新婚一ヶ月目のファーストキス

 今日は、会社はない。一緒に外でデートしている。


「久しぶりに、のんびりできますね」

「そ、そうだね!」

「どうかしました? 様子が変ですが」

「ちっとも、変じゃないよ! うん」


 映画館を前にして、せっちゃんが察する。

「もしかして、ホラーは苦手でしたか?」


「ちち違うよ。違うって!」

「チケット代を払ってしまっていますが、変えましょうか?」

「これがいい! ずっと楽しみだったんだ。見に行こう!」


「わかりました」


 せっちゃんは、僕が怖がりかもと疑っているみたい。


 しかし、僕はまったく別のことを考えていた。


 これまで僕たちは、キスもろくにしていない。


 男女交際期間で言えば、まだ一ヶ月くらいってところだ。

 勇気が出ないのは、仕方ないのかも。


 だけど、今日こそキスしたいな。

 不意に、誰かから手を掴まれた。


「ひゃあああ!」

「あああ、ごめんなさいい!」


 怖いシーンで、せっちゃんが手を握ってきたのだ。


「いやなんでもなくてわあああああ!」


 スクリーンでは怖い顔がドアップで映り込み、僕たちはダブルで叫んでしまう。

 思わずポップコーンを投げ飛ばしそうに。


 映画館を出ると、二人ともゲッソリしていた。


「怖かったですぅ」

 といいつつ、せっちゃんは楽しそうである。


「夕飯はどこにしようか?」

「中華にしましょう」


 僕はせっちゃんに連れられて、中華屋へ。

 それも、チェーン店だ。


 せっちゃんは、ガンガンにニンニクが利いているギョーザを、ラーメンと一緒に吸い込む。


 普通の男性なら、引くかも知れない。

 でも僕は、おいしそうにたべるせっちゃんを見るのが大好きなんだ。

 この店も、僕が教えたし。

 スカイレストランだと、雰囲気だけで疲れてしまう。


「ここ、ムードも何もないけどおいしくて好きです。康夫さんも、よく食べる私を気にしないでくれます。だから、うれしいです」

「うん。ジャンジャン食べよう」


 こうなったら、お互いニンニクだ。僕も食べちゃおう。


 その後は、夜景を見に行った。


 今日も、キスできなかったな。このスポットも、本当は。


「せっちゃんあのね」


 僕は、ちゃんとキスがしたいと告げようとした。


 グイッ、とボクは引っ張られる。



 その勢いのまま、唇が重なった。



 僕の時間が数秒止まる。



「ぷはあ!」

 息を止めていたのか、せっちゃんは僕から離れると深呼吸をした。また、ボクを抱き寄せる。



「知ってました。キスしたがっていたの。だから私、気にしないで欲しくて」



「せっちゃん」


「私に遠慮なんていりません。ムードも気にしないで。いつもどおり接して。選んでくれただけで、とってもうれしいんです。大好きです」


「ありがとうございます、せっちゃん」


 今度はちゃんと、僕がリードできた。

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