第34話 生徒会選挙

 春休みも終わり、4月、ついに新学期である。クラス替えも行われたが、関都・城之内・慈美子はまたしても同じクラスになった。慈美子と関都が同じクラスになったのは偶然だが、城之内と関都が同じクラスになったのは、城之内が理事長に賄賂を渡して同じクラスにして貰ったからである。残念ながら三バカトリオは他のクラスに散り散りになってしまった。しかし、城之内にとって、それはどうでも良い事であった。

 関都は進級して新規一転し、慈美子と一緒に学校の階段下で感傷に浸っていた。


「いよいよ新学期か~。感無量だなぁ…」

「ええそうね!新学期は目標があるの!」

「目標?」

「ええ!生徒会長になる事よ!」


 慈美子は生徒会長に立候補する事を心に決めていたのだ。この学校を変えたい。そう思ったからだ。

 その会話を聞いていたのはやはり地獄耳の城之内であった。城之内は列に割り込むおばさんのように話に割り込んできた。


「偶然ですわね!わたくしも生徒会長に立候補するつもりですの!」


 たった今決めた事である。慈美子に対抗するためだけに、立候補を決意したのだ。慈美子が関都に告白していた事は城之内の耳にも入っていた。まだ返事を貰っていない事も。そんな慈美子を叩き落とすことで、関都の気を逸らそうという作戦なのだ。

 こうして2人の選挙運動が始まった。慈美子は一生懸命校内を回り演説をしていた。


「授業中の居眠りや読書・携帯弄りなどを無くします!授業中の居眠りや読書・携帯弄りを厳罰化します。注意されても居眠りや読書・携帯弄りを止めない学生は停学処分に出来るように校則を改定します!授業料は皆様の税金で支払われております!そんな授業を居眠りや読書などでサボる事は税金の無駄使い!税金泥棒です!授業中居眠りや読書などをする事は言語道断もっての外です!ですので、わたくしジミー・慈美子は、授業中の居眠りや読書などを無くすように校則を改定いたします!この顔にピンときたら、清き1票を!」


慈美子は政治家のような演説をして回った。そんな中、不穏な空気が漏れる。慈美子の耳によからぬ話が聞こえてきたのだ。


「これってあの人の公約と同じじゃない?」

「あ~!城之内さんでしょ!」


 「その話本当なの!?」と慈美子は他の学生から話を聞いた。それが確かな情報だと知ると、慈美子は城之内の元に向かった。


「わたくし、城之内競子、城之内競子に1票を!清き1票も汚き1票もこのわたくしに!わたくしは、居眠りや読書などで授業をサボる学生を停学にできるように校則を改定いたますわ~!」


 皆から教えて貰った通り、城之内は慈美子と同じ公約を掲げていた。慈美子は怒り心頭である。そんな慈美子の視線を感じ取った城之内の方から慈美子に話しかけてきた。


「地味子さん、何です?わたくしの公約を聞きに来てくださったのかしら?」

「ふざけるんじゃないわよ!私の公約の真似しないでくれる!?」

「ほほほ!公約を真似てはいけないというルールはございませんわ!良い公約は取り入れる。それこそが民主主義って言う物だって思いません?」


 確かに公約を真似てはいけないというルールはない。慈美子は大人しく引き下がるしかなかった。慈美子は他にもいくつも公約を掲げていたが、どれも尽く城之内にパクられてしまうのであった。

 そんな日々が続く中、慈美子は城之内の選挙運動違反を目撃してしまう。


「どうぞ~!お使いになって!」


 なんと城之内は自分の公約と顔と名前が印刷されたうちわを学生に配って回っていたのだ。うちわだけではない。下敷きやノートもである。どれも城之内の顔や名前が印刷されているのだ。


「ちょっと!これは明らかなルール違反じゃない!」

「ほほほほほ!細かい事は気になさらないで!そんなの小さい事ですわ!」


 城之内は慈美子の注意に聞く耳を持たなかった。仕方がないので慈美子は校長室に苦情を入れに行った。慈美子は四脇よわき校長に城之内の取り締まりを要請した。

 四脇校長は弱々しく頷いた。


「分かりました。前向きに対処致します」


 確かにそう言ったのだが、2日経っても城之内は自分の選挙グッズをばら蒔くのを止めない。慈美子は再び四脇校長の元を訪ねた。


「校長先生!どういう事です!城之内さん全然反省してないじゃないですか!」

「すみません。理事長の裁量で大目に見ろと言われまして。こちらとしても口頭で注意する以上の対処はできません」


 それを聞いた慈美子は理事長に直談判する事にした。慈美子は理事長室に行き、この学校の最高責任者である、原句呂はらくろ理事長に物申しに行った。


「理事長さん!どういう事です!どうして城之内さんの不正を許すのですか!」

「ははははは!君は誰だね?」

「わたくしは、ジミー・慈美子と申す者です。今回の生徒会長選挙にも立候補しております!」

「ジミー・慈美子?聞いた事がない名前だね。少なくとも名家の出じゃ無さそうだ」

「家柄は関係ありませんでしょう!?」


 慈美子は丁寧な口調ながらも、トラが吠えるような気迫である。しかし、原句呂理事長はへらへらした表情で全く動じない。マッサージでも受けて寛いでいるかのような笑顔である。


