15話-2 うどんの国の人々 そこに罠があった

 コンコースを抜けエスカレーターで二階に向かい、改札を通る。

『もう一度○○や△△と向き合え。そして、その時、歯ではなく喉で味わえ』といった、M君(イメージはセカイの三船)。

 その言葉を胸に私はフードコート内の○○(うどんチェーン)に向かった。


「いらっしゃいませー」

「釜揚げうどん、下さい」

「釜揚げですねぇ、少々お待ちください」

 フードコートという限られたスペースの中店員さんはきびきびと動く。

 店の奥が少し覗けるが動線を意識したように無駄なスペースはない。

「葱と天かすいれますか?」

「お願いします」

 トレーに小さい桶のようなものにゆで汁とゆでたての饂飩。

 横の小さなお椀にはつけ汁(葱と天かす入り)、それを蓋するように胡麻と生姜が小皿が付いてきた。

 あとは天ぷら皿を取り横に移動する。

 その間に好みの天ぷらを取り、会計を済ませる。

 なお、今回は

・磯部揚げ

・秋刀魚

・野菜揚げ

 をチョイス。

 レジでは新人さんが横のベテランさん(たぶん、両方アルバイト)から指導を受けつつ会計をしてくれた。

 

 さて、透明な間仕切りのあるテーブルで食べる。

 まず、胡麻をつけ汁に入れる。

 生姜は苦手(はい、子供味覚ですよ)。

 桶の饂飩を数本割り箸でつまんでつけ汁につけて口に入れる。

 久々だった。

――こういう味だったよなぁ

 無我夢中で食べた。

 と、M君の言葉を思い出す。

『喉で味わえ』

 残り半分ぐらい。

 私は数本取ってつけ汁につけて啜った。

 ちるん。

 ほぼ飲み干す形で喉に通した。

 不思議な感覚だ。

 もう一回、というかラスト一回で啜った。

 ちるん。

――こういうのを喉越しっていうのかな?

――M君のいうコシなのかな?


 さて、饂飩も無くなったので後は食器を返却口へ入れればいいのだが、実はある裏技を試してみた。

 桶の中のゆで汁を椀の中に入れて飲む。

 蕎麦で言う『蕎麦湯』と言うものだ。

 半分飲んで天ぷらを食べる。

 磯部揚げは大抵美味しい。

 誰が揚げても失敗は少ないだろう。

 秋刀魚は旬ということもあり、大変脂ギッシュ。

 天ぷら油と秋刀魚自身の脂が融合して口の中が油まみれ。

 さっぱりさせようと野菜天を食べようとした。

 だが、トラップだった。

 量も多いので小分けにして食べたが野菜天の隙間に油が染みこみ秋刀魚以上に油ギッシュ。

 油が口の中でじんわり出てきた。

 お茶代わりに饂飩湯(ってなに?)を飲み、食器を返却口へ返した。


 フードコートの隣はこれまた有名コーヒーチェーンが店を構えている。

『口の中を洗い流そう』

 とアイスコーヒーを求めて中に入ろうとしたが、緊急事態宣言解除直後のせいかお客さん一杯。

 いったん外に出ると、映画の巨匠であるヒッチコック監督の「鳥」よろしく、駅前を縄張りとする鳥たちの群れの鳴き声が鼓膜に響く。

 横を見るとカメラマンと音声、スタッフと思われる取材陣が数人いて、一人の老婆にインタビューしていた。

 通り過ぎるついでに話を断片的に聞くと、この取材班は鳥の騒音問題をテレビ番組で取り上げるらしい。

 そんなことを聞き流しつつ、最近、改装工事が終わった大型電気ショップに行きガンプラを意味もなく眺めつつ腹の調子が戻って来たので再び駅へ向かった。

 

 

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ようこそ、異世界へ 隅田 天美 @sumida-amami

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