第35話 因果応報

 慈美子が生徒会長になってから3日。学校の空気は変わりつつあった。皆真面目な授業態度をとるようになったのである。その分学生の授業での積極的な発言も増えていた。良い風が、原句呂高校には吹いていた。

 一方、親衛隊の3人はクラスも別々にもなり、もう城之内からは完全に心が離れていた。城之内の横暴な態度にもうついていけなくなったのだ。元親衛隊となった3人は、慈美子への申し訳ない気持ちでいっぱいだった。3人は学校の水飲み場で手を洗っている慈美子の元へ向かった。


「慈美子さん!」

「あら、小美瑠ちゃん!阿諛美ちゃん!小別香ちゃん!」


 3人の顔には明らかに反省の色が見えていた。3人が言葉を濁していると、慈美子の方から優しく語り掛けた。


「ちゃん付けでいいわよ!勿論呼捨てでも!」

「じ、慈美子ちゃん!」


 3人は声を揃えてそう呼んだ。3人とも少し照れくさそうな表情である。慈美子は、そんな3人を暖かい目で見つめた。


「なぁに?小美瑠ちゃん?阿諛美ちゃん?小別香ちゃん?」

「私達、本当にごめんなさい!」

「私も本当にごめんなさい!」

「今まで酷いことしてごめんね!」


 3人は深々と頭を下げた。地面に頭が付きそうな位である。3人は深々と頭を下げて動かなかった。そんな3人の態度に慈美子は動揺し、優しく声を掛けた。


「頭を上げて3人とも!」

「私達、城之内さんの催眠術で操られてたのよ!」

「そうよ!城之内さんの催眠術に洗脳されて仕方がなく従ってたの!」

「城之内さんに催眠術でマインドコントロールされてて逆らえなかったの!」


 3人はあからさまな嘘で言い訳をした。催眠術で操られていたと言うのは真っ赤な嘘である。しかし、そうでも言って言い訳しないと到底許してもらえないと思ったのである。嘘の弁明こそしているが、3人の謝罪の気持ちは本物だった。慈美子にもそれは誠心誠意伝わってきた。

 3人は言い訳をしながらもさらに頭を深く下げる為に土下座した。それを見た慈美子は慌てだす。


「ごめんなさい!」

「何もそこまでしなくても!」

「どうか許して下さい!」

「どうか『許す』って言って下さい!」

「お願いします!」

「え?ええ。許すわ!勿論許します」


 その言葉を聞くと、3人は立ち上がり、改めて深く一礼をしてその場を去って行った。


 季節はまだ4月下旬。関都の返答が得られる5月20日までにはもう暫くある。しかし、慈美子はもう待ちきれなかった。そこである事を思い付く。もう1度告白し直すのだ。

 そうと決めると、慈美子は日記帳を学校に持ってきた。


「関都くん!」

「ん?なんですか?生徒会長!」

「も~その呼び方やめてよ~!」

「ははは!冗談!」

「関都くん!これ読んで欲しいの…」


 そう言うと慈美子は日記を差し出した。この日記には、この1年の関都への気持ちが徒然なるままに書かれている。関都にこの日記を見せ、自分の関都への熱い想いを読み取って貰おうという作戦だ。


「告白の返事…5月まで待ちきれなくて…。この日記に関都くんへの想いが全部こめられてるから…!じゃあ私はこれで!」


 それだけ言い終えると、慈美子は足早に去っていった。関都は「慈美子~!」と呼び声を上げるが、心ここにあらずであった慈美子の耳には届かなかった。

 関都はひとまず日記を持ち帰り、自宅で最初から最後までを熟読した。関都はその日記の内容に涙した。


「こんな事があったのか…」


 関都には慈美子の自分への愛と真心が重々に伝わってきた。だが、関都が涙を流したのは、それだけではない。慈美子が城之内や親衛隊にどれだけ執拗にいじめや嫌がらせを受けていたかが鮮明に書かれていたからだ。


「そんな…まさかこんな事って…」


 そんないじめに全く気が付かなかった関都は激しくショックを受けていた。それと同時に怒りが込み上げてきた。関都は手を固く握りしめ、そのあまりの強さに握りしめた手のひらからは血が流れ出た。


「このまま泣き寝入りはさせない!」


 そう決心した関都は次の日、慈美子を学校の屋上に呼び出した。慈美子はいよいよ返事がもらえると思って大変緊張している。大太鼓を叩かれているように「ドクンドクン」と胸の鼓動が高まっていた。


