第5話

「……セチア!」

「セチアさんっ」

(誰……? 私の名前を呼んでる……)

〈〈セチアー、起きてー〉〉

 複数の声が自分の名を呼んでいる。その声に懐かしさを覚え、重い瞼をゆっくりと開ける。すると、見慣れた大切な人々の顔ぶれが並んでいた。心配そうな表情でアルトラが覗き込む。

「アルトラ……?」

「セチアっ! 無事で良かった」

 ほっとしたように微笑み、そっと頭を撫でられる。その姿は、五歳児の姿ではなく、元の姿に戻っていた。どうやら、ホワイトポインセチアの効果があったようだ。

〈セチア、だいじょーぶ?〉

 コニーがアルトラの肩越しに顔を出した。

 セチアは答える代わりに微笑みながら、ゆっくりと首を縦に振る。

〈よかったー〉

 コニーは、嬉しそうにクルクルとセチアの周りを飛び回った。その横では、ローザとライヒも安堵したような表情を浮かべている。

「ありがとう、愛しのセチア」

 アルトラがセチアの体を抱き起こす。

「アルトラ、どうやって元に?」

「コニーとライヒが大樹の妖精にホワイトポインセチアの煎じ方を聞いてくれて、それをホーリーが作ってくれたんだ」

「そう……。元に戻ってよかった」

 じわりと目頭が熱くなる。そんなセチアを彼は力強く抱き締めた。

「目が覚めて、本当に良かった。ホーリーに運ばれてきた君を見て、生きた心地がしなかったよ」

 彼らの話によると、セチアが姿を消して辺りをホーリー達が探していたら、暫くして気を失ったセチアが大樹の根元で横になっていたそうだ。呼びかけても反応がなく、ホーリーが慌てて運んでくれたのだとか。

「ご、ごめんなさい」

 彼の胸に顔を埋め、小さく謝る。アルトラの温もりが伝わってきて、ほっとする。そして、そっと顔を上げ、大好きな彼を見つめた。

「ねぇ、アルトラ。ホワイトポインセチアの花言葉を知ってる?」

「んー、知らないな。何だい?」

「ふふふ、じゃあ内緒」

 そう言って、彼の首に抱きつく。

(いつまでもあなたが笑顔で、幸せでいられますように……)

 そっと心の中で願いながら、大好きな匂いを胸一杯に吸い込む。それに応えるかのように、彼は力強く抱きしめ返してくれた。

 ふと、彼の肩越しに窓の方へ目を向けると、小さい羽が見えた気がした――――。



 ホワイトポインセチアの花言葉

『あなたの幸福を祈る』

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White Poinsettia(ホワイト ポインセチア) 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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