第6話 また悪魔が・・・ってサタン!?

 二日目になろうと、透け透けのパジャマは慣れない。しかも微妙に昨日とデザインが異なっている。一体、この元天使長の悪魔様はこんなパジャマを何着用意したんだ。

「やはりそのパンツで正解だな。人間界の基本スタイルであるというボクサーパンツはどうもダサい」

「・・・・・・そうですか」

 基本スタイルではないが、多くの男子が愛用しているのは間違いないだろう。奏汰はそういうことは知っているのかよと呆れてしまう。

「にしても、大事な部分はきゅっとしてて、他は透け透けかあ」

 寝るだけとはいえ、何だこのスタイル。

 奏汰はベッドに潜り込もうとしたが、ルシファーに止められる。

「さっきまでぐうぐう寝てたじゃないか。なんですぐに寝ようとするんだ」

 ばさっと掛け布団を取られ、さらにぽいっと部屋の隅まで放られてしまい、奏汰は唖然。

「いいだろ。疲れてるの」

「だが、俺様がまだその格好を堪能していないのに、すぐに布団を被るのは止めろ」

「いや、だから鑑賞されたくないし」

 奏汰は身を起こすと、そのまま体育座りをした。見える部分を少しでも減らしたい。ぎゅっと小さく丸まる。

「意地悪だ」

「いや、どっちが」

 むむっと唇を尖らせていたルシファーだが、ふと下半身に目をやる。

 すると、ああ、あそこがいい具合に見えるなあとまじまじ。

「お前、どこを」

 急に黙って真剣な目になるルシファーに、奏汰は危ないとますます自分の身体を抱き寄せる。しかし、それが逆にお尻の部分を無防備にしていることに気づかない。

「いい。良すぎる。今すぐ俺様のアレを突っ込みたい」

「・・・・・・」

 ルシファーの呟きに、ようやくお尻を見ていたと気づく奏汰は、さっさと正座をした。しかし、これだと上半身が無防備だ。

 くぅ、心許ないパジャマめ!

「ああ、いい。そのパジャマの淫靡さを最大限に出せている」

 ふふっと、ルシファーはご満悦だ。しかし、奏汰は枕があったと枕を抱えてみる。が、それさえもルシファーは喜んだ。

「可愛い。ちょっとほっぺたをくっつけて見上げて見せろ」

「なっ」

 さらにポーズ指定までしてきたぞ。究極の変態かよ。奏汰はドン引きだ。

「ほらっ、早く」

「や、やだ」

「拗ねた顔も可愛いなあ。もっと枕をぎゅっとしてみろ」

「・・・・・・」

 何を言っても無駄って凄くないか。奏汰は頭痛がしてきた。しかし、ルシファーは満面の笑み。さらに嬉しいという気持ちと連動して翼がたまにパタパタと動き、尻尾がゆらゆらと揺れている。

「犬か」

 めっちゃ慕ってくるところとかは、ちょっと犬っぽい。奏汰は猫じゃなくて犬に変身すればいいのにと思う。が、思うだけだ。実際に犬になられると怖い気がする。

「おっ、奏汰も俺様の魅力に気づいたか。ならば、我が裸体も見せてやろう」

「ぎゃああああ」

 しかし、最も危ないのは人間スタイルだった。ぷちぷちとワイシャツのボタンを外し始めたルシファーに向け、奏汰は全力で枕を投げつけていた。




「人間って難しいです」

「凄く今更な呟きだな」

 むすっと膨れるルシファーに答えるのは、面白いことになっているとベルゼビュートから報告を受けたサタンだ。屋敷に突撃し、一人でワインを飲んでいたルシファーを捕まえると、根掘り葉掘りこれまでのことを聞き出していた。