「慈美子。お前の気持ちは十分伝わった」


 そう言うと、関都は慈美子を強く抱擁し、慈美子の口に激しいキスをした。力強く抱きしめ、慈美子から離れようとしない。慈美子はギャグ漫画だったら鼻血が出そうなくらいのぼせ上った。


「これが僕の気持ちだ…」

「それってOKって事で良いのよね?」

「それを僕の口から言わせる気か?」

「いいえ!私達これで晴れて、恋人同士ね!」


 喜んだのもつかの間。関都は神妙な面持ちになった。慈美子に日記を差し返して、こう述べた。


「酷いいじめを受けていたんだな。ずっと近くに居たのに気が付けなくてすまない…」

「いいの!そんな事は!」

「良くない!これは僕のせめてもの罪滅ぼしだ。それにこのようないじめ被害を繰り返さないためにもこの事は公にすべきだ」


 そういうと関都は弁護士の名刺を差し出した。慈美子は条件反射で受け取る。

 関都はニヒルな笑顔になり、慈美子の耳元でささやいた。


「お前の日記は起こった事から喋った内容まで鮮明に書かれていた。その日の天気や気温までしっかりと。軽く触れる程度だが時事ニュースまでほぼ毎日言及されている。これは十分に証拠能力がある。日記もきちんとした犯罪やいじめの証拠になるんだ。この日記なら間違いなく信憑性が高いと判断されるであろう」


 関都はまるで自分が被害を受けたかのように熱く力説した。それほど慈美子の日記の中身がセンセーショナルだったのである。

 戸惑うような慈美子の表情を見て、関都は強く訴えかけた。


「このまま泣き寝入りしてもいいのか!?これはお前だけの問題じゃない!全てのいじめ被害者の問題だ!このようないじめを無くすためにも、このいじめは公にされるべきなんだ!」


 慈美子は少し迷ったが、「そうね!」とついに決心を固めた。そんな2人の会話をこっそりと影で盗み聞きしている1人の人物が居た…。


 

 元親衛隊の3人は手を繋ぎながら仲良く帰ろうとしていた。その行く手を阻むものが突如襲来した。それは大変恐ろしい顔の城之内!

 

「じょ、城之内さん…」

「呼んできて欲しい人が居ますの…」


 3人は城之内の命令に逆らえなかった。元親衛隊は城之内から手渡されたお金を持って、その人物をある場所に呼び寄せに行った――――。


 一方、慈美子も城之内から呼び出されていた。呼び出されたのは空き家とその塀に囲まれた人気のない空き地である。そんな寂れた場所で「なんの用かしら?」と不思議に待っているとそこに城之内が現れた。


「地味子さん!あなたが隠し持ってる日記帳をこちらに渡して下さるかしら?」

「!」


 そうである。あの時、関都と慈美子の会話をこっそりと影で聞いて居たのはこの城之内その人だったのだ。城之内は慈美子から証拠の日記帳を奪い取ろうとしたのである。


「さぁ。日記帳をお渡しなさい!」

「だめよ!だめだめ~!これは大事な証拠なんだから!」

「ほほほ!そう仰ると思いましたわよ!彼を見てもそんなに強がってられるかしら?」


 そう言うと、城之内の背後から現れたのは見覚えのある男だった。いつの日か関都と対峙した男である。城之内はこの男を元親衛隊に呼びに行かせていたのだった。


「俺の事を忘れちゃいないよな…?」

「あなたは…!中学処刑人の呂美男!」

「誰だそりゃ?」


 その男は拍子抜けした顔をした。間違えた。そっちじゃなかった。そう思ったが、慈美子が言い直す前にその男が自己紹介した。


「ハイホー!俺は『ニット帽の瑠日井』だよ!」

「そうそう!そっちだったわ!そっちだった…!」

「大人しく日記帳を渡した方が身のためだぜ?」

「絶対に渡さないわ!」

「くく!そうこなくっちゃな!そうでなきゃ俺が呼ばれた意味がない!」

「なら、力ずくで奪い取るまでですわ!」


 城之内のその言葉を受け、瑠日井は格闘の構えをした。それを見た慈美子は思わず身構えた。慈美子のそのポーズに瑠日井は「くくくく!!」と大笑いした。


「なんだテメー!やる気か?」

「え、ええ!」

「お前、パンツの履き方を知ってんのか?」


 瑠日井は慈美子を挑発した。まだオムツでも履いているんじゃないかという嫌味である。しかし、慈美子は挑発には乗らず、黙って自慢の長い髪を掻き揚げた。そんな慈美子に腹を立てた瑠日井は臨戦体勢になった。

 そして、瑠日井は翔ぶように跳び回った。あの日の関都の真似である。


「パンツの履き方を知ってるかですって?」

「あばよ、赤髪お下げ!」


ド ン!!!


