Episode 5:ユートピア

 November, 3(Monday)文化の日、原作者とレベッカ達は29日(Saturday)に向けて準備を進めていた。原作者は編集長、レベッカはその補佐を担当。他の仲間15人は出し物のリハーサルを行っていた。ロドゆいとクラベス鈴菜は前回のものを流用した自主制作映画の最終調整、ヒメとリサななはスベスベマンジュウガニを主役とするゲームのプレイ動画の作成、アンジー楓とモグとマリア愛美はリサイクル講座、ウインナーシスターズとビートはパンフレットの作成、白之助は忍パフォーマンスの練習、ジャズ賢一とカラダデカイは会場の警備、アイス早苗とミント彩香とミコはグッズ製作等々、それぞれの役割を担っていた。原作者はめんどくさいそうに編集、レベッカは原作者の手助けをしていた。長時間作業が続くと途中で投げ出してしまう。適度な休息が必要だ。

「PC以外退屈だもん。」

原作者にとっての楽しみは、看板娘を見せびらかして盛り上がりたいだけであった。

「休憩しよっ。」

レベッカはゲームを遊ぶのだが、数分で飽きてしまう。

「つまんない。退屈。でも、29日来るまでは辛抱。...そうだ、マリオの冒険やろ。」

早速レベッカは原作者が作ったゲーム「スベスベマンジュウガニ マリオの冒険」を遊ぶことにした。


 スベスベマンジュウガニのようなツラをしたマリオが仲間を集めてバウザーを倒すという内容だ。ルイギをはじめとした仲間が15人、仲間を集めるという構想は今と同じだった。

「仲間集め...か。兄貴にとって、われながら集めたもんだと実感しているかも。」

団結してラスボス「バウザー」を倒し、めでたいエンディングを迎えた。


 次はその続編を遊んだ。ふたを開けてみると、新たな仲間とともに冒険するという内容だった。アメーバやソラナ等々、計7人に加えてヒメとリサなな、レベッカがプレイアブルキャラクターとして冒険のお供にできるようだ。

「そっか。兄貴にとって私は兄貴のお気に入りなのね。私の他にお気に入りが2人...と。」

3年前に作られたゲームの改善版だけあって、原作者も客もWakuWakuする作品に仕上がったという。ラスボスはなぜか世紀末っぽい風格の「ラキツ」。なぜ彼がラスボスなのかは置いといて、前作とは変わらない普通のエンディング...いや、条件つきの隠しエンディングが見れた。内容は、ヒメに関するエンディング?そんな感じだった。


 二つのゲームを遊び終えたので、次は動画を見ることにした。新作動画「ビートのターミネーター」この間の出来事を撮影した動画はまだ調整中。偶然見つけたのが未公開かつ未使用シーン。当初はリサななが出てくる予定だったらしい。

「おや?そうだっけ?...まあ気にしない気にしない。」

他のみんなは自分達の役割を担っていて忙しいので、レベッカはどうするのか?

「ちょっと散歩にいってくる。」

彼女の取った行動はこの通り、気休めのひとつと思って散歩に出た。外の空気はおいしい、色々巡っていくのが一番落ち着く、レベッカにとって心地のいいリフレッシュに違いない。一方原作者は、作業が滞るばかりか気の向くままに好きなことをやっていた。主にネットサーフィンとゲームを楽しんでいたのだが、徐々に飽きてくることを察してほしい。明日は早朝から通学しなければならないので、なんとか捗らなければといいたいところだが、グルグル回ってばかりか1日を無駄にした。

「29日まで時間はまだあるし、大丈夫だろう。」


 次の日、学校から帰ってきた原作者とレベッカは昨日の続きをした。帰宅時間は18時となると、4時間...25日分で128時間。時間にまだ余裕がある、道草食べても投げ出して好きなことをするも最後まで捗り、やり遂げるのが原作者のモットーなのであった。イベント開催まであと一週間、22日に原作者は野暮用で外出しているので、レベッカは一人で彼の分まで作業をした。


