第8話:納得いかない

「せんぱーい、今日俺ピンク頭に教室から追い出されたんですけどー!」

 酷くないっすかっ?

 部活前。ジャージに着替えながら先輩にそう嘆く。

 すると先輩はけらけらと笑った。

「お前、授業中何か喋ってたろ」

「えっ、何で判るんですかっ?」

「白井先生の授業じゃ有名だぞ」

「何がです?」

「寝ている生徒は放置するけど、喋る生徒は即座に追い出す、って」

 まだ一学期始まったばっかりだから知らない奴の方が多いのか、って肩を揺らす先輩に、何て理不尽な! と俺は唇を尖らせる。

 確かに喋った。こっそりだけど、隣の席の級友に喋り掛けた。だがしかし、だ。

「言葉の意味がちょっと判んなかったから訊いただけですよっ?」

 無駄話じゃないと拗ねるように云うと、先輩はひらひらと手を振った。

「雑談は以ての外だけど、授業で判らないことはその場で手を挙げて訊け、が信条の先生だから」

「えー、でも自分だけ判らなかったらダサいじゃないですか」

「なら後から訊きに行けば良い」

 授業に関する質問なら幾らでも親切に答えてくれるぞと云われて、ちぇ、と舌を打つ。

「それが面倒だから隣の奴に訊いたのに」

「残念。白井先生はそういうの嫌がる質だからな」

「けど、注意くらいで良いじゃないっすか。わざわざ教室追い出さなくたって」

「二度あることは三度ある。その前に、一度あることは二度ある、な考えだからなー、あの先生」

「心せっま!」

「仕方ない。変人だから」

「変人だから……まあそうですけど」

 国語教師の癖に年がら年中白衣を羽織っている時点でもうおかしいのに、校則では絶対に許されないピンク頭。

 どうしてあの先生はピンク頭を容認されているのだろう。

 噂ではちゃんと校長の許可を得ていると聞いてはいるが。

 正直狡くはないか。俺は染める気ないけど、ピンク頭にしたい奴だって居るだろう。

「あのピンク頭、変人だから、で何でも許されてそうでムカつく」

「けど教師としてはまあまあマトモな方だぞ」

「先輩はピンク頭の味方するんですか」

「味方っていうか、事実なんだよなー。夏頃になればお前も判るよ」

「判る気が一切しませんけどね!」

「そう目の敵にするなって」

 真面目に授業受けてりゃ良い先生だから、と肩を叩かれる。

「ほら、文句はここまで。そろそろ行くぞ」

「はぁーい」

 あのピンク頭が良い先生、ねぇ。そうとはとても思えないけれど。

 愚痴も嫌味も云い足りないまま、それでも俺は先輩の後を追った。

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世界は君が居るから廻るのだ 烏丸諒介 @crow4632

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