第6話 信頼の絆                  え

「フォー。このお茶美味しいね。」


「ええ。リョクチァというものらしいですよ。」


「へー。どこが卸しているの?」


「兄上が先月、借金を楯に乗っ取ったグリティア商会です。」


「…心が痛むね。」


「そんなの無いでしょうに。」


「今のはクリティカルヒットだったよ。」


俺の言葉を聞いて思案した様子を見せるフォー。そして俺の目を見ながらおもむろに口を開く。


「『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』『そんなの無いでしょうに。』」


唐突なフォーの凶行に俺は驚きを隠せない。


「何してるの?」


「・・・・今のクリティカルヒット群で倒れますかね?せめてHPが半分くらいは削れてくれるといいのですけど。」


「相変わらずキレのあるジョークに兄ちゃん感激だよ。」


「チッ。」


キレのある舌打ちも頂いた。泣きそう。


今俺は第四王子で実妹のフォーのとこで寛いでいる。表向きは勧誘。同じ母から生まれた血縁の絆を駆使して俺の派閥、つまり第一王子派の傘下に下るように説得しているんだ。


・・・ということを理由にお茶を楽しんでいる。


だって勧誘とかそんなの無理だし。妹のことは何でも知っている‥‥とまではいかないけど、それでもフォーは勧誘なんかで靡かないと断言できる。




例え兄の懇願だったとしても、だ。


寧ろ嬉々として兄の顔面を蹴るような子なのだフォーは。哀しいね。どこで教育を問違えたのだろうか。


「やはり教師が悪かったのかな。」


「兄上が何を考えているのか正確には分かりませんが、恐らく兄上の所為でしょうよ。」


「面白い冗談ねフォー。」


「‥‥くたばればいいのに。」


聞こえない聞こえない。聞こえないから何もダメージを受けていない。無傷の俺はそのまま頂いたリョクチァなるものを飲み干す。


うん、美味しい。潰したのはやりすぎだったかな。でも王国から支援金を受け取りながらも、裏金作って遊んでいたしな。潰さなければいけなかったろ。


まったく、世の中ままならないね。


一息ついて、俺は尋ねる。


「フォーは未だ中立派なのか?」



建前上、何百回も尋ねたであろう言葉。すると返ってきたのはため息。その気持ちは分かるけど、俺の顔みてそういうのしないで。傷つく。



「そうですよ。」


「心変わりする気は?」


「ないですね。」


「そうだよね~。一応理由を聞いても?」


「だってワーン兄様もファイーブもどちらが王であろうとどうでもいいですもの。私としては誰が王になろうとすることは変わりませんし、国も大して変わりませんわ。」


分かる。言いたいことは分かる。


先祖たちの努力の結晶だ。無能が王になっても国が回る様な制度と仕事分担があるから、正直誰がなっても良いのだ。


「でもそれは不敬罪に当たっちゃうぞー。」



「ふっ。」


俺の善意の警告に鼻で笑う妹。つらい。



「でも実質そうでしょう?ある程度の能力があれば国を回していけるようなシステムが王国にはありますから、誰が王になっても王国は大丈夫ですわ。それよりも父上や一部の我儘のせいで国を荒らす様な真似は辞めて欲しいですわ。」



「厳しいね。」


俺の言葉にフォーはコップを持ち上げて優雅に笑う。


「私は平和を愛してますから。」


知ってる。


我が愛しい妹であるフォーは平和主義者だ。そしてその平和は、『犠牲を払ってよりよい結果』よりも『なぁなぁで皆幸せ』を重視したもの。真の平和を求める争うよりは、仮初の平和を無限に更新させる。それが一番平和的で、遺恨もなにも残らないからだ。




そしてそんなフォーに救われてる人も大勢いる。






それは低級層の貴族や商人たち。



王の一声で吹き飛んでしまうような立場にいる弱小貴族や商人はフォーの中立派閥に参加しているし、争いを好んでいない文官なんかはずっとフォーに仕えている。




王城の文官としては面倒臭い政争なんかより仕事終わらせてさっさと家帰りたいんだ。愛しい妻と子供と一緒にご飯を食べたいんだよね。なのに一部が勝手に戦うせいで仕事量が増えるから今マジで不機嫌なんだよあいつら。




前も食事中に言い争って仕事時間が押された文官が露骨に兄上と姉上に舌打ちしてたもん。


「気のせいでは?いやあまりの仕事量に舌打ちをしてしまう病にかかったのかもしれませんなハハハハハ!」とか堂々と言えるのはフォーに守られている文官だけだ。




立場は塵と同じぐらい軽いけどフォーの庇護があるから絶対に吹き飛ばせないんだよねアイツら。



そんなことを思っていると心配そうな顔をして俺に声を掛けるフォー。我が妹ながら可愛らしい。



「兄上はどうするんですの?」



「やっぱりワーン兄様を推すかなぁ。」




「王都の治安は維持してくださいよ。」



訂正。俺じゃなくて王都を心配して声を掛けて来たんだわこの娘。



「それは姉上に言ってよ。」




「姉上とでは管轄が違うでしょう?」



確かに。


姉上達騎士団はなんだかんだ言って戦争とか血生臭いこと専門の脳筋なんだ。あからさまな暴漢や殺人鬼なんかには無類の強さを誇るけど、泥棒とか詐欺師とか、知能犯とかプロの暗殺者なんかには無力だ。




頭脳戦がてんで駄目なんだよなぁ。




いや、暗殺者の中には筋肉信者がいるからそれには対処できるかも。でもそれ以外には無力。



それに対して俺の子飼いの奴らは真逆。純粋な戦闘力はカスカスだけど、伝手がパねえ。娼館なんか大体の情報持ってるし、マフィアにいけば犯罪者の情報なんかザックザク。暗殺ギルドはその名の通りならピカイチだし、影に頼めばどんな白い事実もクロにできる。




商人や金融関係の役人なら金さえ握らせたら大体取り寄せてくれる。




王国だけに限れば俺等は絶対に負けないんだよ。。。。今まではな。




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