第17話  どご~~~ん

 二階にあるルシファーの寝室に引っ張り込まれ、どんっとベッドに押し倒されると、いよいよ奏汰は困ってしまう。

「俺はなぁ」

「大丈夫だ。俺様のムスコを挿れるトコまではやらない」

「いやいや」

 そう宣言されてもね。ケダモノと化した男の台詞なんて信用ゼロだよ。

「俺様もこの数日、あれこれ考えたんだ。奏汰はまだまだ男同士であることにハードルを感じている」

「それはまぁ、そうだよ」

 当たり前じゃん。奏汰は頷いた。

 だって、男だよ。受け入れるようには出来ていないわけだよ。

 ってことは、突っ込むのってケツでしょ。

 一杯ハードルがある。

「ということは、だ。まずは男同士でも気持ちいいということを知らなきゃ始まらない」

 奏汰の上に覆い被さったルシファーは、真剣な目で訴えてきた。

「・・・・・・ああ、まあ、うん」

 それは正論であるので反論し難い。奏汰は曖昧に頷いた。

「そこでちょっとした遊びを交えて気持ちいいことを教えようと思ったんだが」

「いや、待て。それがさっきの男体盛りになるのかよ!?」

 お前の思考回路はどうなっているんだと、奏汰はどんっとルシファーの胸を叩く。

 ああ、いつ触ってもいい筋肉しおってからに。

 脱いだら凄いんだろうなあ。

 ベッドに押し倒されているせいか、そこまで考えて顔が赤くなる。

「どうした? ああ、こうやって俺様が上にいる状態が嬉しいのか?」

 ルシファー、いつでもどこでもポジティブ思考だ。おかげで奏汰の頭はすぐに冷静になる。

「なんでそうなるんだよ。大体、男体盛りで何が解るっていうんだ?」

 流されるかと、奏汰はもぞもぞと動いてルシファーの下から脱出しようとした。しかし、どう足掻いても体格差がある。抜け出せない。

「男体盛りでも解ることは一杯ある。例えば」

「うひゃっ」

 するっと脇腹を撫でられ、奏汰はびくっと身体を震わせる。すると、やわやわとそこを撫でられた。

 くすぐったい。

「いや、ひゃひゃっ」

 ルキアが当初笑っていた理由が解った。脇腹攻撃か。

 ってこれ、人類だろうと悪魔だろうとくすぐったいだけだろ。

 しかし、脇腹をくすぐられていると防御が甘くなる。悪戯する手はその間に服の中に潜り込み、するっと胸を撫でた。

「んっ」

 日頃は意識しない場所をくりっと撫でられ、奏汰は不覚にも甘い声を出してしまった。

「ほら、気持ちよくなってきただろ」

「いやいや」

「今日は奏汰のあちこちを撫で回してやるぞ」

「いやいや」

 何その嫌な宣言と思っていたら、そっと唇が首筋に落とされた。そしてやわやわと唇で首筋を撫でられる。そのソフトな触り方に

「あっ」

 奏汰は敏感にも感じてしまう。

「やはり俺様と奏汰は相性抜群だ」

「いや、うぅ」

 嬉しそうなルシファーと、戸惑う奏汰。

 そのままベッドでの愛撫は夜通し続くことになるのだった。



 で、翌朝――

「ううっ。しんどい」

 奏汰は呻いて起きることになった。声もカスカスだ。

 そんな奏汰の横では、満足げに眠るルシファー。しかも、その肉体美を余すところなく晒して、大の字で眠っている。

「っつ」

 その股関に目が行き、奏汰は真っ赤になると落ちていた布団を被せて、視界から遮った。

 アレはやっぱりでかすぎる。さすがは悪魔。規格外だ。

「なっ、んんっ、絶対、無理」

 昨日のあれこれを思い出し、奏汰は頭を抱える。

 ちゃんと約束は守られ、挿入はされなかった。しかしだ、最終目標がアレを受け入れるだと! 無理!!

「気持ち良かったよ。良かったけどさぁ」

 ルシファーの手技は、さすが悪魔と思わせられる、凄くイイものだった。

 でも、これはこれ。それはそれ。あのデカブツを受け入れるだと?

