第18話 シスはチェギョンに、



 泊まるって……ここに泊まるってことだよな? 

 僕が少し黙っていると、「やっぱり、駄目ですよね」とシスが言った。


『いや。そういうことじゃなくて……いいから入って』 

 シスは一瞬、ほっとした表情を見せた。僕はシスを中に入れた。


 話を聞くと、台風のせいでシスが住んでいるマンションのガラスが割れたという。また、シスの部屋は最上階なので、雨漏れもなったらしい。


『直るには二週間かかるらしくて、その間、泊まるところが必要なんです』


「で、泊まるところが僕の家?」


『そう……なんです。最初は別の人の所に行こうと思ったんですけど、その人の連絡先知らなくて、たまたま家を知っているのが社長しかいなかったんです』


シスのお願いを断ることが出来ず、泊まることを許可した。


「なら最初、お風呂入って来な? 濡れたままだと風邪引くよ」

 そうですね、と言うシスをお風呂場まで案内した。


『お風呂、ありがとうございました』と、お風呂から上がって来たシスを見て焦る僕がいた。死神になって以来、恋したことも無ければ、女性を家に呼んだこともない。まさか、初めての人がシスなんて。




 会社の出口で、僕はシスを待っていた。出口から出て来たシスを見てチェギョンは声をかけた。


「シス」

 シスは驚いた顔をして、こちらまで走って来た。


『しゃちょ……あ、チェギョンさん、何でここに?』


「ん? 一緒に帰ろうと思って」


『私と、ですか?』


「何で驚く? 一緒に住んでるのに」


『一緒に……! あ、あ……そうでした、忘れてました』


すると『シス!』と、どこからかシスを呼ぶ声が聞こえた。


『ジンホ!?』

 シスの方に向かって歩いてくる男を、シスは驚いたような目で見つめていた。誰だこいつ。そして、なんか見たことある顔だ。


『シス、また会ったね』


『な、何でジンホが、この会社にいるの?』


『何でって、この会社っで働いてるからね』


『えっ……そうだったの』


 なんの話だ? 二人はどこかで会ったことがあるのか?


『あっっ!!』

 男が僕の方を見て、声を上げた。


『あなた、あ、先輩。こんにちは』


 僕が……先輩?


『この前、会いましたよね、覚えてます?』

 僕は何も言わず、その男の顔を不思議に眺めついた。


『中庭で……あ~先輩はあの時、本読んでました!』


 ん?


――この本、良いですよね


そう話しかけて来た奴がいた。まさか、


「あの時の……?」


『そうです! あの時は軽々しく話しかけてしまってすみませんでした』


「いえ、大丈夫です」


『で、シス。何でこの人といるの?』


『あ……それは家が「シスは俺の彼女なので」  

 僕は、シスの話を遮ってそう言った。その言葉に驚いているシスの手をとり、恋人繋ぎしてみせた。それを見たジンホという男は一瞬、眉間にしわを寄せたことを僕は見逃さなかった。


『そうでしたか。なら、俺は先に失礼します』 

 そういって男は小走りに去っていた。


『チェギョンさんっ!』


「何」


『何であんな嘘を?』


「別にいいじゃん」


『別によく……ないです』


「あいつには嘘を吐いていた方がいい。帰るよ」







***シスSIDE



 こうやって社長の隣を歩いていると、まるで私が勇者みたいに思える。通り過ぎる人たちがちらっと見てくる。……カップルだって思われてたりしない? でも、事実じゃないけど、そう思われて居たら嬉しい。今日見た月は、真珠のように輝いていた。


 社長の家にいて、ある変な事に気が付いた。


「社長。ここの家って、冷蔵庫ないんですか?」


『冷蔵庫? ないけど』

 冷蔵庫がない家なんてある? 普通あるでしょ。


「じゃあ、料理作らないんですか?」


『うん』


「でも、夕ご飯、食べなきゃですよね?」


『うん』


 話を聞いたら、自炊はしないらしい。買うから冷蔵庫はいらないと。なんて不思議な人だ。普通は自炊しなくても買うのにな。ないと不便だし……。


「なら、私が作ります」


『は?』


「住まわせてくれてるし、それくらいしないと」

 シスは急いで出ていった。帰ってきたらすぐ、調理に取り掛かり、料理はすぐに出来上がった。


「食べてください」

 社長はおいしいと言ってくれた。この際だから、色々聞いてみようと思った。


「社長は……」


『チェギョン、ね』

 そうだった、社長室以外は名前で呼ぶんだった。でもそれって家でもなの?


「家でもですか?」


『うん、社長室以外って言ったよね?』


「はい、そうですけどぉ」


 社長ってやっぱり不思議だ。急に冷たくなったり、急に優しくなったり……。今だって、冷たい社長を想像していたら、優しい社長だった。そんなんだから私の心が……奪われそうになるんだよね。


 え……私、社長に……恋してるの?








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