局から抜け出すも、既に手遅れだった。最悪の事態は避けられなかった。全部ガジュが邪魔したせいだ!!だから、テリーと同じく悪いことをして、どれだけ怖いものなのか思い知ってやるっぺ。ガジュはどこだっぺ。」

「あいにくガジュは今、買い物に出掛けている。なかなか帰ってこないと思うぜ。」

バサカはなにも返答もせずに出ていこうとする、レベッカは呼び止めた。

「待って。エルエーについて知っていることを話してよ。」


 その頃エルエーは、ロデオン一家殺害の他、ブラー行方不明、マリア愛美拉致、当局における不正といった黒い噂が絶えず、どのみち疑われるだろう、かくなるうえは、我がぎみらしき人物へのメッセージを送るのであった。

「こちらコチウニ。我がぎみ、聞こえていますか。いささかやりすぎてしまったようで、もうすぐ私の正体がばれるでしょう。もはや一刻の猶予も無い。私は今から出来る限りの手を打ちます。勝手な妄想(行動)をお許しください。我がぎみ。通信終わり。」

ウラの顔を解き、別の組織に連絡した。

「こちらエルエー。お元気ですか。私は今、テリーを傍観しています。奴がいる限り、平和の約束は難しいでしょう。邪魔なテリーを排除できれば、この世界は救われるでしょう。さて、最後の仕事が残っているので。」


 レベッカはエルエーのことを話したが、バサカには聞く耳を持たなかった。

「あー、話が通じない。どうしよう。」

「狙いはガジュだけだろ?俺が会わせてやるよ。管理人つきだがな。」

アレグロ雪郎はバサカを連れて、二人の捜索にあたった。

「なあバサカ、久々のE.G.のお手伝いはどうだ。」

「なんっぺよ、今さら。起きてからじゃ遅いのに...。」

グロサリーストアに到着した。しかし、すれ違う形で結局会わず...。

「いないか。だとすると、既に帰路についているかもな。引き戻そう。」

「先生、わざとガジュに会わせないようにしてるっぺ?信じられないっぺ。」

「何を言う、わざとじゃない。まさかとは思うが、管理人はガジュを擁護している...なん...ま、とにかく、このことが本当だとしたら、駐車場のどこかに隠れているはずだ。」

レベッカは偶然、駐車場の外にこっそり出ようとする管理人とガジュを見かけた。こっそり抜け出し、声をかけた。

「君たち、雪郎の言う『管理人』と『ガジュ』か?」

「そうだけど。」

「姉ちゃん誰なの?」

「今や有名のはずのこの私を知らないとは......私が何者か教えてあげるからその耳でよく聞いて。2年前のフェスティバルや去年のゲームで誰もが知っている、レベッカとは私のことだよ。雪郎の傍にバサカがいる。合わせる顔がなく、こっそり逃げるのはよろしくないな。話せばわかりあえるはずのに、どうしてそんなことを?」

「手柄を立てたくてやったとはいえ、バサカに悪いことをしてしまったの。後から知った話だけど、彼は私たちのために動いているとは思わなかった。彼の働きに手を出してしまった結果が、今の最悪の事態を止める術がなくなってしまった。今も後悔している。」

「大丈夫、私と兄貴がなんとかしてくれる。雪郎もね。」

アレグロ雪郎とバサカはレベッカの話し声に気づいていた。

「常に見張っているお目付け役がいるのを忘れるなよ。」

「......。」

「噂をすれば、向こう側も気づいたみたい。さあ、仲直りしよう。」

お目付け役付きのバサカ、保護者同伴のガジュ、果たして仲直りの結果はいかに?

