第3話:入学式

 学ランからブレザーに変わった制服。

 不器用ながらにきっちりネクタイを締めて家を飛び出す。

 今日から俺は高校生。新しい環境でどんな生活が待っているだろう。

 ワクワクとドキドキ。

 楽しみと少しの不安。

 色んな感情を綯交ぜにしながら向かった高校。

 入学式を無事終えて、割り当てられた教室に入る。

 黒板には名前順に並べられた座席表。

 それに従って椅子を引く。

 中学から一緒に持ち上がった友人達とはクラスが分かれてしまったから、友人関係は真っ新なところから始まった。

 とはいえどちらかといえば社交的な俺はすぐに四方の生徒と会話を成立させることに成功した。

「はい、全員席に着いて」

 大人びた声は担任のものか。

 友人(になるであろうクラスメイト)達から顔を上げて教壇の方を向いた俺は目をぱちくりさせた。

 そしてそれは俺だけではなく、恐らくはクラスの生徒全員が。

 名簿を片手に教壇に立った白衣を纏う大人の髪の毛が淡いピンク色だったからだ。

 奇異な視線を気にするでもなく、その人は黒板に白いチョークで縦に四文字の漢字を並べた。

 『白井光映』

「今日から一年君たちの担任になる、しろいみつあき、だ。担当科目は現代文。一年の君達には関係のない授業だが、よろしく」

 何とも簡素な自己紹介。

 いや、っていうかこの先生現代文担当って云った?

 国語の先生なのに何で白衣着てんの?

 そもそもピンク頭とかおかしくない?

 校則が教師に適用されるのかは知らないけれど、明らかに悪影響でしょ。

「白井せんせー、何で髪の毛ピンクなんですかー?」

 どこからか飛んだ質問。

 いやまったくそれだよ。

「色々事情があってね」

「じゃー生徒も事情があったらそんな色にしても良いんですかー?」

「一概に駄目だという判断はぼくには出来ないが、基本的には注意されるだろう」

 ぼくはきちんと校長の許可を得ているからねと微笑むでもなく答える白井先生。

「然るべき理由があれば校則に反することも認められるんじゃないかな」

 知らないけれど、と続きそうな声音に、俺は思わず唇を舐めた。

 何だかとんでもない教師が担当になってしまったようだ。

「ぼくのことに関しての質問はまた後で聞くとしよう。まずは自己紹介……といっても苦手な人も多いだろうから起立して名前を云うだけで良い。じゃあ廊下の端っこから頼むよ」

 目配せをした白井先生の視線を受けて、あ行の生徒から順に名乗るだけの自己紹介が始まった。

 白井先生が白衣を着ている理由はこの後すぐに判明した。

 ただの防寒対策なのだそう。

 どうやら冷え性の女子並みに寒がりなようだ。

 しかし後に親しくなって本当の意味を知る。そうはいっても大した理由じゃあなかった。

 文系ながらに化学が好きで、化学教師に憧れ、せめてもと白衣を纏っているのだそうだ。

 風変わりな先生だ。

 この風変わりな教師が担任になったことにより、俺の高校生活はどうなっていくのだろう。

 それこそ期待と不安で胸がドキドキした。

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