第11話 宝の守護者は壁の中


 エレベーターの降下が止まったのは、階数表示が地下十二階を示した直後だった。


「島の支配者はどうやら毒で一杯の海底においでらしい」


 俺とギランは扉が開くと、左右の壁に貼りついて中の気配をうかがった。


「人の気配がないな……」


 俺たちは意を決すると、エレベーターの箱から外の空間へと足を踏みだした。


「なんだここは……」


 俺は思わず絶句した。俺たちが辿りついたのは全く凹凸のない箱のような空間だった。


『お前たちか。我がシステムに干渉したのは』


 突然、部屋全体に音声がこだまし、俺たちは身を固くした。


「せっかく王様に拝謁できたと思ったら、声だけかい。用心深いんだな」


『わたしはプレジデント・マイダス。この島のメインサーバーだ』


「なるほど、俺たちは王様の腹の中ってわけだ。客たちからイカサマで巻き上げた財宝を返してもらいに来たぜ」


『それは無理だ。この島のあらゆる財は世と我が僕たちのために消費されている。人工知能は人間のように無意味な蓄財は行わない』


「さっきギランが勝ったのを見たろう?あいにく手ぶらで帰るわけにはいかないんだ」


『お前たちはこの部屋から出ることすらできない。記憶を消され、王国の僕となるのだ』


 王の厳かな宣告と共に壁から複数の小型レーザーが出現し、俺たちに狙いを定めた。


『撃て』


 声がそう言い放った瞬間、俺の目はのっぺらぼうの壁に光る一点があるのを捕えた。


「ギラン、あれがメインカメラだ!」


 俺が叫ぶと、ギランは速乾性の硬化剤が収められた『水鉄砲』の引鉄を引いた。液体がカメラに命中するのとほぼ同時に、床に伏せた俺たちの頭上をレーザーの光がかすめた。


「――今だ!」


 俺たちは素早く壁際に移動すると、レーザー砲の一つを二人がかりで鷲掴みにした。


「いくぜ、ギラン」

「おうよ」


 俺たちがレーザー砲を力まかせに引き抜くと、壁の一部が剥がれて火花が散った。


「よし、ギラン、ここから中をスキャンするんだ。人間が機械をメンテナンスするためのコンソールがどこかに収納されてるはずだ」


「了解だ。レーザーの方をよろしく頼むぜ」


「ああ、まかせとけって」


 俺は壁の中とケーブルで繋がったままのレーザー砲を抱えると、威嚇するように他のレーザーに狙いを定めた。やがてギランが「あった、これだ」と叫ぶと、モーターの唸りと共に床の一部から譜面台ほどの操作盤がせり出すのが見えた。


「ようし、カネになりそうなデータを全部吸いだしたら機械の胃袋とはおさらばだ」


 ギランは取りだした端末をコンソールの端子に接続すると、パネルの操作を始めた。ギランが吸い出したデータが端末に収まるのを見届けると、俺は抱えていたレーザー砲を放りだした。


『逃げられると思うのか、愚かものどもよ』


「思ってるよ、機械の王様。南西のドックに懐かしき鋼鉄の城が待ってるんでね」


 俺は部屋の主に捨て台詞を残すと、ギランと共に再びエレベーターの中へと舞い戻った。


「……フロアに戻ったら警備員がわんさと待ち構えてるぜ。何か突破策でもあるのか?」


「特にないが、まあ何とかなるだろうよ」


 俺たちは上昇する箱の中で、盗人にふさわしい間の抜けた顔をつき合わせて笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る