 勝負はあっという間に着いた。慈美子の顔に瑠日井の飛び蹴りが炸裂した。慈美子はそのまま倒れ込む。


「ほほほほ!おねんねするのはまだ早いですわ!」

「お楽しみはこれからだ!」


 瑠日井は慈美子の三つ編みを掴み上げ、慈美子を吊り上げた。そして、城之内は慈美子の顔に水筒から水を掛けた。ゲホゲホと咳をしながら慈美子は意識を取り戻した。

 瑠日井は三つ編みを引っ張り、慈美子を振り回しながら、慈美子の身体中に蹴りを入れた。


「脆弱!脆弱ゥ!」

「きゃあ!痛い!痛い!いやああああああああ!!!」

「お前、あの関都の彼女なんだってな!お前がボロボロになったら、あの大型ヤンキーも相当悔しがるだろうなああーーー!!」


 そういうと瑠日井は慈美子の顔に思いっきり膝蹴りを加えた。慈美子の顔からは鼻血が垂れている。

 それを見た瑠日井はテンションマックスである


「ハイホー!!はは!なんかいいもんでも見たかぁ?!」


 さらに瑠日井は慈美子の三つ編みを引っ張って慈美子を引きずり回した。そして、瑠日は高い塀の上に仁王立ちした。


「テメエのパンツは何色だーっ!!!」


 瑠日井はトドメと言わんばかりに、倒れている慈美子の上に思いっきり飛び降りて踏みつけようとした。慈美子は死を覚悟した。その瞬間!


「やめろおおーーーー!!!!」


 現れたのは関都!関都は瑠日井に思いっきり体当たりをして、吹っ飛ばした。しかし、瑠日井はすぐに体勢を立て直し、地面を擦りながら立ち止まった。

 関都は鬼のような形相で城之内を睨みつけた。


「城之内、なぜ助けない!?なぜ誰も助けを呼ばない!?」

「なぜも何もそいつを痛めつけて欲しいと金を払って依頼したのは他ならぬこの女だぜ!」


 城之内はバツの悪そうな顔をして俯いている。関都に悪事がバレたのを後ろめたいのだ。しかし、関都は噴火した火山のように大激怒した。


「キサマ!そこまで性根が腐っているとは思わなかったぞ!なぜこんな卑劣な真似を!なぜここまでする!」

「彼方のためですわよ…」

「は?」

「彼方にはその女は相応しくありませんの!その女と一緒になったら彼方は不幸になりますわ!だから!これは彼方のためですのよ!」


 関都は意味が分からなかったし、分かりたくもなかった。関都は城之内の事も友人としては大好きであったが、城之内がここまで性悪だったと知り、幻滅していた。と、同時にこんな者と親しくしていた事を激しく後悔した。

 そんな関都に対し、瑠日井は宣戦布告した。


「決着を付けようぜ、関都さんよ~!」

「決着?決着なら前回付いていただろ。今回はリベンジだろ?」

「ふん!相変わらず減らず口を!パワーアップした俺の力を思い知らせてやる!」

「強くなったのが自分だけだと思うなよ!」


 2人は距離を少し置き、向かい合って対峙した。2人とも独特の構えをしている。だが、瑠日井は構えを崩し、腕組みを始めた。


「なんだ?戦うのをやめたのか?」

「俺がどれだけ強くなったか教えてやるために。テメーにハンデをあげよう」

「ハンデだと?」

「とっておきの大サービスをしてあげるか…!両手を使わないでおいてやるよ。どうだ?」

「両手を?気前が良いんだな。さてと……、こっちから仕掛けても良いか?」

「勿論だよ。お好きなように……」


グワッ!


 関都は翔ぶように跳び、物凄いスピードで正面から瑠日井に盲突進した。その姿は、まるで筋斗雲の様である。しかし、瑠日井はまだ余裕の表情である。


「ばーーーーーーーっ!!!!!!」


バキッ!


