第4話 優秀な人間は波乱を呼ぶ。          な

食事会が終わり、真っ直ぐ自室に戻る俺。帰りにちょっかいかけることも無く、平和的に帰ることが出来た。良きかな良きかな。


「スリー様。」


「ほわ!?え、お前さっきまであそこに、え!?」


俺の後ろに俺と同年代ぐらいの男が立っていた。

足音消して忍び寄るな。怖いよ。


「どうしました?」


「いや、なんでもない。」


「では、何百回も同じリアクションをして私を笑わせてくれるスリー様。」


おい。お前俺の側近ていう自覚ある?


全身真っ黒な服で俺を出迎えた彼は俺の側近であるシャドーウ。とても優秀な子だ。見ての通りちょっとお茶目だけどね。



「どうでした食事会は。」



「何故か俺がフルボッコにされた。意味不明。」


「なんだいつも通りではないですか。」


「俺君の主人よ?もうちょい気遣ってくれへん?」


シャドーウは優秀だけれども俺への敬意はゼロだ。

ああ、世界よ。俺に優しい人間はいないのか。


「ふっ。」


そう言ったら鼻で笑われた。


その後は今日の食事について俺は側近のシャドーウと軽く話して、ベッドにゴロリと寝そべって父上の言ったことを考えてみる。



父上が初めに言ったファイーブというのは齢9になる第五王子で、その母は知らない。いや確かどこかの放牧民に属する踊り子で、父上が視察先で見初められたんだっけか。


まぁぶっちゃければファイーブは妾腹なのだ。



こう考えると父上マジ屑だな。仕事先で現地妻作って子供産ませるとか正気の沙汰じゃねえや。不倫は勝手にやってろて感じだが、子供産むのは違うだろ。




話を戻すが、公妾に入った第四王妃はファイーブを産んで一年も経たずに死んじまって、詳しいことは良く分からん。死因はストレスだとかなんだとか。あれこれマジ父上糞野郎案件では?



まあそれは置いといて。いや置いといては駄目だが置いといてだ。



ファイーブはいわゆる天才で、クローバー農法とかいう新しい農法で国内の食糧問題を解決したし、不当な借金の取り立てを改革し、一部貴族や商人の市場独占に対して異議を唱えて商売の平等を図り、人身売買組織を潰し、竜巻だがなんだか知らんけど災害を喚き散らしていた第弐級風霊を手懐けて、国内を跋扈していた盗賊団を討伐したとかなんだとか。




まるで違う世界に存在するような知識を持っているし、宰相を唸らせる程聡い政策を進言するし、魔力も王族の中では随一で、魔法も実力が桁違いだ。欲に溺れこともなく、贅沢もせず、常日頃から慈愛溢れる王子として評判である。




あいつに助けられ、そしてその才に惹かれ彼に集う奴は多い。




・・・・すげえ自信失くすわ。なんなのこいつ。同じ父上の子供だよな?



俺なんか三日でダイエット諦めるし、政治なんかからっきしだし、魔術なんて魔具分野でしか人並みになれてないのよ?ファイーブ君は神かなにかですかね?



けどあいつは敵を作りやすいんだ。不当な借金取りは王国法では合法だったし、市場独占はそこまでにこぎつけた貴族や商人の手腕を褒めるべきだろうし、第弐級風霊の災害で家族や暮らしを奪われた奴が多いっていうのに殺さず友人だとかほざいている。


せめて遺族へのサポートはするべきだったし、相手の飯のタネを奪ったんだから角が立たない様に話を付けるべきだった。



なのに後処理一切なし。殴って壊してチャンチャンはい終わり。殴られた奴の、不利益を被った奴の恨みを買わないような根回しもしないんだ。恨みを買っても大抵の奴は返り討ちにできる実力があるから、何もする必要は無いんだね。



あいつは妙に潔癖すぎるきらいがあるし、なのにあっさりと残酷なことを他人にする。そこんとこは年相応なんだよな。



悪は倒してハイ終わり。悪にも生活っていうものがあることを分かっていない。正義は悪にやられても復活シーンがあるけど、悪には無いと思っている。恨みの怖さは暴力以外にあることを未だ知らない子供なんだ。



