第16話 筋肉痛

「『・・・・・・!!』」

いくつもの山々が点在する山頂の上空を簡辛ガンシンを抱えた、龍人化したチェンが猛スピードで飛行している


・・・あ、あと5秒だ!ロン!!

どこか安全地帯は、ないのか!?


『この辺りにしよう!周囲を見渡したが外敵は、いない!!』


―――よしっ!

なら、あの小川の所へ行こう!!


「『―――っ!!』」

着地地点を決めたチェンがそのまま地上へと急降下する


・・・あと3秒!


・・・・・・2!


・・・1!!


「―――ぐぅゎゎゎーー!!」

『・・・・・・っ!!』

苦痛な叫び声を上げながら地面に倒れ込んだチェンの肉体から龍の鱗の紋様が消え去り、元の身体へと戻っていく


「・・・ハァハァ・・・ハァハァ・・・もう龍人化は、絶対にしない!!」

『そのセリフを聞くのは、何度目だ?もう一度やろうぜ!!』

「―――二度とゴメンだ!!」

うつ伏せで倒れたまま、自分の身体に彫られた悪魔デビルズ刺青モンモンの龍と口喧嘩する


龍人化には、弱点がある!


自分の肉体と精神を全てロンに預け、悪魔デビルズ刺青モンモンの龍と人間の体を一心同体させると龍の力を120%得られ、地上最強の生物となれるが・・・


―――龍人化それには、制限時間がある!!


3分間以上、龍人化しているとチェンの肉体が龍の動作、呼吸、心拍数に耐えきれずに、筋肉や血管が切れてしまい最悪、命を落としてしまう!!


なので龍人化してられるのは、最長でも3分間のみ!


・・・そして

その代償として2、3日の間、全身筋肉痛になり、指を少し動かすだけで全身に電流を浴びたような激痛が走り、一切身動きが取れなくなる!!


・・・こんな寝たきり状態になるからやりたくないんだ!

龍人化するのは、最後の手段!!


―――そんなホイホイしてられるか!!


「・・・チェン、大丈夫アルか?」

「―――簡辛ガンシン!目を覚ましたのか!?」


・・・よ、良かった!

声も元気そうだし、毒手の毒素が薄かったのか・・・!!


「・・・驚いたヨ!意識が戻ったら空を飛んでたネ!!」

起き上がった簡辛ガンシンが興奮しながら喋り続ける


「チェン、説明するネ!さっきの姿は、何ヨ?そんなの出来るなら最初からやってれば・・・」

「・・・えっ!?・・・そ、空?・・・さぁ~一体、何の事?毒による幻覚を見てたんじゃ・・・」

「そんなバレバレのウソは、ワタシには、通用しないネ!!」


・・・チェンの野郎!

惚けやがって!!


何かを隠してるのは、単純明快!

そっちがその気なら、ワタシにも考えがアルネ!!


「オイ、りゅう!さっきのは、何か話すネ!!」


・・・簡辛コイツ

ロンに話を振りやがって、・・・


『黙れ!気安く、我に話し掛けるな!!―――滅ぼすぞ!!』

ロン簡辛ガンシンを威圧する


『知りたくば、大量の供物と生け贄を我に献上しろ!!』


ロンのプライドは、尋常じゃないほどに高い!

人間の頼みなんて絶対に聞いたりは、しないだろうな・・・


「・・・ワタシ、焼肉食べ放題券、持ってるヨ!!」

簡辛メスが見たのは、龍人化したチェンの姿だ!』

「―――ロンのバカ!何で話すんだよ・・・!!」

呆気なく秘密をばらされたチェンが声を荒げる


・・・コイツ

自分の利益の為に龍人化の秘密弱点簡辛ガンシンに喋りやがって・・・


「―――キャハハハーーー!!」

ロンから事情を全て聞いた簡辛ガンシンが転がりながら大笑いする


「・・・だから、そうやって寝そべってる訳ネ!―――ウケル~!!」

「―――痛い痛い痛い痛い・・・!!身体が痺れる!痺れる、痺れる!!痺れるから揺さぶるな~!!」

無邪気に肩を揺さぶって来る簡辛ガンシンへ苦悶な表情を浮かべながら注意する


「・・・でも全身筋肉痛そんな状態で、この後どうする気ネ?」

ロンには、誰もいない安全な場所を探してもらって身を潜めるんだよ!!」

「・・・ふぅ~ん・・・なら、この2、3日は、飲まず食わずで過ごす気だったアルか!?」


・・・クソ~!

簡辛ガンシンの奴、バカにした言い方しやがって・・・!!


・・・けど

正論、過ぎてグゥの音も出ないのが悔しい!!


