第2話

「でね!こないだ先輩がね!」

「へー。うん。」


 とにかく女の子は、よく喋るな。こっちはそれ所じゃないのに。

 俺の名前は賢。あの世界的文豪と同じく“けん”って読む。まあ文才どころか語彙力もないけれども。田舎から上京してきて、大学デビュー。服装や髪型もガラッと変えて、初めて彼女が出来て、今日は俺の家に初めて彼女を連れて来た。


「……?賢?あ、なんかごめん。私ばっかり喋ってるし。」

「いや!そんな事はないよ!面白い!それでそれで?」

「うん。あ、での先輩が……。」


 あー……。本当に話はつまらない!でも、可愛い!なんかいい匂いするし。ベッドに座って、隣にいるのに、こんなに近いのに……。手はもうこないだ握ったし……キスとかしたいし、むしろふたりきりで…ベッドだそ?これは……キス以上も。


「みのり……。」


 思わず彼女の名前を呼んだ。みのりは、話すのを辞めると、俺と目が合う。俺の心臓は高鳴った。みのりに、俺の心臓の音、聞こえてんじゃないかな?ってくらい。

 みのりの手を握って、もう一回みのりを見たら、少し顔が赤くなって目を逸らされた。

 

「みのり……。」

「賢……。」


 みのりが目を瞑った。……これだ!今、このタイミングだ!キスするのは!少しずつみのりに顔を……いや、唇を近付ける。あと……もう少し。


『へっ……へくしょん!!!』


 ……え?


『へくしょん!へくしょん!』


 くしゃみ?誰の?

 みのりが、目を開けて笑うのをこらえていた。

「お隣さん?花粉症か風邪かな?」

「……隣?」

 そういえば、お隣さんもひとり暮らしの女人で、地味な感じの人だったような。……え?なんか気まずい!

 キスするタイミングは逃すし、壁が想像以上に薄いんだなぁ。じゃあこの部屋でその……キス以上とか出来ないじゃん!やっぱり、みのりの家?いやでもみのりは実家暮らしだし、それこそご両親が……。ホテルとかどうやって行くんだよ?!てか、仕送りあるけど、ゼミもあるしバイトしてるけどさ、デート代にホテル代……俺、生きていけんのかな?


「そろそろ帰ろうかな。」

「そか。送るよ。」

「うん。ありがとう。」


ーーーーーーー


 みのりを家の前まで送った。

「今日は、本当にありがとう。その、初めて男の子家行ったから、実はずっと緊張しちゃって、ずっと喋っちゃったの。」

 そうだったの?!俺だけじゃなくて、みのりも俺を意識してくれていたのか!なんかすっげぇ嬉しいし、あー……また心臓ドキドキしてきた。みのり……なんて可愛いんだ。これを「愛おしい」って、言うのか?

 俺が、ドキドキしてたら唇に何か触れた。柔らかい。そして……あれ?みのりの顔が目の前にあるぞ?え?……あれ?


「さっき……の続き?じゃあ、また明日大学で!」


 みのりが顔を赤らめて、家の中に入っていった。何もなかったかの様に「ただいまー!」と、みのりの声が聴こえる。


 俺……人生初の彼女と、初のキス。まさか、みのりからしてくるなんて。みのり……意外と積極的?むしろ、まさかの肉食系?!いや、そんなギャップもまた……。てゆーか、柔らかかった!え?キスしたんだよな?!うわっ!あー……やっべえ!うわぁ!


 俺は、地面に悶絶しそうになる衝動を抑えながら歩いて帰った。


ーーーーーーー


 こんな俺だけど、俺も“KEN”のファンで毎日の小説投稿を楽しみにしている。


 今日の小説は、初めて彼女が出来た男の物語だった。正しく今日の俺とリンクしてるみたいで、家に帰ってから今日一日がデジャヴして……みのりとのキスのことを思い出して更にひとりでベッドの上で俺は悶絶していた。


 

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