「あなたのことを誤解していた。不届き者でもなく、私たちのためだったんだよね。悪い噂が絶えなくて今も疑われている、あのエルエーがあなたを排除したんだよ。私たちを...ううん、私たちは利用されたんだ。わかる?」

「......。」

「どうなんだ?バサカ。」

バサカは思い詰めていた。もう後戻りができないということを。

「それができないなら、お前の命はないぞ。」

自分の命が危ういとバサカはガジュに隠し持っていたカッターナイフを突きつけた。

「みんなはバサカを嵌めたっぺ!!バサカはいい人だったっぺ!!」

「...やっぱし。何かあると思ったら、奴の差し金か。哀れな...。」

「違う!!バサカは絶対消されない!!消されないっぺぇ!!」

「レベッカ、彼は哀れじゃないぜ。奴に脅されたに違いない。決定的な証拠だ。バサカ、あんたはこんな馬鹿な真似をする男じゃないはずだ。落ち着け。...落ち着けって!!」

「少しでも動いてみろっぺ!!ガジュはオシマイだっぺ!?」

ガジュの首に赤いものが少々...。

「くっ...。手出しできん。管理人、すまん。」

そんな窮地に立たされる中、スナイパーの弾がバサカの足元に着弾した。その隙にレベッカはバサカを確保した。

「はい、捕まえた。物騒な刃物は没収ね。」

バサカのじたばたは伊達じゃなく、取り逃してしまう。解放されたガジュは首の切創以外に損傷はなく、無事であった。

「礼なら、あの狙撃手にね。今は見当たらないけど。」

「バサカは逃げられてしまった。それと、奴の差し金のキーワードでずっと引っ掛かっていたエルエーの黒い噂が本当だというなら、愛美はとらわれの身、つまり敵の手中にあるということじゃないか!!よし、本部で確認してくる。レベッカ、あんたはガジュの保護よろしくな。」

アレグロ雪郎はその真偽を確かめるべく、E.G.本部へ戻った。


 その頃、本部は...エルエーの黒い噂を嗅ぎ付ける者は少なくない。エルエーは腹をくくって、エネルジコのいる部屋へ向かった。そこにはエネルジコがエルエーを待っているかのように佇んでいた。

「エネルジコ長官...あなたは嘘が下手ですね。FBI長官とE.G.最高責任者の両立は非現実的と言っておきながらも、E.G.への後方支援すなわちバックアップをするし。」

「そういう君こそはE.G.に潜入しているだろうが。中央情報局の連中の一人、ロンガーム・ショックコース。」

「お互いの目的や利害は一致していても、あなたと私のやり方は違う。私...俺は俺たち諜報員のやり方でいく。奴の悪辣を止めるには手段を問わない。味方を利用してでもな。」

「方向性の相違...か。ならば仕方がない。こちらも手を打っておいた。見て驚くでない。」

エルエーは少々驚いた顔で、エネルジコの取った行動は何なのか、それを知るものはいなかった。


 本部まで駆けつけたアレグロ雪郎だが、第一目撃者の口より衝撃の悲報を知らされることになった。アレグロ雪郎は膝を崩しかけるも、冷静に状況を確認した。

「...いったい誰が...誰にやられたのか?」

現場を確認したところ、倒れていたエネルジコに、エルエーの武器らしきものが残していた。「祖父...。なあ、あんた。第一発見者なんだろ?これまでに何をしていた?」

「私はエルエーを尋問しに、探し回ったところ、責任者の部屋のドアが開いてまして、既に倒れていたの。誰にやられたというと、コチウニって。」

コチウニっていう名前を聞くとたん、アレグロ雪郎は嘆いた。

「...エルエーを信じた俺が馬鹿だった。そうなんだな。愛美を拐ったのは、生きたまま、あの奴に献上するためだろ。生け贄に使うものなんだろ。」

アレグロ雪郎は大きく荒れるほど取り乱し、悲しみや後悔が混じった慟哭の声をあげてしまう。

「...う"ぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 エネルジコは喪われた。その哀しみは立ち直るのが難しいほど大きい。レベッカは、そんな小6の少女に未来や希望を託すよう保護し続けている。輝かしい未来を作るために。レベッカ達の希望のために。

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