「無理でしょ。入らないって」

「何を言う。毎日頑張って慣らせば入る」

「ぎゃあああ」

 まだ寝ていると思っていたルシファーが突然起きて、奏汰は思わず絶叫。

 それに叫ぶことはないじゃんとルシファーは唇を尖らせる。

「奏汰。昨日の愛撫は気持ちよかったんだろ」

「よ・・・・・・良かったけど」

 顔を真っ赤にし、イき過ぎたせいで怠い腰を思わず擦ってしまう。その反応に、寝転んだままのルシファーはにまにま。

 ああ、めっちゃ可愛かったなあ。

 と、こちらも余韻に浸り中。

「でもさあ、その」

 お尻だよ。と、昨日もちょっとだけ触れられた場所がもぞもぞと違和感を訴える。奏汰はさらに真っ赤になっていた。

 ああ、ヤバい。色々と意識しちゃうよ。

 奏汰はもう恥ずかしくて両手で顔を隠してしまった。

 そんな反応にルシファーは溜め息を吐きつつ

「俺様も奏汰に触れてみて解ったよ。まず、慣らして広げないことにはどうにもならないとな」

 と露骨なことを言う。

 それに奏汰はぎゃああっとルシファー目がけて枕を投げていた。

「慣らす・・・・・・広げる・・・・・・」

 魔界に来た時以上のカルチャーショックを受ける奏汰だ。

 もう、何なの。どうして俺、この悪魔に惚れられたわけ。

「奏汰。お前はなんでそう、セックスに関してだけは嫌そうな反応をするんだ」

 一方、気持ちよかったんだから、もうハードルは随分と下がっただろうと思っていたルシファーは、どこが不満なんだようと頬を膨らませてしまう。

 気持ちいいことの延長線上にあることじゃん。だったらアレだって気持ちいいはずじゃん。

 ルシファーは、むうと尻尾をパタパタ。

「お、お前は尻にさあ」

 そんなルシファーの反応に、抱かれる側の気持ちは解っているのかよと奏汰は言いたい。

 するとルシファー

「俺様、どっちもオッケーだよ。過去に何度か抱かれる側に回ったこともある」

 とけろり。

 マジで。マジか。嘘だろ。

 奏汰はルシファーを凝視。

「だから、挿れても気持ちいいんだって」

「いや、何の説得力もねえわ」

 過去の抱かれたことがあると聞いても、身を任せるのは無理と、断固言い切る奏汰だった。



「うわああ」

「予想していたが、随分と楽しんだようだな」

 さて、なんとか重い身体を起こしてダイニングにやって来た奏汰だったが、ダイニングテーブルの上の大惨事を見てげんなり。一方、ルシファーはこうなるでしょうよとにまにま。

 男体盛りからそのままお楽しみタイムに入ったサタンは、最終的にベルゼビュートを巻き込むことに成功したらしい。

 ルキアを含めて三人の素っ裸な悪魔が、何やらぬめぬめの状態でテーブルの上に転がっている。

「ルシファー様」

 そこにぬらっと現われるベヘモス。その顔に笑顔はなく、マジでお怒りの様子。ルシファーは思わず後ずさり。

「悪魔である以上、欲望に忠実なのは解ります。でも、片付けはしっかりやってくださいませ」

 ベヘモス、ダイニングはセックスをする場所じゃないですからねと、ぎどっと睨んでくる。

 執事としては気品を損なう行為は断固として許せないのだろう。

「も、もちろん」

 で、ルシファー。この執事の怒りには弱いようで、すぐに片付けるさと乾いた笑顔。

「取り敢えず、あの三人を起こさないと」

 奏汰は満足そうに寝てるけどと三人を指差す。っていうか、どいつもこいつも、いい肉体美をしやがって。羽と尻尾があるからか、彫像が三つ転がっているみたいだ。

「それは任せろ」

 ルシファー、そう言うとぱちんと指を弾いた。すると手には巨大クラッカーが現われる。

「ええっと」

「二人とも、耳を塞げ!」

 にまっと笑ったルシファー、巨大クラッカーの紐を容赦なく引っ張った。


 どご~~~ん。


 直後、クラッカーとしてはあり得ない轟音。そして凄い煙。

「げほげほっ。なんつうクラッカーだ」

「ああ。威力としてはバズーカー並に改良してある」

「いやなに、その無駄な改良」

 ルシファーの自慢げな言葉に、奏汰はアホかとツッコミ。ベヘモスはあんぐりと口を開けている。

「敵襲か!」

「天使どものかちこみか!」

「天使ってヤクザですか~?」

 で、寝ていた三人のうち、サタンとベルゼビュートは臨戦態勢で起き上がり、ルキアは呑気な声を上げる。

 ああ、平和だな。魔界って。

「かちこみなわけないだろ。ほら、起きろ!俺様がベヘモスに怒られたじゃないか」

 ルシファー、クラッカーの残骸はぽんと魔法で消して威張るように言う。

 いやいや、元はと言えば、あんたが百万でルキアを買収して男体盛りをやらせたのが問題でしょ。

「ああ、朝なのか。楽しみすぎたぜ」

 サタン、ひょいっとテーブルから飛び降りると

「俺のも試してみるか」

 にかっと奏汰の方を見て笑う。指差すのはもちろんアレだ。

「試しません!」

「させません!」

 奏汰の拒否とルシファーの文句が重なる。それに、サタンはにかっと笑い

「まあいいや。お前らといると楽しいからな」

 と満足そうなのだった。

 やっぱ、サタン、最強!

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