第9話 イカサマの女神を落とせ


 愛らしいペットの飼い主はジェイドという偽造を生業とする人物だった。


「ふん、ラルゴから聞いたのか。どうりで首尾よくわしを引っ張りだせたわけだ。普通の流れ者なら死んどるところだ」


 ジェイドは髭をさすると、俺たちを値踏みするような目で見た。ジェイドの店は地盤沈下でできたクレバスによって周囲から隔絶された土地にあった。半径数百メートル足らずのテーブル型台地には、武器などの非合法アイテムを都合する店がひしめいていた。


「で?IDの偽造は受けてもらえるのかな」


「受けても構わんが、勝負の行方までは保証できん。もちろん、うまくお宝を手にした場合はそれなりの報酬を頂こう。拒否すればお前さんたちは『商品」として出荷される」


「いいだろう。どのみち金持ちになるか毒の海に沈むかの二択だ。とびきり高品質な奴を頼むぜ」


 俺があいさつ代わりの酒瓶を手渡すと、ジェイドは口の端を吊り上げながら「よかろう、地獄の門もフリーで通れる奴をこしらえてやる」と返した。


                  ※


「恐れ入ります、入店許可証を提示してください」


 入念なボディチェックの後、黒ずくめの受付係に慇懃に告げられた俺は、堂々と『本物』の入店許可証を提示した。


「……結構です。どうぞおはいりください」


 何のお咎めもなしに関所をかいくぐった俺とギランは、フロアに足を踏みいれるや否や目にもとまらぬ速さで『本物』の入店許可証とジェイドがこしらえた偽物とをすり変えた。これで思考をスキャンされても本心を読まれることはない。


「どうする?この『本物』は」


 ギランが正規の入店許可証をちらつかせながら俺に尋ねた。


「捨てちまいな。もうこいつはお役目ご免だ」


 俺たちはゴミ箱に許可証を放り込むと、二手に分かれた。俺はスロットマシンの方に、ギランはメインのミッションであるルーレットの方へと向かった。


 俺はスロットマシンでちまちまと遊んだり、施しのつもりでカードをやったりと手持ちの軍資金を減らしつつギランが胴元の懐に入り込むのを待った。


 ギャンブルの類を一切しない眩三は、逃亡の手助けをするため店外の車両で待機している。計画としてはギランがほどほどに負け、最後の大勝負で逆転する、という筋書きだ。


 胴元が百パーセント勝つプログラムをひっくり返すのだから、奴らも心中穏やかではいられないだろう。当然、秘密がたっぷり詰まった『奥の間』へと案内されるはずだ。


 俺たちにとってはそこからが本当の『勝負』なのだ。ギランの身柄が拘束されたら、俺がフロアで騒ぎを起こす。後は自力で脱出したギランと共にさらに中枢をめざし、最終的には店の――ひいてはこの島全体を統べる黒幕氏に謁見を乞うという流れだった。


 相変わらず大した武装もない俺たちだが、まあなんとかなる。どの道しくじってお宝を手に入れ損ねたら、この島の近海に沈められて旅を強制的に終了させられてしまうのだ。

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