 一週間後、待ちに待った日本最大のイベントが開催された。原作者は文化祭と被っていて出場できなかった。したがって、指揮を執るリーダーシップはレベッカということになった。

「私の学校祭は昨日やってたので問題ないでしょう。」


 開会式、主催者「ニコ・ロデオン」のお言葉を聞いた。

「この度は日本最大のビッグイベント「ニュートピア」にご参加していただき、誠にありがとうございます。日本のみならず全世界の人々にも楽しめる最高のイベントにしてみたい、私自身とエンターテイナーの理想郷を皆様にお届けするべく企画しました。ありとあらゆるお題を全世界に披露していただけば、これから人気者になりたい方々にとって最高な気持ちになることに違いありません。参加者のエンターテイメントで全世界を盛り上がっていきましょう。GOOD LUCK!!」


 次は参加者のお題を全世界に披露するのだが、チームごとの順番でおこなうことになっていた。先行はカンフーデュオのお二人、お題は「カンフーパフォーマンス」だった。

「ハイエーネ!!あのー、そのー、ね。カミとやってみたいと思います!!」

カンフーパフォーマンスの末に勝ったのはハイルだった。勝利の雄叫びとともに会場を後にした。

「ブィィィィィィイイイイイ!!!!!」


 次のチームは中二病の男とその友達で、「言わせてみた」という奇妙なお題を披露した。

「俺の友達に色々言わせてみました!聞いてください!!」

「ェエェジィィメェェメェシィテェェェェ。ヴォォオオォォ。おぉぉじぇええぇんんだぁぁぁあいぃぃ。」

会場は引いた...というより彼の歌に惹かれていた。


 コウタロウチームのお題は「ラップトップクラッシャー」。コウタロウという男がノートパソコンを遊ぶという内容だった。

「ォアチョー!!キョウハドコニィ!!どけコウタロック!!ワァァァァ!!!アァァァ!!!んふーふーふー、っなんだよぅ!!......ヴヴヴヴー!!......ドンッ!!ファァアアアアァァ!!!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッガラガラッ!!!ぅわあぁぁおぉぉぉ!!!ふあぁぁアアァァ!!!ヴォッ!!ヒィィィ!!!ヒィィィィィ!!!...ヒィィ...ヒィ!!」


 どのチームもそれぞれのお題を披露してきたのだが、会場の空気が悪くなった、全世界の視聴者がドン引きし、観客の心を掴むことさえ不可能だった。ブーイングの嵐に包まれ、レベッカチーム以外のチームは即リタイアとなった。日本人は自分にとってくだらないお題に失望し、会場から去っていく一方、外国人はこの先に面白いお題を披露してくれると期待し、会場に残るのであった。主催者と運営はこのような人々の価値観の違いに痛感していた。

「皆様を害するお題をお見せして申し訳ありません。わざわざ会場に残っていただいた皆様、最後までお楽しみください。」


 最後のエントリーは、レベッカチーム。お題は原作者が企画した真のエンターテイメント。バラエティ豊富かつワクワクするような内容であった。

「みなさーん!!これより皆にご覧いただくのは、私の愉快な仲間達のお題だよー!!」


 まず最初にヒメとリサななのお題は「スベスベマンジュウガニ・マリオの冒険」のプレイ動画を再生した。次は忍パフォーマンス、彼らしいお題だった。ロドゆいが完成させた自主制作映画を上映した。このチームのメインディッシュ「レベッカ」のお題は、全世界の人々の心を掴むほどの派手なパフォーマンスを披露した。結果は大好評だった。原作者と主催者にとって大きな功績をあげたといえるほど最高の理想郷といっても過言ではなかった。