 咆哮する瑠日井の右ストレートで、関都は思いっきり殴り飛ばされた。関都は左手でなんとかガードしており、すぐに体勢を立て直した。関都を殴った時の瑠日井の表情はかなり必死であった。関都は苦笑しながら瑠日井に皮肉を言った。


「手は使わないんじゃなかったっけ?」

「……。ふふふ…。サービス期間は終わったのさ…」


 瑠日井がくれたサービス期間は4秒弱くらいだったのだ。ギャグ漫画なら「短すぎるだろ!サービス期間!」と突っ込みが入った所だろう。それもそのはず、手を使わないという宣言は、関都を油断させるためのハッタリだったからである。

 瑠日井は気を取り直して仕切り直した。


「本当の勝負はここからだ」

「ああ!」


 そう言うと、関都は地面を蹴り、塀を蹴り、屋根を蹴り、翔ぶように跳び回った。ふらふらと立ち上がった慈美子は関都を応援する。


「関都くん!頑張って~!!!」


 瑠日井は関都のスピードに付いていけない。瑠日井は必死に防御姿勢をとる。しかし、関都には隙だらけにしか見えなかった。


「足元がお留守ですよ!」


 関都は勢いよく跳び降り、瑠日井の弁慶の泣き所に頭突きした。急所を突かれた瑠日井は脛を押さえて跪いた。関都はすかさず背後に回った。そして瑠日井の両腕を後ろに引っ張り、背中を膝で押さえつけた。瑠日井は海老反りになって動けない。


「勝負あったな!」

「そこまでですわ!」


 関都にストップをかけたのは城之内であった。なんと城之内はフラフラな慈美子を首に絡みつくように押さえつけ、その手にはカッターが握られていた。


「人質とは汚いぞ!そこまで堕ちていたとは見損なったぜ!」

「それ以上抵抗されますと…」

「どうするって言うんだ?まさか、殺すなんて言わないよな?」


 いくら何でも殺すまではしないはずだ。そうタカをくくっていたのだ。しかし、城之内は不敵に笑う。


「それ以上抵抗したらこの女のお下げ髪を両方とも根元から切ってしまいますわ!」

「それだけはやめてえええええ!!」

「ぬううう!卑劣な真似を!」


 関都は仕方がなく、瑠日井を押さえる手を緩めた。すると、瑠日井はすぐさま反撃に出た。関都の腹を思いっきり膝蹴りした。


「ぐほぉっ!」


 関都は思いっきり唾を吐いて倒れ込んだ。瑠日井はさらに倒れた関都を執拗に蹴り続けた。慈美子は悲鳴を上げた。


「やめてえええええええ!!!」

「ほほほほほ!殺しちゃだめですわよ?わたくしの未来の旦那様なんですから!」

「いいや。殺す気でやらせ貰う。それくらいでもこいつは死にゃしねえ!」

「もうやめてえ~!渡すわよ!渡せばいいんでしょう?日記!」

 

 慈美子は懐にしまっていた日記を取り出した。城之内はすぐさま日記を奪い取った。その一瞬、瑠日井の気が緩んだ。関都は瑠日井の首に頭突きした!


「ぎええ!!!」


 瑠日井は舌を垂らして倒れ込んだ。城之内は再び慈美子にカッターを向けた。


「やめなさい関都さん!この女がどうなってもよろしくって?」

「そんな!日記は渡したのに!」

「2人には記憶が無くなってもらわないと困りますわ!」

「つまり記憶が飛ぶほど、痛めつけて良いって事だよなぁ?」


 瑠日井は「けけけ」と不気味に笑いながら、起き上がり、慈美子の顔に飛び蹴りした。慈美子は倒れ込んだ。すかさず、城之内が慈美子の三つ編みを引っ張り上げて、慈美子を立たせた。


「ほほほほほ!片方だけでも切り落としちゃおうかしら?」

「やめろおおおお!!僕は何もしない!僕は抵抗しない!」

「そう。それで良いんだ。抵抗は相手の力を生みますからねえ」


 瑠日井は関都を殺す気まんまんだ。城之内には「関都さんの彼女を殺さない程度に痛めつけて欲しい」としか依頼されていなかったが、瑠日井にはもはやそんな事は関係なかった。慈美子も関都もぶっ殺すつもりである。

瑠日井は空き家の屋根の上に上り、そこから飛び降りて、関都を踏み殺す気だ。


「ト!ド!メ!!!!」

「そこまでよおおお!!!」


 ある人物が関都を庇って関都を押し倒した。瑠日井は地面に着地してしまう。瑠日井はその人物を睨みつけた!