でも実力は年相応じゃない。優秀だ。兄上が何回か失敗して、学んで、それでようやく正解するような政をあいつは一発でポンポン正解してしまう。まつりごとに正解はないから今のは例え話だけどな。




兄上も優秀なんだけど父上としては是非ファイーブを王に、ていう気持ちがあるっぽい。それが晩餐での一言に帰着する。




「でもあいつの人望偏ってるんだよな。」




「ええ、我らに限らず国民の支持も普通かと。」




姉上が善属性の子飼い(子飼いて言ったら姉上に怒られるが。)で、俺が悪属性の子飼いしかいない様に、ファイーブの子飼い属性は発言力だ。そんな属性あるか知らないけどそういう特徴なんだよね。




アイツは発言力のデカい人間には何故か好かれる。賢者とか王とか、王子である姉上とか、西の冬公爵とかな。けど逆に言えば、そんなものないパンピーからの評価は普通なんだ。




「第五王子、ああ天才なんだろ。天才様様のお陰で国が助かったんだっけか。流石天才様は俺等とちげーよな。」みたいなノリ。国民は表立っては何も言わないけど、内心では面白くないし、同時に嫉妬してる民も結構いる。




王族で、ルックス抜群で、天才で、魔法もピカイチ。この年で大人顔負けの知識と武力。それでこれ以上ないほどの賞讃を王城で受けている。天から5つぐらい貰ってるからな。そりゃあ嫉妬されちゃうわ。



それが人間なんだ。



でも表立って追及するような失態してないから誰も口には出さないんだ。




「才能が有りすぎて嫌われるなんてかわいそうにな。」




「本人の謙遜がまた反感を買っているようですね。」




「ああ、あれは嫌味に聞こえるからなー。」




「遥かに才能がある方に『偶々ですよ。僕はそんな凄くないです。』なんて言われたら努力してきた方にとっては面白くないですよね。」




「努力してきたからこそ、そういう謙遜が何よりも心を折るってことを知らないんだよな。何も悪い事してないのに順調に不興を買うなんて。流石天才だな。」



貴族もファイーブを推す奴は人数でいうなら少ない。


というか脛に疵持っていない貴族なんて絶滅危惧種並に稀だから、ファイーブの清廉潔白で白しか受け付けませんな態度には貴族としては都合が悪いんだ。




支持する貴族は潔癖主義の奴か老獪で自分は安全だと確信してる人間だけだ。




だから国民の多くはファイーブよりも兄上を支持するだろうし、貴族も兄上を支持するだろう。ていうか兄上の母上は帝国の末娘だしな。国の関係を考えると兄上を推す。




しかも兄上はファイーブに遥かに劣るだけで実際無能というわけじゃない。歴代の王と能力値はあまり変わらないんだ。可笑しいのはファイーブなんだ。あいつのステータス絶対バグッてる。∞とかひょいひょい出てきそう。




結局のところ兄上本人が王位につきたがっている以上、態々王位継承戦を起こしてまでファイーブを王座に就かせたいと思う人は少ない。


そう、少ないんだ。


「ただ賢者様や王がファイーブ第五王子を推す以上波乱は免れないかと。」



「ほんとにな。あの二人は政治力学というものを理解して欲しいよ。」


「私の口からはなんとも。。。」


「そこまで争いが欲しいかね~。」




ファイーブ派閥は少ないけれど圧倒的な狂愛でファイーブを支持してる奴がいるから話がややこしいんだ。しかもそいつら発言力強めなんだ。




数では兄上を推す奴が多いけど、発言者の質で言うならファイーブなんだよね。




だから今の王国は波乱を迎える前といっても過言じゃない。なにせ父上や有力者がファイーブを推しているのに大多数は兄上を推している。


これじゃあ国がねじれてしまう。それを防ぐためにお互い票取りに必死だ。


そしてこれは王国全土を巻き込んだ争いにまで発展しそうだね。


嫌だなぁ。




・・・・・・これで父王とか暗殺されたらウケる。



いや、俺はしないよ?


されたら意外性があって面白いね、て話。



「ところでシャドーウ君、ちょっと相談があるんだけど」


「嫌です。」


「‥‥俺まだ何も言って無くない?」


「それでも嫌です。」

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