 一気に盛り上がってやろうと主催者はレベッカをおだてるその時、レベッカとは因縁関係にあたるDr.デカボットとその一味のチーム「ドクターズ」のお出ましだ。

「んっフフフ、皆様お揃いで。」

「あのー、あなた方は?」

「わしか?わしはこういうものだ。ラインハルト・ヴァルサー・グラーフ・フォン・ヴィトゲンシュタイン。ドクターあるいはDr.デカボットと呼ばれる者だ。」

彼はドクターズのヘッドであり、いつかスカイネットランドの実現を目指す貴公子でもあった。彼の目的は、理想と欲望のため。ビッグイベントを利用して、よからぬことを始めようとレベッカのお題に乱入してきたのだ。

「ドクター、またしょうもないことをするのか?」

仲間達は彼のことを知っていた。色々やらかしてきたか全世界に知れ渡ったのも無理もない。運営の対応に応じる相手ではないということはレベッカが一番知っていた。

「お客様、他の参加者のご迷惑になりますので、奥の部屋まで来ていただけませんか?」

「ほぉー、命令口調とはいい度胸じゃないか。」

「ねえ主催者、警備はどうなってるの?」

彼が会場に来たということは、会場の警備は亀が起き上がれないくらい仰向け状態になっていた。

「ああ、警備というものなら、今ごろおねんねしているのだよ。」

「おかしい...。私の警備は万全のはず。」

「ばかかお主は?あんな警備、節穴同然のデクの棒に過ぎん。わしのボディガードに比べるまでもない。」

「その中にジャズ賢一とカラダデカイが含まれているけど?」

「例の未来人と蔵出しマシンのことか?あの二人なら、わしの部下が押さえてやった。」

今、この場にいる彼の部下は二人。側近の「加藤潤」と前回、溶鉱炉に転落したはずの「安広千尋」だった。

「あれれ?君ってアヒルにぶつけられて落っこちたんじゃなかったの?」

「私は死にません。死にませんったら死にません。」

「...シロップのにおいだ。え、実は溶鉱炉じゃなかったり?」

「例の溶鉱炉はわしが所有している。二人を溶かさぬように偽装したのだよ。下から光を当てた、ただのシロップだ。」

「それで鈴菜が戻ってきたのはそのためか。『...兄貴によるサルベージだけどね。』」

前回の、溶鉱炉はただのシロップのプールだったことは原作者から聞いた。

「知ってたのか。そのうえで鹵獲されし者まで拾ったというのか。わしと原作者にしか知らない裏まで知ってるとは、たいしたものだ。...まあいい、今こそ決着をつけようではないか。」

「あのーお客様、お題の途中ですから、離れてください。」

主催者の背後にの「大神大号」「桑田賦格」が出てきた。

「悪いな、それはできない相談だ。わしらドクターズは夢のために、このイベントを利用するのだよ。もっとも有名...いえ、偉大な存在になれると思わんか?」

「人気者になりたい気持ちはこっちも同じ。なら団体戦で決着をつけよう。主催者、いいよね?」

「...私のできることは団体戦を設けるくらいしかありません。あなた方『レベッカチーム』vs彼ら『ドクターズ』に、名声と栄光をかけた対戦をはじめてもらいます。レベッカ様、必ずや彼らを打ち勝ってください。彼らの好きにはさせません。GOOD LUCK!!」

彼らに対する主催者の対応は団体戦を設けることだった。

「勝利を手にするのは私たちドクターズのものだ、悪く思うな。」

「けっして負けられない戦(いくさ)でしてね...。」

「ああ、勝利を手に取るよ。ドクターズがな!!」

「坊っ様、あなた様のシナリオ通りです。」

「では諸君、パーティの時間だ。楽しもうじゃないか。『既にわしらのほうが有利に進んどる。』」

「茶番はそれだけかドクター?兄貴の理想と夢を阻むものはちょっとだが、こちらもだって負けるわけにはいかないんでね。...さあ、始めようじゃないか。兄貴の理想のために。」

「わしだって、念願のスカイネットランド建設が懸かっとるんだ。勝利はわしらドクターズのものだ、それだけは譲れん!!いざ、尋常に勝負だ!!」

解けないくらいの緊張感に包まれた会場、その現状を見届ける主催者、お互いの名声と栄光、夢と理想をかけた対戦が今、始まろうとした。

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