二章

変わる運命の結末は

第17話






***シスSIDE



 よしっと。今回のデザインは自信がある。この頃、デザインを持って行くと、「良い」とか、「前より良くなってる」とか、言ってくれるようになった。でも、たまにだけど。


 書類を揃え時計を見ると、針は四時をさしていた。

 こんな時間に、社長室に行っても大丈夫かな? 社長、帰ってたりしないかな? でも、悩んでいても仕方ない! まず行ってみよう! と、シスは社長室を目指した。


社長室の扉の前に立ち、ノックをしようと拳をつくる。すると、『あなた、社長にご用が?』と誰かに話し掛けられた。シスは、ノックするのを止めて後ろを振り返る。


「はい。……少し見てもらいたいものがあって」


『社長、今日は自宅出勤です』


「あ、そうですか」


『よろしければ、これ住所です』

 そう言って、女性は名刺みたいな紙を手渡した。


『訪ねて来る者がいれば、これを渡せと言われているので』


「あなたは……?」


『私は、社長の秘書を務めさせていただいている者です』

 なるほど、秘書さんか。だから住所を知っているんだ。シスは秘書にお礼を言い、タクシーで渡された住所へと向かった。






『到着しました』 

 そう運転手さんに言われ、窓から外を見渡すと


「――え」

 驚いた。驚きのあまり、ただ見つめるだけで、言葉もなにも出なかった。天まで届くんじゃないかってほど高いマンション。壁一面が鏡のように光っていて近未来的、こんな所、私みたいな人間が入るなんて恥ずかしいくらい。社長のマンションはオートロック式で、秘書に渡された紙を見ながら番号を打ち込む。そして大きな扉を抜けた瞬間に目に飛び込んできた床にびっしり敷き詰められた天然石に、ど真ん中にある大きな螺旋らせん階段。上には金色に縁取られた、いかにも高級そうなシャンデリア風の照明。そんな光景を見るだけで、手に汗が滲む。


 初めて入った高級マンションに悪戦苦闘しながら、やっと社長の部屋を探し出せた。

 

 あぁ……ここかぁ。疲れたあー。一体ここに着くまで何分かかったんだか……。


 インターホンを鳴らして、社長が出てくるのを待つ。するとガチャ、という音と同時にドアが開いた。そこには、いつものスーツ姿ではなく、ラフな格好をしている社長がいた。髪もそんなに整えてはなく、ふわふわなナチュラルの髪だった。


「社長、今日は家にい……る……」 


 へ? え? は?

 

 私の顔を見た瞬間、社長は開けた扉をまた閉めたのだ。ど、どどど、どういうこと!? また閉めるってどういうこと!? 私の顔は見たくないと? もう帰れと? あ~そうですか、そうですか。すみませんでした!!!


 そして、シスがその場を去ろうとするとガチャ、と扉が開いた。すると、社長がまた出て来た。ぼーっと突っ立っている私に社長は「入って」と首を曲げて訴えた。


 わわわたしを、いじめているんですか!?


『ちょっと玄関が散らかってたから、片づけただけ』

 社長は、私の心の声を聞いたかのように、私が安心する言葉を言った。


「あ……そうだったんですね。ちょっと、心配になりました」

 あはは、と笑いながらシスは中に入った。薄黒いフローリングの廊下を抜けると、だだっ広いリビングがシスを出迎えてくれた。一面ガラス張り。こんなの、ドラマでしか見たことないよぅ。


 真ん中にある大きなソファ。そこから離れたところにある壁に引っ付いているテレビ。部屋のあちこちには観葉植物があって、外にはベランダがある。お洒落な黒のライトも垂れ下がってるし、男性の住んでいる部屋には全く見えない。視点が一点に定まっていない私に「で、何の用?」と、社長が訪ねて来た。


「デザインをチェックしてもらおうとして社長室に行ったんですけど、秘書さんに会って、家にいると教えてもらったもので。……なので来ました」


『あ、そう』 

 社長は大きなソファに腰かけた。それを見たシスも社長の隣に座る。


「考えたのが……こちらです」


『ふーん』

 手を口元に当て、じっくりと書類を見ている。今回はどうだろうか……。YESをもらえるかな。社長の顔を穴が開くほど見つめるシス。時間が経てば経つほど、シスの心拍数はバイクのエンジン音のように速くなっていく。


『シス』


「はい……」

 すると、社長はシスの方を向き、『今までで一番いいよ』と言って、シスの頭を撫でた。シスは目をぱちくりする。なんでだろう、さっきより心拍数がめっちゃ速くなってる!? やめて、やめて! これ以上速くならないで! 聞こえたらどうするの?


『これなら、部長にも一発OK貰えるんじゃない?』

 今まで見たことない位の優しい笑顔。社長が歯をだして微笑んでいるのなんて、初めて見た。前褒めてもらった時なんて、無表情のまま、ただ言葉を放ったって感じだったのに。


社長、笑えるんだぁ。


 シスは、初めて見た社長の優しい微笑みを目に焼き付けるくらい見つめていると、何かに気付いたのか社長は、シスの頭をなでていた手を見て、はっとした表情を漏らした。その瞬間、まばたきが多くなり、なでていた手をすぐにしまった。


『あ、あ、明日、部長に見せてみて』


「はい、分かりました。……あ、じゃあ、私帰りますね」


 自分の家に帰ってきた瞬間、さっきまでの疲れと、緊張が一気に襲って来た。

 私、なんでそんなに緊張してたのかな? 


 すると、社長の顔を思い出したと同時に、頭をなでてもらっていた時のことを思い出した。かぁぁぁぁ! 思いだすだけで頬が熱くなる。心拍数も速かったし、なに社長に緊張してんの、私。気を紛らわそうと、シスはテレビを点ける。


『……の台風が韓国に接近しています。この台風は……』


 台風かぁ。

 夏の暑さも和らいできて、秋に徐々に近づいている。秋だから、台風も発生するよね。ベランダに出て、消えかかっている太陽を眺めた。



ぽつ……ぽつ…… 


「ん? もう雨?」

 台風の始まりかな。あ~あ、今日も疲れたから早く寝よっと。シスは部屋に戻り、カーテンを閉め、お風呂に入り、寝る準備をした。




 強い雨の音で目覚めたシス。外を見ると、真っ白な風景が目に飛び込んできた。雨が強すぎて、白く見えるのだ。


「うわぁ~これは凄いことになりようだ~」







***チェギョンSIDE




 リビングのソファに腰かけ、本を読みながら脚を組む。ふと外を見ると、ガラス窓に雨が張り付いて、いつもの綺麗な夜景なんて見えない。建物のガラスが割れたり、土砂崩れが起きたり、川の氾濫が起きたりと、この台風での影響は凄まじいものになっているとニュースで聞いた。ニュースを見ても、いつも報道しているのは台風のことだけ。


 はぁ、本に集中できない。雨音が強すぎて、本に集中できない。

 

 本をテーブルに置き、立ち上がってストレッチしていると、ピンポーン、とチャイムが鳴った。

 

 ん? こんな夜遅くに誰だ? 


インターホンに向かい、顔を確認した。


「!!??」

 そこに映っていたのは、濡れているシスだった。それを見た瞬間、僕はすぐに鍵を開けた。扉を開くと、髪も服も濡れているシスがいて、何を言ったらいいか分からなかった。


「ど、どうした?」


『あの……お願いがあるんですけど。その、少しの間……泊まらせて頂けませんか?』

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