「誰だ!?テメー!」


 その人物は元親衛隊の尾立である。さらに城之内の後ろには五魔寿里と古紙銀茶区も居た。2人は、城之内を押さえつけた。


「何なさいますの、お二方!?」

「関都くん!城之内さんは私達が抑えてるから思う存分戦って!」

「人質なんて汚い真似は私たちがさせないわ!関都くん!あんたの出番よ!」

「おう!」

「離しなさい!離しなさい!この日記にはあなた達の悪事も事さらに書かれてますのよ~!?あなた達の悪事が公にされてもよろしいんですの~!?」

「構わないわ!事実だもの!」

「真実を明らかにして、相応の処分を受ける覚悟よ!」

「それがせめてもの罪滅ぼしだわ!」


 元親衛隊は自分達に不利な証拠でも、いかなる処罰も受け入れる覚悟であった。

 一方、人質の縛りから解放された関都は、凄い気迫である。凄まじい覇気が関都からは感じられた。そのオーラを瞬時に本能的に察知した瑠日井は「ひいいいい!!」と悲鳴を上げて逃げだした。

しかし、関都はすぐに先回りし、瑠日井の前に立ちふさがった。


「どこへ行くつもりだ?まさかションベンなどと言うつもりじゃないだろうな!」

「ちょ、ちょっとトイレに…」


 しかし、関都は聞く耳を持たなかった。関都は思いっきり瑠日井の左わきを蹴り上げた。「ぎゃあ!」という悲鳴と共に、瑠日井は左肩を脱臼した。


「お前たちはやってはならない事をした…。僕は怒ったぞおおおおー!!瑠日井―――!!」


 関都は瑠日井の右わきも蹴り上げ、右肩も脱臼させた。さらに左横腹と、右横腹にも往復キックをお見舞いした。そして首を握りしめて吊るしあげた。

 瑠日井は意識が朦朧としている。そんな瑠日井の顔を水たまりに沈めて目を覚まさせた。


「おいおい、お楽しみはこれからだぜ?」


 関都は「オラオラオラオラオラオラァッ!!!」と声を上げながら、瑠日井の身体中を蹴りで連打した。最後に後頭部にかかと落としを決めると、瑠日井は喘ぎ声を上げながら気絶してしまった。

 それを見た城之内は服を破いて、五魔寿里と古紙銀茶区の拘束から無理やり抜け出した。もうなりふり構わない様子である。そして、城之内はチャッカマンを取り出した。


「こんな日記さえなければ証拠は何もありませんのよ!」


 城之内は日記に火を着けた。さらに、日記の上下縦横全てに着火して日記をあっという間に炎で覆わせた。


「そんな…!」

「ほほほほほ!わたくしの逆転勝ちですわね!」


 城之内は足早にその場を逃げ去った。「待ちなさい!」と元親衛隊は追いかけるが、城之内はタクシーに乗り、その場から逃げ仰せてしまった。

 慈美子は申し訳なさそうな顔で涙を流しながら俯いた。


「ごめんなさい。関都くん。証拠無くなっちゃったわ」

「心配するな。日記は念のため全ページコピーしてある」

「そうだったの!?」

「うん。コピーしてFAXで既に弁護士の先生にも送ってある」

「そうだったの!良かったわぁ!」


 慈美子は気が抜けたようにへたり込んだ。それだけホッっとしたのだ。慈美子は元親衛隊たちにも「ありがとう」とお礼を言った。


「僕をここに呼んでくれたのもあの3人なんだよ。ここで慈美子が瑠日井に狙われているかもしれないって教えてくれたんだ」


 元親衛隊の3人は、城之内がなぜ瑠日井を呼び出したかは知らなかったが、慈美子絡みだと予想し、関都にも連絡していたのだった。

 3人は深くお辞儀をして、その場を後にした。



 次の日、関都と慈美子は、弁護士を通して日記帳のコピーを職員室に提出し、いじめの告発を行った。その時、慈美子は元親衛隊の3人を名指しし、その3人には寛大な対応をお願いした。

 結局、城之内は退学処分になり、元親衛隊は3ヶ月の停学処分で自体は終息した。また、その日記の内容から、原句呂理事長が賄賂を受け取っていたと見なされ、原句呂理事長も解任処分となった。さらに、退学処分となった城之内は両親からも勘当を言い渡された。

 こうして、1年間のいじめ騒動は幕を閉じるのであった。

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