『―――うっせぇな!焼肉食べ放題券を置いてさっさと失せな!!』

「・・・ハァ?・・・何でヨ!!」

ロンの発言に簡辛ガンシンが反論する


『もう用済みだ!小川の側まで運んでやったんだ!!貴様は、末代まで我に感謝し、小川の水を飲んで小便して毒素を全部、出せ!!』

「―――下品な龍は、黙るネ!ワタシは、チェンと話してるヨ!!」

簡辛ガンシンが顔を真っ赤にして怒る


『もう我らに関わるな!貴様が借金をした店は、もう消え、簡辛メスを縛り付ける物は、何もない!貴様は、自由だ!!』

「こんな状態のチェンを見捨てて行ける筈ないネ!」

『男は、背中で語るものだ!言わなければ解らぬのか?コイツには、地上最強の生物の我がいる!!心配無用!―――消えろ!簡辛メスがっ!!』

ロンが高圧的な口調で脅し、鋭い目つきで睨みつける


「・・・な、何が・・・背中で語るヨ!背中が直接、喋ってるクセに!!・・・仲間だと思ってたのは、ワタシだけアルかーー!!」

目に涙を浮かべながら簡辛ガンシンが森の方へ走り去って行く


・・・が、簡辛ガンシン


「・・・ロン、ちょっと言い過ぎたんじゃねーか?泣いてたし、もう少し優しく言えなかったのか!?」

『―――悩んでもしょうがないだろう?切り替えろ!この2、3日どう過ごすかを!!』


ロンは、人間の気持ちが理解できない!


地上最強の生物として産まれたからこそ群れをなして生きる、生物が不思議でしょうがないんだろう!!


「―――ニコッ!!」

簡辛ガンシンが両手いっぱいにドングリを抱え、優しく微笑みながら、戻って来る


「・・・あ、あれ?・・・簡辛ガンシン、どうしたんだ!?」

「・・・・・・」

無言のまま、チェンの身体の上に拾って来たドングリを並べ置いていく


・・・な、何で

何も言わないんだよ?


黙々とドングリを置いて・・・


―――スゲー怖いんだけど!?


「・・・が、簡辛ガンシン?」

「―――直ぐにわかるヨ!!」


・・・ん?

森の奥の方から小動物のような動物の鳴き声が近付いて来るぞ!?


「―――ぎゃぁぁぁーー!!痛い痛い痛い痛い・・・!!」

ドングリの香りに誘われた小さなリスの群れがチェンの身体の上を駆けずり回り、その度に、電流のような痺れと激痛が全身を駆け巡る


「何すんだ!簡辛ガンシン!!止めろ、止めろ~!!」

「・・・ん?・・・言ったよネ!ワタシを縛り付ける物は、何もないって!自由だって!!―――だからワタシも好き勝手させてもらうヨ!!」

全身筋肉痛で動けないチェンの上に満面の笑みでドングリを撒いていく


「痛いって、簡辛ガンシンーー!!それにそれを言ったの俺じゃねーし!!」

「・・・ワタシのことは、ドングリ姫と呼ぶネ!」


・・・何だ?ドングリ姫って!?


―――有り物みたいに言うなっ!!


『とんでもない方法で復讐に来たな!!』


・・・何を呑気に!

誰の所為でこんな目に遭ってると思う!!


「―――ハ~ハッハハハ・・・!!・・・どう?地上最強の生物が地上最弱の生物に襲われる気分は!?」

女王様、気取りの簡辛ガンシンロンを挑発する


「もう~止めて~!復讐する相手は、あってるけど・・・ロンには、全くの無害だから・・・俺が代わりに謝るから許して~!!」

「ゴメンで済んだらドングリ姫は、いらないネ!!」


ドングリ姫は、森の警察なのか!?


「・・・わ、わかった!・・・ロン!!簡辛ガンシンに対してちゃんと謝れーー!!」

『・・・グゥ~・・・グゥ~・・・グゥ~・・・』


・・・ね、寝てるっ!?


この状況で何でお前が寝てんだよ!!


「・・・もし・・・もし・・・!!」

金色の長い髪を靡かせて修道院の修道女の格好をした女性が声を掛けてくる


「・・・どうかされましたか?大丈夫ですか?手を貸しましょうか?」

「「・・・・・・」」

上半身裸の男の体の上に女性がドングリを置く行為を見た、聖女様が純粋で真っ直ぐな瞳で心配そうに訊ねてくる


「・・・助けて~!変態に無理矢理、させられてたネ~!!」

「―――オォォーーイィィ!!聖女様の前で何、堂々と嘘ついてんだよ!!」


・・・いや

それよりも・・・


何でこんな山奥に聖女様が!?

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