第5話 裏切りこそ我らが証             ま

1年が経った。王国内は荒れに荒れ、川からは毒が湧き出て、空気は魔に侵され、山は噴火し火達磨。国土は草木も生えぬ砂漠となった。


民達は日々飢えに苦しみ。空からは悪魔が降り注ぎ、人の命は紙きれのように吹き飛んでいく。かつて栄光を誇った王国は煉獄という言葉すら生温い、奈落の底にような国となった。


・・・・なんてことは無く。


静かで平和なままだ。



・・・・というのも冗談で。



裏ではバチバチ戦り合って毎日何かしら人が死んでいる。


皆命を何だと思っているのだろうね。一人一人の命は替えが効かない貴重なものでオンリーワンだというのに、ごみを捨てるのかのようにホイホイと。一体全体どういう教育を受けてきたのか、是非とも親の顔を見てみたいよ。



兄上派の俺のとこにも幾らかの刺客がやってきてる。ハニトラも来たし、賄賂も来たし、正面突破で強襲なんていうのもあった。俺一応王子なんだけど…というか何でこんな簡単に刺客がきてるの?警備仕事しろよ。


ああ、そういえば言ってなかったね。


この一年の間、俺は命を狙われながらもファイーブと敵対し、ワーン兄上を王位に就けさせることに決めた。これには海よりも深く、山よりも高い理由がある。


そもそもファイーブ派の姉上に嫌われているから選択肢が無かったんだよね。


かといって俺も王になりたいわけでもないし。消去法で兄上に付くことにした。


兄上はこの一年で、派閥を急激に成長させている。これは兄上が派閥メイカーとして特段優れているという訳ではなく。そもそも第一王子だから王道と正道を堅実にコツコツ歩んでいけば起こる必然の結果なんだよね。


こういうアドバンテージこそが俺含め多くの貴族が兄上に付いた理由であり、姉上達の『自称平等派』が忌み嫌う格差でもある。


そして俺も折角だからと兄上の役に立とうとファイーブの地盤を積極的に切り崩しにかかってるんだけど、全くうまくいかない。元からそういうの切り崩しが効かない相手の集まりだから成功するわけないんだ。


借金肩代わりしてやるって言っているんだから、素直に裏切ればいいのに裏切らないし。病気の家族を治してやるって言っているのに、意味分からん仁義とか言う理由で寝返らない。


何なんだアイツ等?本当に人間か?自分に厳しすぎるだろ。度重なる失敗に俺は心折れそうだよ。


いや、悲観主義はよくないな。成功する可能性は0ではないのだから。でも0に限りなく近いけどね。簡潔に述べるなら不可能。


いや俺だって色々頑張ったよ?けどファイーブがさぁ。。。


あいつの親友の雪巫女様を借金漬けにしたらS級モンスター狩ってきて金に換えたり、子飼いの精霊について教会と揉めるようにお膳立てしたら聖女様と仲良くなってるし。


意味不明。なんでそういうことするの?素直にくたばってくれへん?




その代わり、S級モンスターを殺したせいで生態系が乱れて、冒険者からの評価は微妙だし、聖女を誑かしたとかで教会と仲悪くなったからトントンかな?聖女なんて死ぬけど教会は組織だから死なないしね。付き合いの長さを考えれば教会が味方になったのは大きい。




・・・・・て思って無理矢理納得しているけど、生態系に影響与えるモンスター討伐するのっておかしいだろ。御伽噺でしか聞いたことねえわ。


あと、取引に応じずに家族を見殺しにした野郎からは恨まれている。俺の所為で弟が死んだんだってさ。俺が弟に病を掛けたというならいざ知らず、治療を拒否したのは他ならぬ兄であるあの野郎なのにね。


自分で選んだ結末だろうに、逆恨みも甚だしいよ。


まあ物騒な計画を建てていたようなので、不幸な事故・・・・・でお亡くなりになりましたが。南無三。


因みに第四王子である俺の実妹フォーは中立派。


俺もそこに入りたかったけど、フォーに拒否られた。俺が入ると漁夫の利を狙っているって思われるかららしい。実妹の歯に衣着せぬ言い方に兄ちゃん涙出たよ。


そしたらキモいて言われた。本気で泣いた。


それでファイーブはというと。


今は暢気に友人と学園に通ってる。エルフの王女と仲良くなったらしい。


アイツがよくつるんでいるのは、エルフの王女、公爵の愛娘、聖女。。。うん、皆女の子だね。アイツの友人女の子しかいないから兄ちゃん心配だわ。


しかも女の子は皆ファイーブを狙っているっていうね。勿論ラブな意味でだ。ファイーブはどうするつもりなんだろうか。このままじゃあいつの交友関係は修羅場になる。いや、今も片足突っ込んでる状況だけれども。


好きな女の子のタイプとか話していると周囲の空気が氷点下になるから恋バナもできないよな。


そんなのさ‥‥‥めっちゃ見てみたいよね。


失礼。本人にとっては地獄か。

まあそれもそれで青春の一環ということで、楽しめばいいと思う。


それで俺の目の前で修羅場ショーを見せてくれ。


そんなわけでファイーブ第五王子様は青春真っ盛り。兄として是非とも楽しんでくれればと思う。


ただ一つだけ問題を挙げるとするならば。


そもそもファイーブは自分が旗頭である事を知らないのだ。



けどファイーブ本人の与り知らぬところで戦争が始まろうとしてる。



いや本人の齢を考えればそれが普通なんだけどさぁ。。。



でもさぁ。。。。



規模がデカいんだよねぇ。王国の将来とか懸かってんですよねぇ。。



それを未だに知らない旗頭てどうよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る