5話 新たな任務

 エリア55の転生者が、再び世界の均衡を崩す様な真似をしている――そう真一兄さんから連絡を受けたあたしは、食料の買い出しを優に任せて単身で向かう事になった。

 前回此処に来た時にも、確か同じ理由で呼び出された。あの時は転生者の暴走を皆で食い止めて、反省するまで説教をしてた気がする。

 しかし今回の依頼、転生者を殺す様に指示されている。……きっと依頼主の国王も堪忍袋の緒が切れた、そういう事なんだろう。まぁ傭兵のあたしには関係ない事だけど。

 あたしは標準装備の突撃銃アサルトライフルの試射をしながら考える。

 前回、転生者を強襲して説教した時にも、本来であれば死んでてもおかしくない猛攻撃を浴びせてしまった。

 だけどあの時、転生者は何て言った? 確か「殺した程度じゃ死なない」とか、お決まりの台詞をドヤ顔で言ってた。

 まったく、流行りの無双系主人公みたいな事を言いおってからに……まぁ実際に死なないみたいだったけど。

 あたしは微調整を終えた突撃銃アサルトライフルをテーブルに置いて、腰に手を当てる。

 M4カービンライフルをベースに、異世界でも立ち回れるような改造を施したこの銃。その名も『スター・グリント』。この銃は本当に良く出来た銃だと改めて感心する。

 標準搭載されたダットサイトとスコープ機能を切り替えられるブースター。前面に備え付けられた4本の20ミリレール。あえてセミオートの機能をキャンセルして、ストック側に付けられた対物ライフルを撃ち出せる狙撃モード。

 どれも使い勝手がいいが、欠点として重量がそこそこある。しかも銃後方に対物ライフルを装備させる都合上、ヘビーバレルになってる所為で余計に重い。そこにオプジョンパーツを着ける訳だから、総重量は結構な事になってしまっている。

 さて、様々なオプションパーツがある中で、あたしがチョイスするのはこれだ。

 左側面にM230単発式グレネードランチャー。右側面にロック機構付きホルスター。そしてホルスターの中にはデザートイーグル。底面にはマスターキーと呼ばれる4発装填出来るショットガンを装備させている。

 これなら遠距離は狙撃ライフルで、中距離は突撃銃アサルトライフルで、近距離は散弾銃ショットガンで、奇襲にグレネードランチャーで、いかなる局面でも戦える。

 しかもオプションパーツは簡単に取り外せる。戦場で必要が無いと判断した瞬間に外す事で軽量化も出来る。

 欠点は通常機構とプルバップ機構を同時に備えてるが故のメンテナンスの難しさだが、そうそう壊れないから気にする必要はない。

「さて、そろそろ行こうかな」あたしはライフルを担ぐと、何処かから聞いてる真一兄さんに声を掛ける。「例の銃弾、完成度はどんな感じ?」

「ボチボチでんな」ノイズ混じりの声で兄さんが返答して来る。何故関西弁なのかは、触れないでおこう。

 あたしは「了解」と適当に返すと、転送するコンソールが置かれた部屋に入る。

 一人で異世界に行くのは久しぶりだ。正直、かなり緊張しているし怖い。

 もしも向こうで致命傷を負ってしまったら? もし交戦中に瀕死になったら? もちろん、掛けつけてくれる仲間なんて居ない。一人で寂しく死ぬ事になるだろう。

 …………。

 あたしは手の震えを押さえる為に、別の事を考える。

 そう言えば、優はしっかりと買い物が出来ただろうか? ……あぁ、余計に不安になってきた。

 だけど不安になるのと同時に、あたしの中で何かが吹っ切れた気がした。何と言うか、考えるだけ無駄かなぁ――みたいな感じ。

 タメ息を吐くと、あたしは兄さんに合図を出す。

 次の瞬間、いつもの様にカウントダウンが始まり、視界が光に覆い隠される。


 眩しさが消えて目を開けると、そこは鉄柵の付いたコンクリートに囲まれた部屋だった。見た感じ、恐らくは牢獄だろう。

「こちら桜、転送完了」小声で無線機に話し掛ける。

「ほいほい、因みにそこは王城の地下牢獄だ」

「何でそんな場所に転送を?」フラッシュライトで周囲を照らしながら、光の無い牢獄内を見渡す。

 異臭が鼻をつく。カビと何かの腐った臭いと、排泄物だろうか?。

 目の前の鉄柵に鍵が掛かっていない、あたしはドアを押しながら周囲にライトを向けた。

「いやな、国王がそこに転送する事を所望してたんよ」

 迎えを寄越すと聞いているぞ――兄さんは何かを弄りながら興味無さそうに言う。

「……くっさい」

「何処の世界でも、ブタ箱なんてそんなモンでしょうよ」

「無実の罪で閉じ込められた人は、訴訟を起こしていいよ。あたしが許す」

 そんな事を話していると、遠くから足音が響いている事に気付き、あたしはライトと無線を切って突撃銃アサルトライフルを構えた。

 足音を聞くに、階段を下って来ているのだろうか。この牢獄はかなり広いらしく、足音の反響した音だけしか聞こえてこない。

 暫く待機してると、遠くにぼんやりと灯が見えてきた。あれが迎えだろうか。

 確証の持てなかったあたしは、向かいの牢屋のベットの下に身を隠して待った。

 ゆっくりと近付いて来た誰かは、あたしが入っていた牢屋を開けて唸り声をあげる。警戒を解かずに声でも掛けてみようか。

 あたしは武器を置いてベットから這い出ると、ナイフを構えながら正面の誰かを羽交い絞めにした。足音は一つだった、仲間は連れていないだろう。

「騒いだら殺す、暴れても殺す」ナイフを喉に突き付けながら、あたしは声を押さえて聞く。「貴方が依頼人?」

「え、えぇ。お迎えに上がりました、異世界傭兵派遣部隊のサクラ様」

「……どうして名前を?」

「依頼の連絡をした際に、フジレストと名乗る方からサクラ様が単身で向かうとご連絡いただいておりました」

 …………。

 富士レスト……兄さんが言ったんだ。

 あたしは構えを解くと、装備を回収してライトを点けた。

 そこには、気の弱そうな女の子が震えながら、怯えた目であたしを見つめていた。格好的に神官だろうか?。

「ごめんなさい、怖がらせちゃったね」あたしは神官ちゃんの頭を軽く撫でた。

「い、いえ! 驚いて怖がってごめんなさい! ……あ! 騒いでごめんなさい! 殺さないでください!」

 わたわたと両手を振りながら、内股になって怯える神官ちゃん。彼女の胸元では、不思議な灯の玉が浮かんでいた。

 とりあえず神官ちゃんが落ち着くまで待ったあたしは、息を整え始めた彼女と共に牢獄を出て行くのだった。

 さぁて、死なない転生者をどうやって仕留めようかな……。

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異世界傭兵派遣部隊~code・blossom~ 水樹 修 @MizukiNao

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