「ふふふ。関係大ありなのだよ。城之内さんの家からは毎年の多額の寄付金を貰っていてね」

「まさか!?賄賂ですか!?」

「ふふふ。寄付金だよ。き・ふ・き・ん!」

「その寄付金を受け取っているから、城之内さんの不正は咎めないって事ですか?!」

「ははは。ようやく分かってきたか。その通りだよ」

「そんなの賄賂と一緒じゃありません!?」

「ははは。悔しかったら君も我が校に寄付すれば良い。城之内家の寄付金以上の額をね」


 その要求に慈美子は「ぐぬぬぬぬ…」と聞こえてきそうな表情で顔をしかめた。原句呂理事長は「しっし!」というジェスチャーをして慈美子を部屋から追い出そうとした。


「ちなみに城之内さんの家は毎年1000万円も寄付して下さっているから悪しからず」


 原句呂理事長のその言葉を耳に受けながら、慈美子は「失礼します」と部屋を後にした。

 そして、1週間後、いよいよ投開票日当日。生徒会長選挙の投票が終わり、いよいよ開票である。結果は、城之内が1位で当選した。慈美子は奇しくも2位での落選であった。しかし、1位との差はダブルスコアであった。

 公約が同じならただの人気投票になってしまう。それなら、グッズをプレゼントして回っていた城之内が圧倒的に有利である。完全に出来レースであった。

 しかし、次の校内放送で場の空気が一気に変わった。


ピンポンパンポン♪


「生徒会長選挙において城之内候補の不正が確認されたため、理事長権限で城之内候補の当選は取り消しとなりました!繰り返します――――」


 その放送を聞いた一同は騒めいた。まるで玉音放送でも聞いた国民のように学生たちはどよめいた。中でも一番驚いたのは他ならぬ城之内である。


「よって、城之内候補の当選は取り消しとなったので、繰り上げ当選で生徒会長は2位のジミー候補の当選となります。繰り返します――――」


 城之内は慌てて女の子走りで理事長の元に駆けていった。理事長は悪びれた様子もなくいたって笑顔である。


「どういう事です?原句呂理事長!」

「どうもこうも先ほどの放送の通りだよ。君の当選は無効!」

「話が違うじゃありあません!?寄付金1000万円返して下さる!?」

「ああ。いいともよ」


 城之内は、「!?」という文字が頭の上に飛び出すような表情になった。まさか、理事長が賄賂から足を洗う気になったのかと仰天した。しかし、違った。


「ついさっき、ジミー家から9000万円の寄付金が振り込まれてね。それで吾輩はそっちに付く事にした」

「なんですって!?」


 トリプルスコアならぬ、ノナプルスコアである。なんと城之内家の9倍もの寄付金をジミー家からされたというのだ。1000万円の寄付金を3年分返金しても十二分におつりがくる額である。


「地味子さんの家のどこからそれほどの財力が!?」


 「まさか闇金!?」という言葉が頭に過った時、それを悟った理事長は頭を振り子のように大きく横に振った。


「ジミー家は大金持ちの君の家程ではないが元々中金持ちだった。しかし、それがつい数日前に逆転した。彼女の家はベンチャー企業でな。石油を掘り当てたんだ。つまり、彼女、ジミー・慈美子は石油王のご令嬢になったという訳だ」


 城之内は言葉も出なかった。そうなのだ。城之内程の大金持ちではなかったが、実は慈美子もお金持ちのお嬢様だったのである。理事長も数日前まで知らなかったが、慈美子の実家はお金持ちだったのである。

慈美子の自己紹介での一礼の仕方が上品だったのも、遊園地の貸し切りチケットを自力で入手できたのも、城之内と同じブランド物のプールバックやサンタビキニを買えたのも、全ては慈美子もお金持ちのお嬢様だったからである。

そんな慈美子の親は、ベンチャー企業の社長で、つい数日前に油田の発掘に成功したのである。これにより、慈美子は城之内を越える超大金持ちになったのだ。


「ジミーさんの家は糞大金持ちだ。君の家では足元にも及ばない。君は1億円を超える寄付金を出せるのか?」


 そう言うと、理事長は「しっし!」というジェスチャーで城之内を理事長室から追い出した。部屋から追い出された城之内は地団駄を踏んだ。


「ぐぅ~!まさかベンチャー企業の社長の娘でしたなんて!」


 金で動く者は必ず金で寝返る。賄賂の鉄則である。

 一方で、慈美子は皆から当選を祝福されるのであった。そこには関都は勿論、三バカトリオもいた。


「おめでとう!」

「おめでとー!」

「おめでとさん!」


 三バカトリオはもはや完全に城之内に愛想を尽かしていた。もう完全に慈美子の味方である。無論、慈美子が石油王の娘になった事は知らない。だが、お金以上のものが3人の中にもあったのだ。


「ふふふ!皆様ありがとう~!頑張って生徒会長務めるわね!」

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