となりの花は赤い?

「熊川、お前すげえな」

「う、うん。まあね」


 お昼休み、同僚が、僕の隣にお盆を置く。


 交際日ゼロ婚で、新居まで手に入れて、新婚旅行も終えている。

 まだ、ロクに手さえ握れないけれど。


「愛妻弁当かー。随分と作ってもらってないなぁ」

「これね、二人で作り合いっこしたんだ」


 どっちも同じ献立なのだが。


「それでもいいじゃねえか。仲良しってのはサイコーだ」


 僕たちが結婚したことは、社内で知れ渡っている。


 ウソやサギの類いではないと確信できた。


 まあ、社長はそんな人じゃないってわかっているけど。


「ダンナサマの先輩から、ひとこと言わせてもらうとだなぁ」

 左手の指輪をこれ見よがしにきらめかせ、同僚がおせっかいを飛ばしてくる。


「イクメンとか家事とかを手伝っても、今ドキ自慢にもならんぞ。逆に『やって当然だから!』って反論が飛んでくるぞ」

「SNS でよくそういった論争するよね」


 家事分担など、僕たちはあらかじめ決めていた。

 また、同僚のアドバイスを借りるかもな。


「まあ、お前んとこは大丈夫だろう」

「どういうこと?」

「マンネリ化には、まだ早いってコト」


 そうなんだろうか。まあ、まだ結婚して間がないし。


「何もかも新鮮だろ?」

「うん。毎日が楽しくて仕方ない」

「だよなぁ」


 同僚の箸が、不意に止まった。

 ラーメンを咀嚼しながら、遠い目になる。


「そう思っていた時代が、オレにもあったよ」


 格闘マンガの悟りきった主人公みたいなコトを、同僚が言い出す。


 結婚は、かくも人を灰色にしてしまうのか?


「子どもができたら、そっちにベッタリ。隣の息子がお受験すると聞けば、うちもうちもと騒ぎだし。カエルの子はカエルだってのによ」

 同僚が、ため息をスープと共に飲み込む。


 これ以上会話すると、同僚が暗黒面に墜ちていきそうだ。

 この話はお開きにした方がいいね。



 夕方、僕たち夫婦は社長を囲んで、自宅で飲み会をした。


 社長にも相談してみたが、同じようにため息をつかれる。


「よし。人生でもっとも不幸になる秘訣を教えよう」


「お願いします」


「自分を、人と比較することだ」


 これは、どのビジネス書でも必ずと行っていいほど出る言葉だそうだ。


「人と比べどうする? キミらの人生は、キミらのものでしかない。いちいち他人と自分を比べても、他人は他人の人生を歩んでいるだけだ。迎合する必要はない。もちろん、私の家庭も参考にはできても指標にはならんぞ」


 収入や住む環境が違いすぎる。

 そんな人と比べても惨めになるだけか。


「過去の自分と向き合えばいいじゃないか。昨日より少しでも成長しているなら」

「そうなんですかね? 僕は、昨日より幸せですが」

「……十分だよ」


 とにかく、周りが色々と言ってくるだろうがいちいち反応するな、とコメントをもらう。


 僕たちには、ボクたちなりの生き方があるよね。

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