「だって、この俺様の伴侶ですよ。サタン王ほどではないとはいえ、何もかも思いのまま。普通は喜んでくれてもいいと思うんですけど」

 どんっとテーブルを叩いて訴えるルシファーはかなり酔っている。しかも面倒な酔っ払いだ。しかし、サタンはそれを楽しむ度量があった。

「お前の伴侶という言葉そのものにハードルがあるんだろ? それはどうするつもりなんだ?」

「それです。めっちゃ困ってます。ベルゼビュートは時間が掛かるって言ってました」

「まあ、掛かるよな」

「そんなっ!?」

 サタンは否定してくれるのでは。そう思っていたルシファーはショックを受ける。そしてぱたんとソファに寝転んだ。さらにいやいやと首を振る。

「お前は可愛いなあ」

「ぐう」

 からかわれている。ルシファーはぐっと拳を握るが、サタンはにやにや。

「そうだな。奏汰の気持ちを知ってみるってのはどうだ?」

 そしてあろうことか、そんなことを言い出す。が、ルシファーはウエルカムだった。

「あ、俺様、どっちも可です。むしろサタン様の胤が飲めるなら、積極的に脱ぎます!」

「意味のねえ奴だな。お前がそういう調子だから奏汰を怒らせるわけだろ。お前さ、奏汰もそうやって自分と同じくウエルカムと足を開いてくれると思ってるだろ」

「ぐぐぅ」

 図星を指されてルシファーは再びソファに沈んだ。

 まさにそのとおり。告白すれば総て上手くいくと思っていました。魔界に呼んじゃえば諦めてくれると思ってました。

「せめて錬金術師でも呼んで、奏汰のご機嫌を取るんだな」

「ええっ!? あんな奴らを?」

「お前は魔法を否定する気か?」

「しませんけど。なんか嫌」

「くくっ。呼んでもいないのに焼き餅か。まあ、奏汰は大学で化学を学ぶ者だ。お前には解らないことで盛り上がるだろうな。そして楽しそうに笑うんだろうなあ」

 サタン、にやにやと笑ってルシファーの心を抉る。抉られたルシファーはぐはっと悶える。

「そんな。俺様を差し置いて盛り上がるだと」

「そもそも、そんな奏汰を見ているのが嫌で、大学まで付いて行ったんだろ。そして悪魔の影響を周囲にふんだんに受けさせた。普通、悪魔と取り引きをしていない人間が、あそこまで嫌悪感を抱かれることはないからな」

「ぐふぅ」

「独占したいってか。ルシファーらしいが、その余裕のなさは嫌われる元だぞ」

「・・・・・・」

 すでに今日、五時間放置されました。

 ルシファーは唇を尖らせると、ワインをボトルから直接呷っていたのだった。




 これは新手の嫌がらせか。朝、目覚めた奏汰はそう思った。

「なんで増えてるんだよ」

 そう、目覚めて横にルシファーがいるだけならば、もう三度目だ。少なからず耐性が出来ている。しかし、なぜか今日は反対側の隣に見知らぬ御仁がいる。ルシファーと同じく整った顔の黒髪の男。

 ええっと、この人はどちら様?

「うん、奏汰。起きたのか」

「ええっと」

 しかもその黒髪の人が起きちゃったんですけど。さらに俺の名前を知ってるんですけど。奏汰はどうリアクションしていいか解らない。

「ふふっ。なるほど。あのルシファーが本気になるわけだ。ビビらない上に可愛い反応。堪らないな」

「・・・・・・」

 一つだけ解った。ルシファーと同類項だ。そしてヤバい奴だ。

 奏汰はずずっとルシファーの方に逃げ、こっちもヤバいんだったと逃げ道がなくて震え上がる。

「寝取るというのも面白そうだな。奏汰、俺に惚れないか?」

「・・・・・・」

 だから、なんで俺、男にモテモテなの? しかもまた悪魔じゃん。

 背中に生えた立派な黒い翼を見て奏汰はドン引き。にしても、俺様キャラのルシファーと違うが、押しの強い奴だ。

「なんだ、俺にもう惚れているのか」

「いいえ」

 そこだけはきっぱり否定させてもらう。奏汰は冷たい視線を男に送った。しかし、男はにやにやと笑うだけ。ええっと、だからこいつ誰?

 奏汰はやっぱりヤバいとルシファーの方に逃げた。すると、どすんっと当たられてようやくルシファーが目覚める。

「ううん、奏汰。いい加減、可愛く起こして」

「バカ、アホ! それよりも変な人がいるんだけど!!」

「変な人?」

 ルシファーはそこでようやく目を開けた。この悪魔、本当に寝起きが悪い。が、奏汰の肩に手を掛ける男を認識して、がばっと起き上がった。

「サタン王! なんで、ここに」

「さ、サタン!!」

 奏汰、とんでもない人物に迫られていたと気づき、絶叫してしまう。が、サタンはにやにや笑う。

「酔い潰れたお前が悪い。仕方ないからベッドまで運んでやった。ついでに奏汰が可愛いから鑑賞していたら、俺もいつの間にか寝てた」

 そしてさらっと理由を明かす

 。って、何やってんの、この悪魔たち。っていうか、俺を鑑賞するの止めてくれない!!

「運んで頂いたのは恐縮であり、非常に嬉しいんですが、奏汰は俺様のものです」

 唖然としている奏汰を、ルシファーはささっと自分の方に引き寄せる。が、サタンは余裕の笑み。

「まだ、だろ。まあ、お前の趣味には付き合っているようだがな」

 抱いてないじゃんとサタンは笑い、奏汰の格好にくすり。その反応に奏汰が恥ずかしい。

「こ、これは、服がない、からで・・・・・・」

 おかげでもごもご言い訳してしまう。

「可愛い」

「なんだ、この初心な反応。悪魔を呼び出す輩とは全く違う」

 そしてそんな奏汰の反応に鼻の下を伸すトップクラスの悪魔二人。

 ああもう、誰かなんとかして!

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